5話

あれ程俺のピンチな状況を伝えたにもかかわらず、まさか断られるとは思わず頭が混乱しまくっている俺。


「な!?何故ですか!?隊長!!?隊長は俺のこの苦境を救ってくださらないんですか!!?」


俺は先輩だけど、見た目小学生女児にしか見えない隊長に泣き縋る。そんな俺を見て隊長はとても悲痛な表情を浮かべていた。


「陽介氏の気持ちは痛い程分かるし!私だって「コングダム」は大好きだ!陽介氏の要望に応えてやりたい気持ちはある!だが!しかし!私にも止むにやむを得ない事情というのがあるのだよ!」


「隊長の事情……!?それは一体……!!?」


隊長は仲間想いの人だ。困っている部員を見捨ててまでする事情とは一体……?


「今週から…………「アイドル♡パッチリ☆セブンスターズ」のドームツアーコンサートが始まるのだ!!!」


「うわあぁぁぁ!!?それは確かに止むにやまない事情だぁぁ!!?」


「アイドル♡パッチリ☆セブンスターズ」とは、通称「アイパチセブンス」と呼ばれるアニメタイトルである。

内容は、とある事務所に集った7人の美少女達がグループを結成し、アイドルのスターダムを駆け巡る物語だ。

隊長は最近そのアニメにどハマりしており、3次元アイドルは「リア充くさい」と毛嫌いしているが、声優ユニットは別と言わんばかりに、そのアニメに出るグループ声優の追っかけをしていた。ちなみに、それば女性声優のユニットではあるが、隊長曰くそんな事は些細な事らしい。


「けど……隊長……来週からテストが……」


「陽介氏は私に今更テスト勉強が必要だと思うのかね?」


隊長の一言に俺は撃沈する。そうだった。この人は勉強しなくても学年一位になれる天才児だった……


「安心したまえ。陽介氏。そんな陽介氏に相応しい一冊を用意したよ」


隊長はそう言って俺の目の前に一冊の本を差し出した。それは…………




『カンニングの佐山君』



「ふっざけんなぁ〜ーーーーーー!!?俺に異能を使ってカンニングしろってか!!?無理に決まってんだろうがぁ〜!!?」


俺はキレてそう叫び、差し出された本を……叩きつけずに、ホコリ取りクリーナーで軽く拭いて、か行の本棚にきちんとしまった。

ちなみに、「カンニングの佐山君」とは、数々の異能能力を持つ佐山君が、ひたすらその便利な能力をカンニングにしか使用しないというギャグ漫画である。昔、保護者会的な所から、子供達のカンニングを助長しているという訴えがきたらしいが、佐山君がするカンニングは普通の人には絶対にマネ出来ないので、結局訴えはアッサリ取り下げられたという逸話もある漫画だ。


「陽介氏!今こそ開眼の時だよ!じゃあ!私はコンサートの用意があるから!これで!!」


「ちょっ!?隊長ぉ〜!!?行かないでぇ〜!!?隊長ぉ〜!!?」


しかし、俺の涙ながらの訴えも虚しく、隊長は俺を置いて出て行くのだった……

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