鬼人の里ジクデン
三十七話 のんびりできない男
すみません、だいぶ間が空いてしまいました。
夕焼けに染まる景色が窓に映る学校の教室。生徒の机はわずか三つ。その席に座るのは二人。そこに一人遅れてやってくる。
「ごっめんねぇー。遅れちゃったー。」
教室のドアを元気に開けて姿を現したのは猫耳生やした少年ミルだった。つい先ほどまでヴァイスの戦闘を観察しながらもさまざまな事務作業に精を出していた。
おちゃらけていても仕事はする。だから先にいた二人も深くは追及しない。
「別に謝らなくていいだからね。いろいろ面白そうなことしてたのは知ってんだからね。」
「とにかく早く座ってくれ。君もそうだが私だって暇じゃない。」
真っ赤な髪のツインテール少女、ハカネが若干の興味を込めた視線を向けて答えると、丸メガネをかけた青ショートヘアの少女、ヨツミはプラモデルを組み立てながら席に座るように催促する。
それに従ってミルが座ると同時、肩まで伸びた黒髪を揺らしながら悠然とした白和服の美女が教壇に立つ。ケルベロスに追い詰められたヴァイスを助けた張本人である彼女はそのときと同じように何の前触れもなく瞬間移動したかの如く唐突に現れた。
「みんな揃ってるね。じゃあ今日も始めましょうか。『リアル・リアライズ』の未来を決める話し合いを。」
「「「はい!マザー!!」」」
教壇から向けられる純粋な笑顔と、それに応える三人の無邪気な笑顔。しかしその話し合いが「リアル・リアライズ」という世界の舵取りを意味することになる。
「よし、今日はゆっくりのんびり過ごすか。」
ゲームにログインして獣人の街ワイルを見渡して発したヴァイスの第一声がそれだった。理由は単純。彼が「リアル・リアライズ」という世界に入って戦いの日々だったからだ。特にフェンリルとの戦いから加速度的に戦いに身を投じていくことになった。
ただし彼の記憶と事実には齟齬が生じている。いや、正確にはヴァイスもとい碓氷涼介の父、
また、それまでに会ったプレイヤーたちの記憶は完全に消去されていた。つまり獣人の町ワイルでも一人で行動したことになっている。
なぜここまで大きく改変したのか、それは
そんなわけで今日はゆっくりのんびりと過ごしつつ自分の持つ装備や力について整理しようと思う。
名前 ヴァイス
メイン武器 神狼の大太刀
サブ武器 止水の直刀
頭 神狼の
外装 神狼の
内装 神狼の
腕 神狼の
足 神狼の
靴 神狼の
装飾 神狼の
神狼の首飾り
これが今の俺の装備だ。正直神狼の
はっきり言って宝の持ち腐れである。自分が身に着けている装備にどれほどの価値があるかはわからないが、それでもゲームを始めて間もない奴が身に着けるには不相応なことくらいはわかる。だからこそしっかり生かしていかなければ。
「ま、のんびり確認しよう。」
そう考え、街の外へ出ようとする。
「ちょいと待つのじゃ、そこの若人。」
ご隠居口調でありながら幼い声で話しかけられ、思わず後ろを振り返る。しかし誰もいない。
「どこを見とるんじゃ!!!」
その一声とともに下腹部に衝撃が走ったかと思えば、気づけばその場から何十メートルも吹き飛ばされていた。
「痛ってぇ、いったい何なんだよ。」
「お主がど定番の失礼ムーブをかましてきたからじゃ。」
尻もちをついたまま声のするほうへ顔を向けると、目の前には巫女のような和装に身を包んだ幼女がふんぞり返っていた。
「彼奴に頼まれたからわざわざ出向いてやったというのに、全く礼儀というのがなっとらん。その辺もついでに奴らにしごいてもらうとしよう。」
次の瞬間には意識を手放していた。というかもう少し説明あってもよくない?
「んあ?」
意識を取り戻した時にはなぜか幌馬車の中だった。向かいにはさっきの幼女。
「3分13秒。及第点といったところかのう。」
何やら渋い顔でこちらを見ている。向こうは目的があるのかもしれないがこっちは一切事情を把握できていない。
「とりあえず、あんたは誰だ?何が目的だ?」
すると目の前の幼女は居住まいを正した。
「儂は
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