二十二話 ベタを目の当たりにする男
「<武技>攻派・大薙ぎ」
エイラがそう呟くと構えていた斧を大きく振り抜く。すると空気の塊が意思を持ったかのように獣たちを吹っ飛ばしながら階段までの最短ルートを切り開く。大人子供皆平等に宙を舞いそれまで獣しか存在しなかったはずの道は今は俺たち以外は不可侵の領域と化した。そんな光景に思わず呆然としてしまった。
「今だ!!」
エイラの鋭い一言で我に返った俺は先に飛び出したグランツ、コウに追随しながら階段へと向かい、その勢いのまま階段を駆け下りる。
「おっと、そこまでだ!」
その一声とともにおそらく体調二メートルはありそうな大柄の男がたった今降りてきたばかりの階段から飛び降り目の前で着地に失敗した。
「えええええぇぇぇぇぇ!?!?この場面で登場に失敗した~~~!?!?!?」
これが俺の偽らざる気持ちである。もちろん声を大にしてしまった。
「ヴァイスさん、そういうことはあまり言わないほうが......。」
そう小声で諫めてくるコウだがなんとか笑いをこらえようとしているのが伝わってくる。ちなみにその横でグランツはその場で蹲り、エイラは笑い転げている。そっちへの注意は半ば諦めているらしい。
このカオス空間を生んだ張本人は今目の前でケツを突き上げた状態で静止していた。
「とりあえずこのよくわからん物体は放置してこの城から出ないか?」
その提案になんとか答えてくれた三人と一緒に出入口へと向かう。
「いやいやちょっと待てーーい!!」
すると今度は人ではなく大剣が降ってきた。それを追うようにしてゴリラ顔の熊獣人が降り立ち、地面に突き刺さっていた大剣を引っこ抜いたあと肩に担ぐ。
「ここを通るなら俺様を倒してからにしな!」
登場失敗といい前口上といいベタなことをしなきゃ死んじゃうのか。あとあの体勢と登場からよく立て直したな。
「ヴァイスさん、心の声が漏れてますよ。」
またも笑いを堪えるコウに諫められた。グランツとエイラも俺の図星をついた心の声に無事被弾したようだ。
「なんか、すまん。」
二人にはそう謝ることしかできなかった。
「こ~~の~~!!俺様をなめるな~~!!!」
怒り心頭の様子で大剣を振り下ろしてくる。それを見て俺やコウ、笑いを堪えていたエイラすらもすぐに反応し大きく後退するがグランツだけはその場から動く様子がない。そのことに焦るが時すでに遅し。大きな衝撃とともに土煙が舞いグランツの姿を覆ってしまう。
「グランツ!!」
そう叫びながら思わず駆け寄ろうとするがエイラに止められてしまう。
「なんで止めるんだ、エイラ!!」
「落ち着けヴァイス。あいつはあの程度の攻撃じゃやられはしない。」
そう言われひとまず納得するとだんだんと土煙が晴れてきたグランツのほうを見る。
「悪いな、デカブツ。お前の攻撃が俺に届くことはない。」
その言葉とともに自然体で佇むグランツの姿がそこにはあった。
「ここは俺に任せて先に行きな。」
そんなベタなセリフを聞いた俺たちはグランツをその場に残し先へと進むことにした。
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