九話 圧倒的強者と対峙する男
さっそく階段を昇りつつ、周りを見渡す。だが、どこを見ても氷しかない。ただひたすら階段を昇るだけだから正直病みそうだ。
そんなことを考えながら昇っているとやっと階段を昇りきった。これだけで素早さが上がりそうだ。
「よっし、やっと昇りきった。……けど、何もないし、誰もいない……。」
階段を昇る間に視界に写っていた浮島に辿り着いたが、辺りはピカピカの凍った地面が広がっているだけだった。
とりあえず中心部分に向かおうと足を進めると、いきなり吹雪が竜巻かのように巻き起こる。
『汝、何をもって至らんとす。』
そんな声とともに吹雪が消え去ると、そこにいたのは狼だ。だが、その体長はゾウほどもある。毛並みは真っ白というよりは白銀に近い、この凍り付いた世界に似つかわしい色をしている。
「なんかいきなり吹雪いたと思ったらなんかいきなり強そうなやつが出てきたな。……てかこのゲームってこんな強そうなやつがこんな序盤に出てくるのか!?」
一応人並みにゲームをしてきているからある程度のことは想像がつくが、このゲームのことは一切知らない。だからこそ、このゲームの異常さに戦慄した。
「これって、よくアニメとかゲームに出てくるフェンリルってやつだよな?たしか神の眷属とかって言われてなかったっけ?」
そう思わず呟くと、それに答えるように目の前の魔物が答える。
『然り。我、神の眷属たるフェンリルなり。ここに迷いこむ数奇な者たちの選定者なり。』
「選定者?いったい何を選定するつもりなんだ?」
『力を持つにふさわしいかどうかだ。選定方法はただ一つ。我に一度でも傷をつければ汝を認めてやろう。』
「えっ、ちょっと!?俺まだ戦うとは言ってないんだけど!?!?」
フェンリルは説明が終わると俺の意思とは関係なく臨戦態勢に入った。こうなったらおそらく俺は逃げられないだろう。なぜわかるかって?理由は単純、俺が少しでも逃げようと考えるだけですごい形相で睨んでくるのだ。この状況で逃げられるやつがいるのなら是非コツを教えてもらいたい。
『ウォォオォォォン!!!』
フェンリルの一吠えとともに猛吹雪が起こり、フェンリルの周りには氷の剣山がまばらに形成された。
「………これ、まずどうやって近づけばいいんだよ……。」
そう愚痴をこぼしつつもウォーターカッターを発動する。しかし、本来水の斬撃が飛ぶはずがここの環境のせいで凍りついてしまい、思った以上に飛ばなかった。これは、他の魔法に関しても弊害があるかもしれない。そう思い、他の魔法も一通り試した結果、
「この場で使えそうなのはウォーターソードくらいか。」
ウォーターソードは重さに関係なく生み出してしまえば自在に操れることができ、凍ったおかげで頑丈さが増してむしろ使いやすくなっていた。さしずめアイスソードといったところか。他に関してはなるべく使わないほうがいいと思ったほどに弱体化してしまっていた。ウォーターアーマーの場合はたしかに凍ることで防御力がさらに上昇したが、そもそもこの試練の間は体力も魔力も減らないらしい。その証拠にどれだけ魔術を使っても、どれだけフェンリルの攻撃を食らっても魔力、体力ともに一切減ることがなかった。逆に言えば、クリアするまではこの空間から出られないということである。
「………あれ?このゲームってこんなにデスマーチを強要するゲームなの?」
トレントに関しては自分で勝手に強いただけだが、気づいたらそう呟いていた。
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