第48話
「ミーシャ、たしかに俺はアリアとキスしたが、それに嫉妬したのか?」
俺はそう言って、ミーシャを見た。
ミーシャは、明らかに嫉妬しているような仕草と表情なので、さすがの俺でも気付いたのだ。
「別に嫉妬じゃないけど……」
ミーシャはそう言って口ごもった。
「そうか、嫉妬はアクセサリーみたいなものだ。それを一つや二つ持っているのであれば、それだけミーシャは輝けるぞ」
俺は嫉妬しているミーシャを見つめて、微笑んで言った。
「はいはい、ありがとう。もういいわよ」
ミーシャはそう言って、俺の言葉を軽く流した。
それを傍観していたクロームは、フフフと口元を抑えて笑い、そして口を開く。
「二人のやり取りは面白いわね。ところで、話を戻してもいいかな?」
「ああ、いいぞ」
俺がそう言ってクロームを見ると、ミーシャも同意して同じように彼女を見て、コクッと頷いた。
「ありがとう。何も気付いていない、鈍感なサクヤに教えてあげるわ」
クロームはそう言って、妖艶な目つきで俺を見ながらニコッと笑った。
「俺って鈍感なのか?」
「そうね。サクヤが鈍感じゃなかったら、世の中に鈍感な人なんていないわよ」
俺はミーシャに、小さく呟くように尋ねたが、盛大に毒を盛ったような言葉を吐かれてしまった。
キスした事への嫉妬がかなり深いようだな……。
「サクヤが私とキスした時に、私の神通力があなたに付与されたのよ」
そう言ってクロームは微笑みながら俺を見つめて、口元に指を当てた。
「キスして神通力が付与されるものなの?」
俺より先にミーシャがそう言って、クロームに問いかけた。
ミーシャがそう言うのも無理はないか。
「もちろんよ。破壊神のあなたが知らなかったのは予想外ね」
クロームは苦笑いを浮かべてそう言った。
「神人と融合するか、徳を積むか……その二つだけではなかったのか?」
ミーシャに続いて、今度は俺がクロームにそう問いかける。
「フフフ……。そんなわけないでしょ。私も全ては知らないけど、幾らでも方法はあるらしいわ」
クロームはそう言って、俺とミーシャを見て微笑む。
俺とミーシャは、村長から聞いた二つ以外の方法がある事実に驚いてしまった。
「なるほどな。そうなると、俺はキスした事で、どんな力が付与されたのだ?」
俺は、もしクロームが付与された力を知っているのなら、教えてもらいたい事だから尋ねる。
するとクロームは、すぐに口を開く。
「時の力への耐性よ」
それはつまり、時の神の神通力だけに限定された耐性……という事だよな。
「クロームは、そんな力も持っていたのか?」
「失礼ね。私にも、兄の時の力に抵抗できるくらいの力なら、少しくらいあるわよ!」
クロームはそう言って俺を一瞬キッと睨んだが、すぐに平常心を取り戻したのか、普段の表情に戻った。
そして俺はさらに詳しい事を知るため尋ねる。
「なぜ、時の力への耐性なのだ?」
「サクヤが、悪い人間に消される事を知っていたからよ。アリアとして生きた私は、あくまで分霊。それに関わる人間を監視して、護るのも私の役目よ」
「何が言いたいのだ?」
「この世界は、サクヤが存在した世界とは全く別の時間軸に位置しているの。だから、ここにいる私が見る遡行夢は、あなたの未来であり過去でもある。サクヤがあそこで消されてしまうと、私にとっては不都合だったの」
クロームはそう言って、さっきまでの笑顔から一変して真顔で俺を見つめた。
彼女の言っている事は、一見すると複雑そうに聞こえるが、冷静になって整理すると簡単な事であった。
まず、クロームや今俺が居る世界は、元いた世界とは別の
ここは元いた世界から見れば、過去であり、未来にもなる世界なのだ。
クロウドに……いや、勇者クロウに唆された、時の神クロノスを追って、クロームが俺の元いた世界に分霊を送り、接触を
その途中でクロームの分霊だったアリアと、俺が偶然出会ってしまった。
そして俺がクロノスの時の力で消される事を、クロームは遡行夢によって知ってしまった。
だから、アリアがキスをするように操作して、時の力に耐性を付与したという事だ。
「俺が消されるのが不都合だった……か。それが俺に時の力への耐性を付与した理由なのか?」
「そうよ。サクヤなら、あの悪い人間を倒せそうな気がしたからこそよ。それに、勇者らしくない勇者を、魔王らしくない魔王が倒すなんて面白そうじゃない……?」
クロームはそう言って微笑んだ。
確かにクロームの言う通りかもしれないな。
前世で善とされる勇者が悪とされる魔王が倒すという図式だった。
それが打って変わって、悪とされる勇者を善とされる魔王が倒すという図式になってしまった。
「うわー……。何だか難しい話になってきたわね……」
一方俺の隣で話を聞いていたミーシャは、そう呟いて頭を抱えてしまった。
クロームはミーシャに近寄って頭をポンポン撫でながら、俺の方を向いて口を開いた。
「それとね、キスしただけだと、神通力の付与はできても完全な効果を得られないわ」
「それはどういう事だ?」
クロームの言葉が気になり、俺は聞き返した。
「さっきも言ったけど、付与自体は幾らでも方法があるの。だけど、その効果を使ったり、発揮したりするためには、さっきサクヤが言った二つのうち、どちらかの方法が必要なの」
「そういう事だったのか……」
神通力を付与するには、クロームが言うように幾らかの方法がある。
だが、与えられた力を使うためには、村長が言っていた二つの方法しかないという事か。
「ちょっと待て。そういえば、俺は時の力への耐性を使えるような事をした覚えが無いのだが……」
俺がそう言うと、クロームはため息を吐いて、口を開いた。
「解呪と魔法鍛錬。それだけ言えば、サクヤにも理解できるでしょ?」
そう言ってクロームは俺を見つめた。
「俺がアリアに施した解呪魔法と、学園生活が始まるまでの三日間に行った魔法鍛錬。それが今やっている徳の積み重ねと同じ事だったという訳か」
「そういう事よ」
クロームはそう言い、口元を抑えながらフフフと笑った。
まさかアリアのためにと思って、解呪魔法と魔法鍛錬をした事が、自分の身を守ることに繋がるとは……。
「なるほど……」
俺はそう言い、クロームの言葉に納得するように頷いた。
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