第78話 甦りし屍竜、飛来す [レベル:5]
「っと……!」
一仕事終えたところで、身体からガクンと力が抜けるのを感じた。
動いているときは気がつかなかったが、黒魔法や魔道具を連続して使用したのだ。それなりに心身に負担はかかったはずだ。
足を踏ん張り、落ち着いて呼吸を整える。
そのとき、俺の脳内にあの声が響いた。
『〈スキル:コピー&ペースト〉のレベルが「5」に上がりました』
ここにきて、久しぶりのレベルアップだ。黒魔法の使用で一気に経験値が入ったのだろう。
あまり覚えていないが、たしかレベルが5になると出来ることがたくさん増えるんじゃなかったっけ?
『スキルレベルが5に上昇したため、空きスロットの数が「5」に増加しました。また、一部アイテムの性質を複写できるようになりました。特殊スキルの閲覧範囲が増加しました。自己の固有スキルを、他者のスキルに上書きペーストできるようになりました』
レベル5の解放とともに、これまで「レベル不足で出来ない」と言われていたことの多くが可能になったのだ。
(アイテムの複写について教えてくれ)
『あるアイテムが持っている性質を
(性質を貼り付ける? アイテムそのものを増やせるわけでないんだな?)
『はい。あくまで性質のみです。たとえば、鉄の持つ〈硬度〉の性質をコピーし、木の棒にペーストすることで、鉄の硬度を持った木の棒を作り出すことが可能です』
(なるほど、便利そうだ。だが、どうせまたレベルによって制限があるんだろう?)
『その通りです。複写された性質が持続するのは、レベル5だと1時間程度です。永続的な性質複写はできません』
(それ以外の制限は?)
『高度すぎる性質はコピーできないことがあります。また、コピー元のアイテムと、ペースト対象のアイテムの両方に触れる必要があります』
(わかった。次は、他者のスキルへの上書きについて教えてくれ。以前、スキルのレアリティによってどうのこうのって話は聞いた気がするが)
『他者にスキルを上書きペーストする場合、まず対象となる人物の了解を取らなければなりません。また、コピーするスキルはあなた自身の固有スキルでなければならず、同じ種類のスキルを複数箇所に貼り付けることはできません。さらに加えて、貼り付けるスキルのレベルとレアリティは、上書き対象のスキルのそれを上回っていなければなりません』
(上書きの効果時間は?)
『永続します。ですが、上書きされた人物が解除を望んだ場合、上書きは解除されます』
(OK、だいたい把握した)
制限が多いが、要するに他人への嫌がらせには使えないってことらしい。
さて、〈コピー&ペースト〉の新しい効果も把握出来たことだし、まずは落ち着いて戦況把握だ。
詳しい状況は分からないが、鐘の音が聞こえないってことは、北門はまだ持ちこたえているようだった。
ザックたちなら魔獣との戦いには慣れているし、マルセリスの神官たちが同伴しているのなら、魔獣に有効な魔法を使える者もいるだろう。門が破られたとしても、そうそう魔獣の突破を許すことはないはずだ。
俺がそんなことを考えていると、街中の物見櫓に立っていた兵士が突然大声を上げた。
「西の櫓からの信号です! 北西の城壁を乗り越えて、魔獣が壁内に侵入!」
「侵入したのは何体だ!」
大声で答えたのは、門の近くで指揮をとっていた隊長格の男だ。どこかで見覚えがあると思ったら、スレンの村近くの砦にいた男だった。
「まだ一体だけのようです!」
「ならばうろたえるな! 冒険者たちが始末する! 連中を信じろ!」
櫓の兵士は「はい!」と叫び、旗を振って別の櫓へと合図を飛ばした。
そのときだった。
旗を振っていた兵士がポカンと口を開き、空の彼方を指さした。
「な、なんだあれは……」
「おい、どうした! 何が見えてる! 報告しろ!」
「わ、わかりません! 視界不良! ですが、なにかが飛んでいます! 時折、光を放っています!」
兵士たちのやりとりを聞き、俺は強烈な不安を覚えた。
見張りの兵士の報告によれば、豪雨の中でも見えるほど大きな何かが、こちらに飛んできている
「あれはなんだ!?」
「デカいぞ!」
南門の壁上で戦っていた兵士たちが、口々に叫ぶのが聞こえた。
彼らの視線は、敵のいる下方ではなく、上方を向いている。
俺は壁から離れるように通りを引き返し、空のかなたへと視線を走らせた。
「あれは……!」
遠い空の向こうで、二つの影が飛び回り、戦っていた。
それらは互いに赤と紫の光線のようなものを吐き出しながら、空中で交錯し合っている。
「竜だ!」
誰かがそう叫んだ。
フェルナールの操る竜と、南の山で蘇った屍竜が、戦いながらバロワの街へと近づいてきていたのだ。
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