第04話 コピペスキルの覚醒
「うおおおおおおーーーーーー! どけやオルゥアアアアア!」
「ギ、ギエ?」「ギギギギ!」「イギイー!」
突然草むらから飛び出してきた俺を見て、ゴブリンの群れは恐慌状態に陥った。
やつらは少女の身体を放り出して、散開する。
「ギャオウ!」
俺が振り回した棒が、逃げ遅れたゴブリンの頭に命中した。イヤな感触が手に伝わる。殴られたゴブリンは、頭から血を流して昏倒した。
「立てるか?」
俺は少女に駆け寄り、声をかけた。
だが、少女は状況が飲み込めないようで、おびえた表情を浮かべ、意味不明な言葉を口走った。
「■■■■■■!」
ここで俺は一つの重大事に気がついた。彼女には言葉が通じないのだ。これはかなり困ったぞ!
なんとか彼女を立たせて、この場から逃げ去りたいのだが、彼女の顔に浮かんでいるのは困惑と警戒のみ。
そりゃそうだ。見知らぬ男が奇声を上げて棒を振り回しながら突撃してきたわけだから、この子にとって俺は恐怖の対象でしかないだろう。
俺たちがあたふたしているうちに、ゴブリンたちが体勢を立て直し始めていた。
奴らは地面に落ちていた石斧や棍棒を拾うと、俺を威嚇するように吠えた。
(このまま見逃してくれる——ってわけにはいかないだろうな)
数は二対四。
しかし、少女はこれ以上戦えないだろう。俺はろくに運動なんかしたことないから、実質的には0.5対四くらいだ。背中を緊張の汗が伝う。
俺はとりあえず少女を立たせようと、彼女の腕を取る。
そのときだった。不意に、俺の頭の中に奇妙な声が響いた。
『対象に接触しました。能力値とスキルセットを表示します』
知らない女の声だった。強いて言えば、さっき地獄で会った女神の声に似ている気がする。
戸惑う俺の脳裏に、謎めいた文字列が表示される。
**************************
対象=女冒険者(名称不明)
▽基礎能力値
器用度=19 敏捷度=21
知力=17 筋力=16
HP=2/16 MP=4/19
▽基本スキル
ハリア王国式剣術=7 パルネリア共通語=5
隠密=3 罠技術=1 武具鑑定=1 宝物鑑定=1
ハリア王国式儀礼=4
※スキル【コピー&ペースト】のレベルが足りないため、補正能力値、限界能力値、中級スキル、上級スキル、特殊スキルの表示、およびコピーはできません。
**************************
「うおっ! 能力値、スキルって……なんだよこれ!」
『コピーする項目を選択してください。ペースト可能なあなたのスロットは「2」です』
再び、頭の中に声が響く。
なにがなにやら分からないが、これが〈復讐の女神〉とやらの言う「新しい力」であろうことは、本能が理解していた。
女神から与えられた能力——それはきっと、誰かの能力をコピーする力だ。「スロット」というのは、コピーできる項目の上限数のことだろう。
ゴチャゴチャ思い悩んでいる暇はなさそうだった。
ゴブリンは俺たちを遠巻きに取り囲み、いまにも飛びかかろうとしている。
「ハリア王国式剣術=7、パルネリア共通語=5をコピー、スロットにセットしろ!——って、これでいいのか!?」
『
謎の声が応答した瞬間。
二匹のゴブリンが、別々の方向から同時に飛びかかってきた。
普通なら絶体絶命の危機である。
しかし、俺の身体はゴブリンの動きに反応し、自然に動きはじめる。
右から来た一匹に向けて鋭く踏み込み、喉に横薙ぎの一閃。木の棒とはいえ、それなりの重さはある。喉を潰されたゴブリンは、「ギィッ!」としゃがれた悲鳴を上げて倒れ込む。
さらに、俺はその勢いを殺さぬまま身体を半回転させ、斜めに斬り上げるように棒を振った。何かが砕ける感触が手に伝わってくる。
もう一方から飛びかかってきたゴブリンが、指を潰され武器を落とす。
俺はすかさず棒を上段に構え直し、一気に振り下ろした。ゴブリンは片腕を上げて攻撃を防ごうとしたが、俺の打ち下ろした棒は、防御した腕もろとも、やつの額を叩き割る。
続けて、仲間を倒されて恐慌状態になった残りの二匹が飛びかかってきたが、俺は一刀の元にたたき伏せた。
最後の一撃を放った際、棒の耐久度は限界に達したらしい。中程で折れた棒の切れっ端が宙を舞い、地面に突き出た石に当たって、固い音を立てた。
「すごい……」
背後から俺の戦いを見ていた少女が、呆然とした様子で呟く。
どうやら、言葉も通じるようになったようだった。
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