六話 武器を選ぶ男

「またな、ブロス。今回はいろいろ助かったよ。」

「まぁ、俺は結局何もやっていないから礼を言われることはしてねーよ。」

「いやいや、本当に助かったから。とにかくありがとう。」

 そういってギルドの前で別れた。そのときブロスが呟いた「想像以上だったよ。」という言葉が俺の耳に届くことはなかった。ちなみに今回のクエストの報酬金は15,000G(ゴールド)だった。自分はなにもしてないからと全額を俺に譲ってくれたのだ。この報酬額は初心者にしては多い方らしく、武器1つなら十分なものが手に入るらしい。このゲームにおいてのお金の単位を知ったのは報酬を受けとるとき、つまり、ついさっき知ったばかりなのだ。もう少し自分で調べておく必要があるとつくづく思った。このゲーム内のお金の単位はまさかのポイントだった。しかも硬貨や紙幣はなく、自分のステータスに表示され、そこから直接支払いと受け取りを行う。

「さて、とりあえずあそこに行くか。」

 特殊ルートが解放されたという知らせのあと、運営からメッセージが届いたのだ。内容は今の俺が新たに装備できる武器についてだ。なんと俺が切望していた剣の装備が本当にできるようになったのだ。ただし重量制限があるようで、持てるのは剣の中でも片手で持てるものだ。現在実装されているなかだと戦士の中でも盾をメイン武器とするプレイヤーがサブ武器として持つ全長1mにも満たない片手剣くらいである。盾主体の戦士は片手で持てる武器ならば基本的にどれでも使えるが、代わりに盾の武技しか使えない。あくまでサブ武器扱いである。

「こうやって考えると結構損してないか?」

 サブ武器なだけあって攻撃力もそれ相応に落ち着いている。今の俺がメイン武器として使うには荷が重い。おそらくそういった不利を補うために存在しているのだろう。これから向かう店に置かれている武器は。

「まさか、冒険者ギルドの裏通りで置いている武器がアナザー限定武器だとは思わなかった。たしかに異国の武器があるとは言っていたがアナザーってこのゲーム内でいう外国人みたいな扱いなのか?」

 そんなことを考えながら冒険者ギルドの裏に向かうとそれらしき場所を見つけた。黒い外套を着て、フードを目深くかぶった細身の老婆が店番をしている。その容貌のせいで闇市のような雰囲気が醸し出されている。

「すみません、ここに俺でも装備できそうな武器ってありますか?」

 なんだか小並感漂う聞き方だがそれでもその商人は返答してくれた。

「………ついにうちの商品を扱えるやつが現れたか……。お主なら表に出ているやつから選びな。どいつもこいつも癖のあるやつだらけだがな。ひょっひょっひょっ。」

 不気味な引き笑いをしつつ老婆が武器のあるほうを指さす。ラインナップとして、


 ○蛍火のシミター(二刀)

 とある地域で使われる軽く湾曲した刀。

 魔力を流すと一振りにつき拳ほどの

 大きさの炎が宙に浮かび、自在に

 操作できる。

 

 攻撃力 12(+5)


 ○止水の真刀

 とある地域で使われる反りのない刀。

 魔力を流すと刃全体が水で包まれ、

 鋭さが増す。


 攻撃力 12(+5)


 ○微風のショテール

 とある地域で使われる刃が大きく湾

 曲した細剣。魔力を流すと、剣を振

 るう度にかまいたちが発生し追加ダ

 メージを与える。


 攻撃力 12(+5)


 ○礫のサーベル

 とある地域で使われる湾曲した刀。

 魔力を流すと、刃の周りに石礫が発

 生し、刀を振るうと敵へと飛んでい

 く。


 攻撃力 12(+5)


「この4つのうちなら見た目でも性能でも圧倒的に刀だな。」

「そこにあるのはみんな異国の武器に儂がちょっと手を加えたものだよ。初めてそいつらを扱えるやつが出てきたからね。特別に一振りあげるよ。」

「えっ!?いいんですか?どれも高そうじゃないですか!!………いろいろツッコミどころはあるけど。」

「使われない、使われても十全に役割を果たせない道具ほど無価値なものもないじゃろうて。それに“現存する”ただ一人のアナザーと知り合えたなら儲けものじゃわい。」

 やはり俺がアナザーの称号を持っているのは分かっているらしい………

「って今現存するって言わなかったか?てことは過去にはいたのか?俺しか称号獲得者がいないだって?」

「そう矢継ぎ早に聞かれても答えられんわい。」

「じゃあ、まずはそもそもアナザーって………」

「答えてやる気はないけどのぅ♪」

 そういってスキップしながらどこかへ消えてしまった。

「まぁ、そのうち分かるだろ。いっそアナザーとは何なのか探しながら冒険するのもありだしな………ってか武器をもらってないんだけど!!」

 そう思っていたら足元でカタッと鳴った。音がしたほうに目を向けるとそこにはさっき欲しいと思っていた刀が置かれていた。こんななんとも言えない形で手に入れた刀とこれから長い付き合いになるとはこのとき思いもしなかった。

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