第05話 安全地帯を確保せよ

「大丈夫か?」


 振り向くと、少女は地面にペタンと腰を落とし、呆然とこちらを見上げていた。

 ふと、彼女が全裸だったことを思い出し、俺はスーツのジャケットを脱いで、目をそらしながら彼女に差し出した。


「あ、ありがとう……。あなたは……?」


「名前は張本エイジ。張本が姓で、エイジが名前だ。好きなように呼んでくれ」


「私はえーっと……リリアといいます。エイジさん、助かったわ。それにしても、あなたって何者? このあたりの人ではなさそうだけど……」


「経歴は話すと長くなる。いったんこの場を離れよう。ゴブリンの仲間がいるかもしれない。近くに安全な場所はあるか?」


「あっちに村があるの。歩いて一時間くらい。そこで私の荷物を預かってもらっているから、村まで行けば薬や着替えが手に入るわ」


「了解。歩けるかい?」


 彼女——リリアに手を貸して立たせようとしたが、「うっ!」と苦しげな声を上げてうずくまってしまう。

 見れば、足首のあたりが青黒く腫れ上がっていた。ゴブリンに押さえつけられたときに、くじいてしまったのだろう。


「これじゃ無理だな。背負っていくしかないか」


「ええ。あの、ごめんなさい……。お願い出来るかしら? あと、私の剣だけ回収していきたいのだけど……」


「お安いご用だ」


 俺はリリアの使っていた剣を拾い、近くに落ちていた鞘に収めた。

 美術品にはとんと疎いが、鍔や鞘には複雑な文様が彫られ、鞘には宝石があしらわれている。非常に高価なものに見える。

 リリアに剣を渡すと、彼女はほっとしたような笑顔を浮かべた。


「よし、行こう」


 腰を下ろして背を向けると、リリアは俺の首に手を回し、身体を密着させてきた。

 背中にリリアの柔らかい乳房の感触が伝わり、耳元に熱い吐息がかかる。

 おいおい、三十半ばのおじさんには刺激が強いぜ……。


(なんだか都合良い夢だな。自分でも恥ずかしくなってくるぜ)


 俺はそんなことを考えながら、リリアの膝裏に手を回し、彼女の指した方向へと歩き始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る