二十九話 最悪の再会をする別の男

 目の前でソーラーが自爆するのを防げなかったグランツは目の前で起こった光景、人を人とも思わないやり口からある一つの仮説を立てた。


「まさか、あいつが来てるのか。」


「そのまさかさ。」


 一人呟くグランツの背後をとったのは全身黒の医者、ナイトメア。気づいた瞬間には二丁の拳銃を構え、銃弾を撃ち込む。しかし当たる直前に黒い影が間に入り、全てを防ぐ。


「いきなりとはひどいなぁ。仲間に銃弾打ち込むのはマナー違反だよ。」


仲間だ。そして今は敵だ、ナイトメア。」


 ヴァイスたちに対しては紳士のような振る舞いと口調だったが、グランツに対しては旧友に対して使うような砕けた口調だった。


「まぁ、そういわないでよ。せっかく会いに来たのに。」


 笑顔のナイトメアと苦虫を噛みつぶしたような顔のグランツ。どこか対照的に写る二人の様子だが、これでもかつては仲間として<リアル・リアライズ>の世界を楽しんでいた。


「相変わらず人を実験道具としてしか考えてないお前と仲間だったってだけでも汚点なんだ。本当はきっちりと殺してやりたいところだが、今は急いでいる。さっさとどこかへ失せろ。」


「そんなにヴァイス君たちが心配かい?」


 焦りを自分のうちに押しとどめながら先を急ごうとするとその心を見透かしたように図星をついてくる。


「安心しなよ。今回の目的は君だから。」


 そう告げるナイトメアの目には見覚えがあった。あれは実験を前にした時の猟奇的な目だ。つまり、


「この俺を実験台にしようってか。」


 そんな確認の意味を込めたグランツの言葉に、ナイトメアはどす黒い笑みで答える。


「さあ、今回はどんな結果になるのかな。」


 それが戦い、いや実験の始まりだった。


 このときグランツは過去を思い出す。ナイトメアの思考を読むために。




 ナイトメアが壊れたのは一度死んだプレイヤーが当たり前のように生き返った様子を見た時だった。ここではいくら実験に失敗しても蘇る実験体がいるのだ。ゲームの世界ではある意味当たり前な事実に気づいた瞬間、彼の欲望を抑え込んでいた理性という名の鎖はもろく砕け散った。


 それからというもの、魔獣を狩ってはプレイヤーの体内に埋め込む、または外付けするという狂気じみた実験に魅入られていた。そのために自分を狂信する仲間、もとい実験体たちをマインドコントロールで生み出し、どんどんと歯止めが利かなくなっていった。




「<奇術>薬筒装填・デュアルスフィア」


 俺に何かを仕込むつもりだろうと考えたグランツは地面に両手の拳銃から一弾ずつ打ち込む。するとグランツの周りには球体状の半透明なバリアが二重に張られた。これなら接近されても自分の体へと触れられることはないだろう。


「自分が今からどんな目に合うか、自覚はあるようだね。でも残念。君といた頃ならそれで防げたかもね。」


 不穏な一言とともにナイトメアの手には一つの球体が現れる。その球体はヴァイスたちと相対していた獣人がその手に持っていたものであり、今度はそれが闇に包まれる。


「は?」


 気づけば闇はグランツの守りをあざ笑うかのようにグランツの心臓部を貫いていた。次の瞬間には闇が晴れ、球体が表出するとともにグランツの体を侵食していく。黒いもやが触手のように纏わりついていくごとに、グランツの声にならない叫びは大きくなっていく。


「ここからは私ナイトメアが贈る常闇のショータイム!孤独のガンマンは旧友に魔核を埋められ何を思う。後悔か、憤怒か、悲壮か。入り混じった悪感情は三つ首の獣として顕現する!さあ!今宵のイベントのフィナーレを盛大に迎えることとしましょう!!」


かつてグランツだった獣は六つの鋭い眼光でただ一点を、ヴァイスたちのいるほうを見据えるのだった。

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