二十五話 気が逸る男

 グロテスクな表現が出てきますのでそのことを念頭に置いて読んでいただけると幸いです。





 俺、エイラ、コウの三人は、とりあえずもともといた山岳城から離れることだけを考えて走っていたが、結局俺の武器である二本の刀がどこにあるかわからないどこを目指せばいいのかわからなかった。本来はもっと早くそのことに気付くべきだったのだが、俺がグランツについて質問していたせいでそのことをすっかり忘れていたのだ。


「ここからどうする?正直全く手掛かりがないからどうやって探すべきかわからないんだが。」


 そう話を切り出すとコウが一つの推測を立てる。


「ここ獣人の街ワイルは東西南北それぞれに象徴的なオブジェクトが存在しています。北の城『山岳城』、西の墳墓『丘陵墳墓』、東の石碑『野晒石碑』、南の門『無兵門』の四つです。」


 なぜここでワイルの象徴的なものについて説明するのか気になったのでそのまま続きを促す。


「ヴァイスさんの二本の刀を盗んだということはそれを使う必要があるということです。もし武器として使うのならば攻撃対象は僕たちになるのが自然です。しかし、そういった形で使われてない以上次に考えられる可能性は……。」


「何かの生み出す素材、もしくは何らかの儀式に使う道具として使われるということか。」


 コウの考えを引き継ぐ形でエイラが結論を述べる。世の理とかなんとか言ってるくらいだから儀式だとか言われても不思議と腑に落ちるような感覚を覚えた。


「コウが挙げた四か所の中で儀式が行われそうなのは西と東のどちらか…。」


 それまでの話を聞いたうえでの自分なりの答えを呟いた途端、それが正しいことを示すかのように東の方角から青い光の柱が現れた。


「これって……。」


「どうやらコウの予想は当たってたっぽいな。」


「目的地は決まった。行こう、二人とも。」


 このとき三人の中の推測は確信に変わった。その瞬間自分の中の何かが訴えかけるように気持ちを煽る。それにより二人よりも早く駆け出し、二人に呼び掛ける。目的地へと走っていくことで煽られた気持ちが不思議と穏やかになっていくように感じた。







 三人が目的地へと向かい始めたころ、山岳城では一人を除くすべての者たちが地に伏していた。それまで暴走していた様子の獣人たちは全員が麻痺して動けなくなり、直接対峙した大男、ソーラーは自慢の大剣を折られ、両手両足をそれぞれ蜘蛛の糸のようなものでぐるぐる巻きにされていた。


「思ったより粘ってくれたな。お前みたいなシンプルバカは状態異常攻撃みたいな搦め手に弱いと思っていたんだがな。」


 それまで活きのよかった大男、ソーラーを見下ろし銃口を突き付けるグランツ。その様子とは裏腹に口から出たのは称賛の言葉。


「なんせうちのボスからいろいろ対策を練らされたからな。」


 ソーラーの様子からそのボスとやらへの信頼が伝わってくる。自身は追い詰められた状況にも関わらず、ボスとやらの存在を意識するだけで冷静になっていく。ここで戦闘前に抱いていた疑問を思い出し、今気になった部分から聞いていく。


「さっきも言っていたがお前の言うボスってやつはいったい何者だ。…いや、いったいどのプレイヤーだ。」


 そう疑問をぶつけると突如暴れまわり


「そ、それだけは言えねぇ!言っちゃいけねーんだ!!」


 と叫びだす。すると突然目が虚ろになり、「ボスに迷惑をかけるぐらいなら」と小声で呟くと舌を思いっきり噛みちぎる。するとその切り口から火が噴き出し全身へと燃え広がる。


「<奇術>薬筒装填・レクイエムスコール」


 突如起こった異変を認識した瞬間には装填とともに銃弾を放つ。このスキルはあらゆる自然事象を止め、無効化することができる。つまり目の前の火を消すことができる.....はずだった。


「嘘だろ。」


 そんなグランツの視線の先にはそれまでいたはずのソーラーの姿はなく、口封じを許したことを悟るのだった。

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