十二話 環境が変化した男

 俺の現在のステータスは思った以上にいろいろ変化していた。

 まず、体力や攻撃力などの数字で表せる全てのものが一切表示されなくなった。さらに、覚えた魔法も明らかに増えた。その上、これまで手に入れた称号まで表記されるようになっている。

 そしてなぜか種族の欄ができていて、「氷狼人」と表記されている。

 なんかいろいろ変化しまくったなぁ。これってゲームのシステム上問題ないのか?

 そんな感じで気になっていたことを確認し、手元から離れていた刀を自分の手元に戻した。しかし、

「あれ?アナザーイベントってどうなるの?」

 そう、たしか俺が受けたアナザーイベントのクリア条件が<あるモンスターの従属>だったはずだ。まず従属のやり方もわからないし、フェンリルの雰囲気に押されてつい戦って倒すことばかり考えていたけど、もしかしてフェンリルを従属する必要があったんじゃないのか?そんなことを考えていると脳内にアナウンスが流れた。

[アナザーイベント <森に潜む氷結の獣>は従属対象の消滅によりクリア不可となりました。そのため対象を討伐したプレイヤーに対して、お詫びとして神狼の装備一式を贈呈するとともに、このイベントをクリアしたと見なします。今から30秒後にあなたが最後にいた町、始まりの町ビギンへと転送します。]


 そのあと、目の前に白銀を基調とした防具一式と俺の身長ほどの長さのある大太刀が宙に浮いていた。……そう、宙に浮いているのだ。こういうのを見るとどことなくテンションが上がる。しかし、防具を身に付けるには自分で着る必要があるらしい。ファンタジーやRPGゲームでよくあるアイテムボックスやインベントリといったものも存在しない。リアル・リアライズの売りは一切の課金不要、強くなるには努力する他ないという最近ではあまり見かけないゲームシステムであるが、それ以外にも売りがある。それは、ゲームタイトルからもなんとなく推測される、圧倒的リアリティ、つまりファンタジー要素が他のゲームに比べて圧倒的に少ないというものだ。装備は自分の手で身に付ける必要があり、アイテムは自力で運ぶ必要がある。

「あと30秒であの町に送られちゃうんだよな。なら早めに新しい装備を身に付けないとな。」

 そういって防具を全て身に付け、刀を腰に差した。そうするとさっきまで異常な長さだった大太刀が、俺の持つ止水の直刀より30cmほど長い程度になった。


 装備を身に付け終わるとすぐにビギンへと転送された。あたりを見渡すと多くの人がなぜかこちらを見ていた。その視線に耐えられなくなって冒険者ギルドに入った。そこで気づいた。せっかく手に入れたトレントの素材を持ってこれていない。仕方なくギルドの受付でクエストをキャンセルし、その場でログアウトした。

 ログアウトしたから三時間後、リアル・リアライズの運営より、とある大型アップデートが発表された。


「ステータスの数値表記を完全撤廃」


 この発表によって今までのリアル・リアライズの常識をがらりと変える一大イベントが巻き起こることになる。

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