自動運転車

「博士、今回は何を作っているのですか?」


「見ての通りだ!」


「普通の電気自動車に見えますが」


「うむ。自動運転車だ」


「自動運転車なら世界中の大手自動車メーカーがこぞって作っているではないですか。なにも博士が作らなくても・・・」


「確かに。キミの理想的な自動運転車とはどんなものかね」


「それはまあ、絶対に事故を起こさない安全な車とか。高齢者の運転は危ないですから」


「一理ある。じゃが、買い物ならネットで何でも手に入る時代だ。仕事も学校もテレビ会議を使った在宅型に変わりつつある。バーチャルリアリティーを使った仮想空間の職場や大学も、当たり前になりつつある時代に、わざわざ自動車を使って出かける必要などないではないか」


「それなら博士は何で自動運転車なんて作っているのですか?」


「自動車は今や道具ではない。レジャーそのものだ」


「レジャーですか?例えば」


「キミ、まだ結婚していないだろ」


「ええ、まあ」


「彼女とデートでテレビ電話と言うのはいかにも味気ない」


「まあそうですね」


「気の利いたレストランで食事をして、海の見えるホテルのベランダで夜景を楽しむとか。してみたいだろ」


「いいですね。レストランやホテルを探して予約する機能がついているのですか」


「ばかもの!そんなものはスマートフォンで十分だ」


「ではどんな機能が?」


「出会い機能だ。文明がどんなに進歩しても人間は一人では寂しいものだ。現代人はじかに人と触れ合ったり、コミュニケーションすることを求めているんだ」


「例えばどんな」


「キミ、釣りが趣味と言ってたな」


「はい」


「釣りに行ってかわいい女の子と出会ったことがあるか?」


「いいえ、いつもむさいオッサンばかりで」


「この車は違う。必ずかわいい子と釣りにいける」


「どうやって」


「試してみるか?」


「はい」


「キミのスマートフォンをかせ」


「はい」


「これをこの車にセットする」


『こんにちは。今日はなにがしたいですか』


「この男をかわいい女の子と釣りデートに連れていってくれ」


『相手を探しますのでしばらくお待ちください』


「私の女性の好みとかは聞かないんですか?」


「そんなものはキミのスマートフォンの利用状況で車が勝手に分析してくれる」


『お相手が決まりました。出発します。車に乗ってください』


「ほれ、行ってこい」


「はあ。では行ってきます」


------


「戻りました!」


「その顔ならうまくいったようだな。で、どうだった」


「博士!高根の花と思っていた憧れの彼女と釣りを楽しめました。どうなっているんですか」


「キミのストーカーまがいの行動をスーマートフォンが記録していたんだろ」


「・・・」


「相手の女の子がキミに興味があることも、その子のスーマートフォンを分析すればわかる。人間がのぞいたのなら犯罪だが、相手は機械だ。プライベートは万全だ」


「博士。この車を売ってください!」


「わかった。二千万円でどうだ」


「・・・」






おしまい。

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