Ⅱ.第4話 朝の訪問者

 目が覚めて、最初に感じたのは痛覚だった。


「あたまイタぁ……」


 頭の中を雑巾並みにキツく絞られようなひどい頭痛。

 それに加えて、制服のシワが致命的な一撃だった。

 そのまま寝ちゃったからなぁ。

 ブレザーぐらいは脱いでおくんだった、と後悔した。


 頭痛薬を口に放り込みながら、その理由を思い出した。


 セレストが来てたんだっけ。

 部屋を見回す。

 この中には、彼がここにいたっていう痕跡(こんせき)は何も残ってない。


 あるのは、私の頼りない記憶とコレだけ。

 クローゼットに張り付いた鏡の前に立って、シャツの襟をちょっと引っ張ってみる。


 微かだけど、私の首……頸部に発疹みたいな赤い痕がある。


「ふぅっ」

 まだ頭痛薬は効果を発揮していなかったけど、軽く伸びをして、だるい身体にかつを入れた。


 下に降りるとママはもういなかった。

 テーブルには、スムージーとロールパンのサンドイッチがメモと一緒に置かれている。


 ‟だから、ほどほどにって言ったのに“


 思わず笑ってしまった。

 相変わらずヘンな誤解をしてるみたいだけど、ママが気遣ってくれてるってことが分かる。

 グリーンは苦手だったけど、一気にスムージーを飲み干した。



 制服にスチームアイロンをかけていると、玄関インターホンが鳴った。

「もうそんな時間っ?」


 部屋の掛け時計を見る。

 一緒に登校してる結愛ゆあが来るには少し早い。


 ダイニングにあるモニターを覗いて、一瞬固まる。


「うそっ」


 まだほかほかしてる制服に急いで着替えてから、慌てて玄関ドアを開ける。


「おはよう」

 爽やかな朝にぴったりな顔で立っていたのは、セレストだった。


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