三十話 即興で対応する男
ナイトメアが去った後、ヴァイス、エイラ、コウの三人と、獣人族の首謀者であったガルアスの死体がいる野晒石碑の前では、ひと時の静寂が流れていた。
「なんかいろいろあったけど俺の武器は返ってきたし、これで終わりかな。」
「あとはグランツさんと合流したら終了ですかね。」
今の状況を自分なりに整理した言葉を俺がこぼすと、それに情報追加する形でコウが相槌を打つ。ただ俺はその相槌に完全に同意することはできていない。
「何か、気になることでもあるのか?」
俺の様子に思うことがあったのか、エイラからの指摘に対して自分の考えを整理しつつ答える。
「俺の武器を取り返すというクエストは終わったかもしれないけど、いいとこどりしてさんざんこの場を荒らしたナイトメアがこのままおとなしく退くことが不思議なんだよな。」
ガルアスが目的を達した瞬間に背後から現れ、目的のものを奪って去る。これを為すだけならばわざわざ姿を見せて名乗る必要があったのか。むしろそれだけが目的ならば正体を明かすことにデメリットしかない。つまり正体を明かすこと自体もナイトメアの考えの一部ならば、このあとに何か見せようとしているのではないか。それが俺の予想だった。だからといってその予想に沿って動こうとしても、
結局はグランツがいるであろう山岳城へ向かうことになった。
『『『グウォォォォォォォン!!!!』』』
突如として響き渡る獣の咆哮。どこかフェンリルを思い出させるような迫力とそこににじみ出る憎悪の念が、目的地である山岳城から轟く。フェンリルの咆哮には純粋な迫力や威厳を感じていたが、この咆哮の主は迫力こそフェンリルに劣るもののそれ以上に憎しみのこもったゾンビのようにただれた声が響く。
「おい!何か近づいてくるぞ!!」
エイラの一声で声のするほうを注視していると、業火を纏った三つ首四足歩行の獣がこちらへと向かってくる。その姿を見て察した。あれはケルベロス。物語ではよく地獄の番犬として描かれることが多い空想上の生物が今目の前に現れたのだ。
そんなケルベロスが三つ首揃って俺のほうを見る。
「あ。俺狙われてる。」
急展開に巻き込まれた俺の口から出たのは予想外に冷静な言葉。しかし体はいうことを聞かずその場で硬直する。
そこに
頭装備である<神狼の天眼>の効果によって攻撃がスローモーションに見える中、唯一冷静な頭が最適解を出す。
「アイスアーマー」「アイスピラー」
アイスアーマーで全身を西洋騎士のような鎧で覆い、アイスピラーで地面から生成した直径3mほどの氷の柱で鉄槌と真っ向から打ち合う。
ちなみに覚えているスキルについて、テキストとしてわかっていても使ったことはなかったので今即興で使った。
バキバキバキバキッ
軋み砕ける氷柱。そこから飛び散る破片。ケルベロスにとって些か予想外だったのかわずかに瞳孔が開く。
ケルベロスによる鉄槌が、纏っている氷の鎧を削りながらも体の横を通る。次の瞬間響くのは大地の怒号。
水面に広がる波紋のごとく大地がうねりをあげる。ここでようやく体がいうことを聞くようになり、咄嗟に後方へ大きく退く。
「大丈夫か?ヴァイス。」
俺が狙われた瞬間にコウを懐に抱えて下がっていたエイラが声をかける。一方コウのほうは心ここにあらずといった様子であごに手を当て考え込んでいる。
「コウは今ちょっと理解が及ばないことが立て続けに起こりすぎて情報処理に全神経を割いてるんだ。これでも最低限の自営はできるし、最悪私が守るからお前は好きに暴れてくれ。」
「ん?」
あれおかしい。俺は共闘する気満々だったのにこのままだと俺がケルベロスとタイマンをはることになってしまう。
「あのー、できれば一緒に戦ってほしいんだけど。」
「『できれば?』だったら私にはできないね。ヴァイスのあの暴れようを見るに私たちが下手に動くと邪魔にしかならないだろうからね。」
そういうが早いかさらに下がり、気づけば近くの建物の屋根の上で様子見を決め込んでいた。当たり前のようにコウを懐に抱えて。
するとここで痺れを切らしたか、ケルベロスがさっきよりも激しさを増した炎を纏いこちらへ突っ込んでくる。その姿はこれからが本番だと宣言しているかのようだった。
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