第86話 これが最後の戦いだ

 白銀竜が「そうだ」と答えるように、「プィー!」と可愛らしく鳴いた。


「良かった! 無事だった! リリア!」


 俺は白銀竜——リリアに駆け寄ると、体当たりをするように抱きついた。


『対象と接触しました。ステータスを表示します』


 〈コピー&ペースト〉が起動し、竜の姿になったリリアのステータスを俺の脳内に映し出した。


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対象=リリアーネ・フローネア・ハリア(竜)


▽基礎能力値

器用度=6(19) 敏捷度=42(21)

知力=17 筋力=160(16)

HP=480/480(16) MP=280/285(19)


▽基本スキル

念話=1 飛行=3 格闘(竜)=3 白銀のブレス=3

武具鑑定=1 宝物鑑定=1 ハリア王国式儀礼=4 


(×ハリア王国式剣術=7) (×パルネリア共通語=5)

(×隠密=3) (×罠技術=1) 


▽特殊スキル

騎士の誓い=6 神聖竜の血統=5(固定)

女神の加護(アルザード)=10(ペースト)

フローネアの記憶=3 竜の加護=5

淫蕩の呪い=4 不妊の呪い=10 不運の呪い=2


※×印が付いているスキルは現在、不活性になっています。コピーは可能です。

※スキル【コピー&ペースト】のレベルが足りないため、補正能力値、限界能力値、中級スキル、上級スキルの表示、およびコピーはできません。

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 基礎能力値が凄まじいことになっている。ルアーユ教徒が神の魂を入れる器にしようと考えたのも頷ける。

 スキルもかなり変わっているようだ。特殊スキルの〈神聖竜の血統〉と〈竜の加護〉、そして〈フローネアの記憶〉が赤く光っている。リリアが人から竜へと姿を変えたのは、これらのスキルの効果なのだろうか。


『エイジさん、聞こえますか? わたしです。リリアです』


 不意に、リリアの声が頭の中に響き、俺は驚きのあまり、「わわっ!」と間の抜けた声を上げてしまった。


『良かった、聞こえているみたいですね』


「あ、ああ! だが、なぜリリアが竜の姿に?」


『すべてはお母様が残してくれた力のおかげです』


 俺の頭に響くリリアの声は、とても暖かで、柔らかかった。


『お母様は死の間際、残された力のほとんどと、ご自身の記憶の一部を、赤ん坊のわたしと、形見の剣に封印されたのです。しかるべきとき——わたしが本当に大切なものを守ろうとしたときに——力が解放されるように、と』


「リリアの母さん——フローネアさんは、竜だったのか。それがどうして人間と——っていうか、竜って人間の姿に化けたりできるのか?」


『その話は少し長くなりそうです。いまはあの屍竜を討たなければなりません。決着を付けてきます。エイジさんはここで待っていてください』


 リリアはそう言うと、翼を優美に広げ、羽ばたこうとした。大きな風が起こり、地面に溜まった雨水に波紋が走る。


「おい! ちょっとだけ待ってくれ、リリア!」


『急がなければ、あの竜はまたすぐに身体を再生させて戻ってきます。無差別に街を攻撃されれば、わたしだけでは防ぎきれないかもしれません』


「俺も戦う。連れて行け」


『エイジさん、何を言ってるんですか! 相手は空にいるんですよ!』


「準備してくるから少しだけ待ってろ! 一人で行ったら絶対に許さないからな!」


 俺はすぐさま身を翻し、倒れているフェルナールに駆け寄った。

 フェルナールはピクリとも動かなかったが、浅く呼吸をしていた。気絶しているようだ。


「悪いが、ちょっと


 まずはフェルナールの身体に触れて、ステータスを表示。


**************************

対象=フェルナール


▽基礎能力値

器用度=18 敏捷度=19

知力=20 筋力=18

HP=0/21(気絶) MP=16/22


▽基本スキル

ハリア王国式剣術=6 ハリア制式槍術=8

騎乗(馬)=6 騎乗(竜)=8

パルネリア共通語=4 武具鑑定=4 ハリア王国式儀礼=3

白魔法(ディアソート)=2


▽特殊スキル

武芸百般=2 騎士の誓い=4 英雄の資質=3


※スキル【コピー&ペースト】のレベルが足りないため、補正能力値、限界能力値、中級スキル、上級スキルの表示、およびコピーはできません。

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 さすがは王国最強の一角。凄いステータスだ。


「〈騎乗(竜)=8〉をコピー。空きスロットにペースト!」


了解コピー。コピーしたスキルを空きスロットにペーストしました』


「よし、あとはあいつだ!」


 俺は次に瓦礫に半分埋まりかけているフェルナールの飛竜に近寄り、背中の鞍を外した。かなりデカいが、思ったよりも簡単な構造をしてくれていて助かった。

 必要なものを借り終えると、俺は急いでリリアのもとにもどり、身体に触れた。


「待たせたな! ちょっと首と身体を下げて、こいつを着けさせてくれ」


『無茶です! エイジさん、竜に乗ったことなんかないでしょう!』


「無茶だっていうなら、竜になりたてのリリアが一人で戦うのも無茶ってもんだろ。大丈夫、俺はお手本になる人さえいれば、なんでもできるんだ。俺を信じろ」


 リリアは一瞬ためらう様子を見せたが、俺がもう一度「信じてくれ」と言うと、黙って姿勢を低くした。


「さあ、これが最後の戦いだ。俺たちは誰にも負けない!」


 鞍を取り付けながら、俺は半ばリリアに、半ば自分自身に言い聞かせるように語りかける。


「ともに戦おう、リリア。俺たちの未来のために!」

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