第87話 ドッグファイト開始

 俺はリリアの首の根元に取り付けた鞍に飛び乗った。

 身体をしっかりとベルトで固定し、手綱を握り、両足でリリアの首を挟む。


「よし、行こう!」


『はい! 落ちないように気を付けてくださいね!』


「任せとけって」


 リリアが白銀の羽を大きく羽ばたかせる。地面に溜まった水が風圧で吹き飛び、しぶきを上げた。


『いきます!』


 リリアはしだいに羽の動きをを早めていく。五回ほど羽ばたいたところで、腰の辺りにふわっとした感覚があった。

 不思議な感覚だった。まるでエスカレーターに乗っているかのように、徐々に自分の身体が空へとせり上がっていくのを感じる。空を飛ぶって、こういう感覚なのか!


 視線を上に向けると、数十メートル上空に、屍竜の忌々しい姿があった。さきほどリリアが与えた傷は、あらかた治ってしまったようだ。

 ヤツはゆっくりと旋回ながら、こちらを警戒している。さきほどまでの暴れっぷりがウソのようだった。屍竜には知性などなさそうだが、きっとヤツの本能がリリアの存在を危険だと察知しているのだろう。


「リリア、ヤツと同じ高さまで上がろう! 下向きにブレスを吐かれたら街に被害が出る」


『了解です!』


 風雨をものともせず、力強く羽を動かしてリリアが飛ぶ。鞍を通して伝わってくる、リリアの筋肉の躍動が心地良かった。


「戦い方は任せる! 魔法攻撃で援護するから、好き勝手にやってくれ!」


『また無茶をしないでくださいよ!』


「安心しろ。無茶をするのにも慣れてきた。今度は、いきなり気絶するようなことにはならないさ。気を付けろ、来るぞ!」


「ゴルオオアァァァア!」


 同じ高さまで上昇してきた俺たちめがけて、屍竜が襲いかかってきた。


「避けろ、リリア!」


 飛来する漆黒の巨大な質量。リリアは身体を傾けて揚力を殺し、高度を落とす。俺の頭上数メートルを、屍竜の巨体とあぎとが通り過ぎていった。凄まじい突風が俺の前髪とマントを跳ね上げた。

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