Ⅱ.その下に在るもの 第1話

 彼は窓際にあった椅子にそっと腰かける。

 瞳の空色は薄闇の中に溶け込んでしまっていて、それとは分からない。


 ブランケットをそっと掛けても、彼女は目を覚まさなかった。

 ふと顔を見ると、その頬には涙の痕。


 彼は視線を彷徨わせる。


 取り立てて特徴のない、普通の少女。

 初めて目に映った彼女の印象だ。


 そんな彼女をその凡庸な日常から引っ張り出すことになったのは、間違いなくあいつらのせい。


 あの廃ビルで、あいつらは確かに話していた。

『殺したいほど綺麗』だと。

『生きているからこそ価値がある』と。


 人間を物のように捉える思(し)惟(い)や流儀(スタイル)は、どんな常識の範疇も超えていて、奴らの目を通さなければ見えないこともある。

 彼女のどこに、何に、どんな魅力を感じたのか。


 中途半端な自分がどちらに属するのか考えたことはある。

 だが、自分がどちらに属したいか、で生き方を決めた。


 そのせいで、見極めきれていなかった。

 彼女を他と区別するもの、それが何か。

 分かったのは麗花の血に秘密があることだけ。

 表面下にあるその謎は、ここからは見えてこなかった。


 上手く隠せただろうか。

 嗅覚頼みのあいつらは、たぶん、ぼくがいることで麗花を探すのに手こずるだろう。

 学校は彼女の生活圏にあるが、やつらは日中動けないから、しばらくは猶予がありそうだ。


 勝手に委員会を辞めさせたりして、強引すぎただろうか。

 セレストは、何か言いたげだった彼女を思い出して微笑んでいた。


 静かに目を閉じる。

 今日、また学校で。

 空が白み始めた時、彼の姿はもうそこにはなかった。





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