三十六話 知ることができない男

 今回やっとリアルSFの部分が出てきます。これでやっとキャッチコピー詐欺じゃなくなる………。


 少しは主人公の立場について深堀り出来ていると思います。











 ログアウトしたことで現実世界へと戻ってきた俺、ヴァイスは過剰な疲労感を感じながらも早速とばかりに『リアル・リアライズ』について調べる。




『リアル・リアライズ』はアメリカに本社を構えるフォースゲイン社が運営・管理をするVRMMO。ゲーム内で頑張った分だけ力になる、課金による強化はできないという完全無課金制のオンラインゲーム。いったいどこで収益を得ているのか気になるところだが、ゲーム内容には直接関係ないのでこの際スルーする。


「とにかく課金できない以外は自由みたいだな。そのせいでかえって運営の姿勢や考えが見えてこない。」


 つまりゲーム内においてプレイヤーを守る役目を担うはずの運営からの補助が期待できないということになる。


 ならどうやって自分の身を守ろうか。この時すでにゲームをやめるという選択肢はなくなっていた。無意識だったため理由はわからない。


 そんなこんなで自分なりに考えをまとめていると玄関のインターホンが鳴る。


「誰が来たんだ?げ、親父かよ。」


 インターホンのカメラ越しに映るのは久しぶりに見る父親の姿。普段どんな仕事をしているのかもわからない。聞こうとするたびはぐらかされてきた。


 普段は大学生として独り暮らしをしているため、会うことはほとんどない。ちなみに母親には会ったことがないが、親父がいうには生きてはいるらしい。たぶん離婚でもしたんだろう。


「久しぶり!我が息子よ!!」


 五十代半ばでありながら三十代でも通じるような若さを維持する美丈夫がハグしようと突っ込んでくる。当然避ける。素直に気持ち悪い。


「で?なんでわざわざ来たんだよ?」


「いやなに、ちょっと息子の顔が見たくなったから来たんだ。」


 こうしてわざわざ来た以上、このままでいるわけにはいかない。リビングへと案内し、お茶の準備をする。


「すまんな、涼介。」


 唐突に聞こえた冷たい言葉。振り返った瞬間に意識を手放す。最後に見えた父の手に拳銃が握られていた光景が嘘であることを願いながら……






「おかえりなさいませ。首尾はどうですか?」


 とある高層ビルの最上階にあるオフィス。そこで待つスレンダーな秘書に結果を尋ねられる。


「ああ。うまくいった。これで涼介は獣人の街ワイルでの一連の出来事をは全て忘れただろう。」


 息子に対するデレデレ親父の雰囲気は鳴りを潜め、今は組織の長としての威厳を醸し出している。


「予想はしていたが思ったよりも侵攻が早い。やはり彼女に直接会ったことが影響しているかもしれない。」


 今回任務を遂行した張本人である碓氷うすい涼介の父、碓氷うすい才牙さいがは自分の息子を冷静に分析しつつ他の状況について確認していく。


「涼介と接触したプレイヤーたちのほうはどうだ?」


つづみ響也きょうやV.N.ヴァーチャルネームグランツ。糸鶴いとづる広美ひろみV.N.ヴァーチャルネームエイラ。糸鶴いとづる広機こうきV.N.ヴァーチャルネームコウ。以上の三名に関して、記憶の改ざんは全て滞りなく終わりました。」


記憶改変弾リライト・バレットは使ったのか?」


「いえ、幸いにも『リアル・リアライズ』ログイン中に干渉できたため現実世界での接触はしませんでした。」


「それは重畳ちょうじょう。………涼介にもそれができればよかったんだが。」


「彼は特別ですよ。記憶改変弾リライト・バレットで脳に直接撃ち込んで介入しなければ彼の脳内に侵入することすらできませんから。」


 ここで二人が挙げた記憶改変弾リライト・バレットとは、人の頭に直接銃弾として打ち込むことで脳内に直接侵入し、記憶の書き換えを行うことのできる特殊な銃弾。事前に設定した偽りの記憶を植え付けることで記憶の改ざんをすることができる。


「我が子に銃を突きつけるのは、やっぱり気分がよくないな。」


 その部屋に唯一置かれるデスクの椅子に座りながらため息をつく。そこで見計らったかのように秘書が温かいお茶を差し出してくれる。


「ありがと~美菜ちゃん。涼介ん家では飲めなかったからなぁ。」


「美菜ちゃん呼びはやめてください。チクりますよ。」


 軽い談笑をしながらこれからのことを憂う。決して見えぬ先の未来を創るために。

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