第226話 忘れよう・・・・そう、無かったことに・・・・

 俺は考えた・・・・そう、全てを忘れてしまえば・・・・無かった事に・・・そう、何もなかったんだ!


 そう思うが・・・・現実には・・・・見た事もないインゴットを手にする伯爵さまが目の前にいて・・・・

 無言で差し出してくる。

 俺は思考を停止し、受け取る・・・・


 その瞬間、頭にビビッとイメージが・・・・


 ”マスターの思考の停止を確認。鍛冶師モードに突入。周囲の人は、半径10メートル以上離れる事を推奨”


 伯爵さまは驚いた顔をしつつ、俺をまじまじと見る。


【あ、ますたー現実逃避しちゃった・・・・しかもやばい奴だ。ちょっとそこの渋いおじさん、ボクと一緒に離れてね?ますたー本気になっているから危ないよ?】


「何が起こっておるのか?あ奴は今までぼんくらの装いをしておったようだが、今は全く違う雰囲気ではないか・・・・?」


【だって、あんな素材渡しちゃったら、今の思考が停止したますたーなら、やりかねないよ?】


 周りがうるさい。

 俺は槌を振り回し、邪魔者を排除。

 炉に火を入れ・・・・金床を用意。


 素材は・・・・鑑定スキルを使用・・・・ヒヒイロカネ?何だこれは?まあいい・・・・


 鍛冶・道具作成・錬金術・錬成・創造のスキルを同時発動。さらに追加で付与・細工スキルも発動。

 火力が足りない・・・・火魔法をヒヒイロカネにぶつける。

 もう有り得ないほど高密度のを。


 痛い・・・・焼けるような熱さだ・・・・このままでは集中できないではないか!仕方ない、回復魔法を常時発動しながらやるか・・・・?

 俺の作業を遠くから見ていた伯爵さまは・・・・後に語ったそうだ・・・・


「あれは、いてはならない、存在だ・・・・だが・・・・味方であれば・・・・これほど素晴らしい存在はいない・・・・奴は本当に人間か?あの熱波の中、槌を打ち続けるとか色々常軌を逸しておる・・・・」


 ・・・・

 ・・・

 ・・

 ・


 俺は気が付けば、ベッドで寝ていた。

 ここは何処だ?


 ”マスターの思考が復活。主人格に復帰。”


 うん?ナビちゃん何今の?


 ”気にする必要はありません、マスター。何処か違和感はございませんか?”


 よく分からないが、上半身を起こす。

 うーん・・・・どこもおかしな所はないけど・・・・?


【あ、ますたー生きたんだね?】


 うん?起きたじゃ無く生きた?何か変だな?

 俺が疑問に思っていると、世津と三津枝が飛び込んできた。遅れてイベッテとシビルが。

 最後にゆっくりと佐和がやってくる。


 三津枝が最初に口をきいた。


「作業中に倒れたと聞いたけど、今度は何をやらかしたの?」


 うん?何?どういう事?


「覚えてないの?」


 世津、何の事だ?


「えっと・・・・」


 イベッテとシビルが布にくるまれた、二振りの剣を差し出してくる。


 ほう・・・見事な剣だ。対になってるな。

 しかし・・・・何だこの素材は?細工も見事だ・・・・

 一振りの剣としても出来が良いが、この二振りの剣は・・・・二本揃う事で・・・二刀流?力が数倍に跳ね上がるようだな・・・?


 とても素晴らしい剣だ・・・・誰だろう、白河さんの打った剣か?俺はその剣を受け取り、剣を交差させる・・・・

 うわ!剣の紋様に変化が現れる。

 見ると・・・・何やら常に変化している。

 微妙に片方の剣は蒼く、もう片方は朱に。


 佐和が俺に話す。


「その剣・・・・士門さんが打ったのだけど・・・その様子では・・・覚えてなさそうね・・・・」


「え?これ俺が打ったの?覚えてないよ?」

 後に伯爵家の家宝として、双子剣メンサフィ・ルトガリアとして代々受け継がれていく事になるが・・・・あ、因みにこの名前は精霊さんの個人名ね・・・・俺は知らんぞ!


 そして、この出来事がさらに事態を発展?させる事になってしまうのだが・・・・何やってるんだ、一寸前の俺?

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