第49回「見上げてごらん」/山


 あれは何時の事だっけ……。莉桜達と撮影でキャンプしてた時だっけ。

 人気のない山の中のキャンプ場、そこに居るのは僕らSLCBの三人と撮影スタッフだけ、なのに『見上げてごらん』なんて声が聞こえて、最初は皆吃驚してたね。周りを見渡すと僕らを撮影するスタッフの乗るバンの他にもう一台黒塗りの高級セダンが停まっててさ。放送するテレビ局が安全のためにって慣れないうちは貸し切りにしてくれてたから僕ら含めて四台しか停まってない筈なのに、五台目が居るんだからさ。

「セナさん、あれ誰ですか?この撮影クルーじゃ無いですよね」

「誰だろうね、ちょっとスタッフ、確認してきてよ」

 そんな感じでスタッフが車のナンバーがテレビ局関係かをまず確認したりしてたけど、一切該当がなかったんだっけ?そりゃそうだよね、撮影してた制作会社の車でもテレビ局が用意した車でもない単なるレンタカー何だもの「れナンバー?レンタカーって事は十中八九、関係者車両じゃない……?でもここって貸し切りなんですよね?」

「そうだね、あースタッフ、一応確認するけどトランクになんか変なロゴステッカー貼ってない?あ、ある?そっかー。ちょっと待ってね、僕の方でも確認する」

 そこから僕はカメラを回させながらゆっくりと車に近づいていったんだっけ、あれは危険が無いと思ったからね。ロゴステッカーを確認したのも、姉貴の系列の会社の車かどうかを確認しただけだから。え? 何で危険がないと思ったかだって? そのレンタカー会社がれナンバーで用意する車は姉貴の系列で働く社員だけが乗れる車だからね。

「ノックしてもしもーし、なんてね。ほら出ておいで晶」

「バレちゃったかー。まぁいっか」

「莉桜も紅葉もびっくりしてるねぇ……」

 まぁ当然だよね。不審車両から出てくるのはあの瀬崎 晶せざき あきらなんだからさ。

「どうしたの?突然来たりしてさ、あ、番宣してく?」

「セナに会いに来ただけだよ。番宣も特に無いかな」

「ふーん、じゃあ一緒に星でも見ようか、さっきの『見上げてごらん』って晶でしょ?」

「それもバレてたか―。まぁセナと一緒に居れるならいいよ」

「突然の大物ゲストにスタッフも喜んでるし、今日は泊まってけば?」

「うん、そうするね。ああ、でもひとつだけ」

「何?」

「いきなり来てごめんね。LCBの二人、まだ混乱して話せないね」

「そりゃそうだよ。晶は虫除けスプレーぐらいしなさい」

「大人しくセナの言うこと聞きまーす」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る