第79話 まるでゾンビ映画だ
「竜だ! 二頭いるぞ! 戦っている!」
「一方はフェルナール様の竜ではないか!?」
壁上で戦っている兵士たちが口々に叫ぶ。その声には、人知を超えた存在に対する畏怖が
「浮き足立つな! 目の前の敵に集中しろ!」
隊長格の兵士が叫ぶが、一度広がった恐怖や混乱が、そんな一言では収まるはずもない。兵士たちが竜に気を取られている間にも、壁外の魔獣たちは次々と押し寄せてくる。
壁をよじ登ってきた魔獣たちが、次々と兵士をなぎ倒し、壁を乗り越えようとしていた。兵士たちの対処が間に合わなくなってきているのだ。
「〈ここに集え、叡智の光。光の矢となりて敵を撃て〉!」
やむをえず、俺は〈光の矢〉の魔法で、壁の上まで登ってきた魔獣を次々と撃ち落としていく。
はっきり言って効率が悪いのだが、大規模な破壊魔法は味方を巻き込んでしまう。一匹ずつ撃ち落としていくしかない……!
クソッ! 門に光のカーテンを張ったのは早計だったか!
これなら、俺が門に立って大破壊魔法をぶっ放し続けた方がマシだったかもしれない……!
その間にも、門に張っていた光のカーテンの隙間から、小型の魔獣が次々と滑り込んでくる。
「魔獣、次々と壁を乗り越えて侵入してきます!」
物見櫓の兵士が絶叫した。
バロワの街のあちこちから、武器を打ち合う音や、悲鳴、戦いの叫びがわき上がり始めた。
まるでゾンビ映画の登場人物にでもなったような気分だった。空からは災害としか呼べない規模の脅威が近づいてきている。パニック映画にしてもタチが悪い。酷いB級映画だ。そういえば、竜巻に巻き込まれたサメの大軍が都市をめちゃくちゃにする映画があったな。いや、そんなこと、いまはどうでもいい。
いま考えなきゃいけないのは、最悪の最悪なこの状況をどう切り抜けるかってことだ。
正直なところ、逃げ出したい気分だった。
『もしバロワが落とされそうになったら、エイジとジーヴェン殿は、リリア様を守って脱出しろ。足手まといのいないきみたち三人だけなら、包囲を突破して逃げられるはずだ』
出撃前にフェルナールが耳打ちした言葉が、頭の中にこだまする。
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