二十七話 自分の装備について聞かされる男

「ついでに説明しておくと御柱様みはしらさまから拝借した『神狼の大太刀』と『止水の直刀』にはそれぞれある力が備わっているんだよ。」


 するとそれぞれの能力について、自分でも一切把握していないことが明らかになった。


「『神狼の大太刀』はフェンリル様からもらったでしょ?」


 その一言で自分の呼吸が一瞬止まるのがわかった。なぜ俺があの時世話になったフェンリルのことを知っているのかと。

 ただ同時に理解した。これまで一度も言及しなかった、正確にはどこか誤魔化されていたフェンリルの存在をほのめかすようなことを敢えて明言せずに伝えてきたということは俺とフェンリルとのつながりを多少なりとも知っているということを。

 そして想像から答えを導き出した。フェンリルを倒した後で触れた球体によって体が侵食されたあの瞬間こそ、俺が御柱様とやらになった瞬間なのではないかと。


「何やら腑に落ちたような顔してるね。まあそんなことはどうでもいいんだけどね。御柱様自身のことよりあなたが持っているものについてしっかりと知ってもらわないとね。」


 そういって微笑むミル。その目には深淵が覗く。


「『神狼の大太刀』、そして御柱様が今装備している防具はフェンリル様の体内に眠る『装極の萌芽そうきょくのほうが』が芽吹くことで形作られたもの。そしてこれが芽吹く条件は宿主であるフェンリル様の人為的死亡。殺した御柱様の意志と、殺されたフェンリル様の死骸に宿る膨大なエネルギーによって、装極の萌芽は宿主であるフェンリル様を殺した存在に寄り添った形へと変貌する。」


 説明を聞かされていく度、自分がいかに何も知らないままだったのか痛感させられる。そしてやっぱりわからない。フェンリルはなぜ俺に自分を殺させたんだ。そんな思考の渦に飲まれる前に自力で抜け出す。今はミルの説明を聞ききることが先決だと思ったからだ。


「フェンリル様と御柱様、双方の意志によって形作られているからこそ、御柱様の力の根源となりうる。そして何の因果か、御柱様の持っていた止水の直刀こそ力の根源を完璧に制御しうる武器だ。そこに獣人たちの魂が集うここ、『野晒石碑』を用いることで御柱様になりうる核を生成することができる。」


 そこまでの説明をしたところでいつの間にか鞘に納まった『神狼の大太刀』と『止水の直刀』がこちらへと飛んでくる。

 それを何とかキャッチすると投げてきたミルへと問いかける。


「なんで返してきてくれたんだ?」


「それが必要となるからさ。」


 真意の掴めない一言を残し、その場を去る。その眼にはそれまで覗かせていた深淵はなりを潜めていた。


「あれ?説明をするとか言ってたやつはどこ行ったんだ?」


「いつの間にか消えたみたいですね。」


 その声でそれまで微動だにしなかった二人が動き出した。真実を二人に伝えてもよかったが、アナザークエストについて伝えられない時点でフェンリルのことを話すことはできないだろうというのは想像に難くない。


「さあな。」


 いかにもな生返事だったが、それで乗り切ることができた。そんなことより目の前ではガルアスが謎の球体を右手に持っていた。俺には見覚えのある代物。あれを見るとあの時の苦痛が思い起こされる。


「遂に完成した。これで次代の御柱は私だ!!あとはこの力をもって埒外の御柱を屠るのみ!」


 どうやら御柱とやらになるための条件はすべて整ってしまったようだ。しかし防ぐ手立てを知らない以上不用意に動けず、俺、エイラ、コウはその場から動くことはできなかった。

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