十九話 整理し荒れた状況に飲まれる男
まさかクエストに自分の武器が盗まれていることを教えられるとは思わなかった。
今はとにかくこのクエストのことを共有しないと。そう考え三人にこのことを伝えようとする。
「たった今●●●●クエストが発生した。」
あれ?おかしい。俺は今確かに確かにアナザークエストと言おうとした。だが実際に出てきた言葉に『アナザー』と単語は存在しなかった。もう一度試すも結果は同じ。この瞬間悟った。どうあがいてもアナザークエストの存在を皆に伝えることはできないと。しゃべろうとした瞬間閉口させるでもなく、ごく自然な形で情報伝達を拒んだのだ。ここまで鮮やかに阻止されると抵抗する気も起きないというものだ。
「やっぱりクエストが発生していたか。それでどんな内容なんだ?」
そう聞いてくるグランツに答える形でクエスト内容とクリア条件を皆に説明した。すると皆ひとまずの目標がわかったからか落ち着きを取り戻した。そのついでといわんばかりにそれまでずっと疑問だったことを皆に聞く。
「ところでここってどこなんだ?」
「ここは獣人の街ワイルを象徴する建物、山岳城だ。獣人がこの街を作った際、手つかずだった山をそのまま住めるように改造した........設定らしい。」
なるほど、俺は獣人たちにもみくちゃにされながら攫われてきたからワイルの景色といっても町の玄関口となる門くらいしか思い出せない。...てかグランツ、しれっと現実に戻すようなことを文末につけるなよ。
「とにかく今はお前の武器を取り返さなきゃならないんだから、ここから出るのが先決だろ。今頃
ここでエイラから状況を加味した現実的な指針を提案してくれた。俺含めた三人はそれに従って動き出す。
ドガーーーーン
爆発音に似た破壊音とともにドアがこじ開けられる。それによって舞う土煙が晴れると視界に入るのは獣の群れ。いや正確には理性なき獣人の群れだった。なぜかはわからないが全員がこちらに敵意を向けてきている。
グルァァァァァァァァァ
およそ人とは思えない咆哮をあげながら今にも襲い掛かってきそうな様子だ。
「どうだい?御柱様。これがあなたがその身に負った贖罪を可視化したものさ。」
そんな声がしたほうに四人が揃って向くとそこには飄々とした態度の猫耳獣人がそこにはいた。
「何者だ!」
そう声を荒げるエイラ、その顔には緊張と怒りが共存している。
「僕はミル。ただのメッセンジャーだよ。そこにいる御柱様にはある程度事情を知ったうえで犠牲になってもらいたいからね。」
そう告げる彼の顔には一切の感情の起伏が見えない。
「ふざけているんですか?なんでヴァイスさんが犠牲になる必要があるんですか?」
暴走するギリギリで耐えている様子のコウがそれでも何とか冷静に質問をする。
「簡単だよ。あるべきものをあるべきところへ。彼は望まずして自然の円環から逸脱したのさ。だからこそそれを正しき姿へ。世の理を彼の犠牲一つで正せるのなら獣人は喜んで外道になる。」
なんかわからないけど俺はゲームの世界で死ななきゃしけないの?流れゆく状況の中、このゲーム、リアル・リアライズとはそもそも何なのか疑問を抱いていた。
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