宇宙猫は夢を見る

九重工

第1話 二匹の猫

「ねえ、仲良くしようよ」

ニコは屈託なく笑った。トガはそんなニコが大嫌いだった。

「別に仲良くしなくても仕事はできるだろ」

苦虫を噛み潰したように顔が歪んでいるのが自分でもわかる。ニコはそれをまったく意に介したふうもない。

「仲良くなったら色々話しやすいだろ?それに喋りやすい方が楽しいじゃないか」

「そうか」

 トガは早々にニコの相手をするのをやめた。こういうタイプはいくら話す気がないと伝えたところで意味がないのだ。


 宇宙船の中には昼も夜もない。時間の感覚も曖昧で時計を見る以外に時間を知る方法はない。そんなある日、ニコが昼と夜を作ろうといいだした。

「別に不便もないんだからこのままでいいだろ」

「そういう問題じゃないんだよ」

「お前の考えることは俺には理解できない。で、具体的に何をするつもりなんだ?」

 呆れたように見る。どうせ何を言ったところでこいつは勝手にやるだろう。ならば先にどうするか聞いておいたほうが身のためだろう。トガは夜を経験したことがない。宇宙船に乗る前にも住んでいたところに夜はなかった。しかし、本を読んで夜というものは全てを包み込む暗闇なのだということは知っていた。

「簡単だよ。電気を消すんだ」

 そう言って彼は宇宙船の電気を全て消した。部屋には何一つ光がなくなり、正真正銘の暗闇になった。トガはそこで初めて体験する暗闇に恐怖を感じて震えた。

「わぁ、夜ってこんな感じなんだね!すごいねトガ!」

 明るく話すニコの声だけが聞こえる。何も言わないトガの異変に気付いたニコがそばに寄ってくる気配がした。

「・・・トガ?どうしたの?大丈夫!?震えているじゃないか!」

「怖いんだ」

 絞り出すように声を出す。体を縮こまらせてうずくまるトガの背中にそっと手が置かれた。

「大丈夫だよトガ。目を開けて?怖くない、僕がそばにいる」

 そうやってあやすようにポンポンと背中を叩く。そうしてトガが落ち着いてきたのを見るとニコはトガの腕を引っ張る。

「見せたいものがあるんだ」

 トガは目の前のぬくもりを逃してはならないとばかりにニコの腕にすがりつく。いつも話すのは一言二言でほとんど会話をしたことがなかった。トガもニコも相手のことなど何も知らない。それでも、トガは今この瞬間そばにニコがいることに心から安堵した。



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