第46話


 アリア似ているのは、顔立ちだけではなかった。

 髪型や目つき、背格好など、挙げてしまえばキリが無い。


 大きな違いがあるとすれば、髪の色が金髪ではなく銀髪で、目の色が碧色ではなく緋色だというところぐらいだろう。

 さすがに驚いて、俺は言葉に詰まってしまった。


「ちょっと、大丈夫サクヤ?」


「あ、ああ……。少し驚いただけだ。大丈夫だ」


 ミーシャは心配そうに俺を見つめているが、アリアはもういないのだと理解しているので、意外と冷静になる事ができたのだ。


《私の声が聞こえる?》


 少女の声が聞こえる。

 それも、声を発したという訳ではなく、通信魔法のように、脳内に直接語りかけてきたように思えたのだが……。


「えっ? 今の声って……」


 ミーシャはそう言って、驚きながら俺を見つめた。

 俺もミーシャと目を合わせて頷き、その声の主と思われる少女の方を向いた。


《あなたは私の声に驚かないのね?》


 やはり、少女は声を発した訳ではなかった。

 少女は、俺とミーシャの脳内に直接話しかけながら、こちらを見ている。


「ミーシャ、これは通信魔法だ。頭の中に直接話しかける魔法だ」


 俺は驚いているミーシャの方を見て、そう言って教えた。

 そして、再び少女の方を向いた。


「通信魔法!? っていう事は、あの子は魔法が使えるの?」


 ミーシャはさらに驚きながら、俺を見てそう言った。

 俺はミーシャに、そうだという意思表示で頷く。


《……なるほど、通信魔法か。この世界に使える奴がいるとはな》


 俺も同じように通信魔法を使って、少女に語りかけた。

 少女は目を丸くして、少し驚いた様子で俺を見つめた。


 自分以外に、通信魔法を使える人物が居た事が、少女にとっては想定外の事態だったのかもしれない。


《驚かないどころか、魔法を知ってるなんて……面白い人。あなた……何者なの?》


 少女は両手を腰に当てて、笑顔で俺の脳内に語りかけた。

 今のところ、少女に敵意は無さそうだが、それでも油断しないように気を付けておこう。


《面白くはないと思うが。俺はこの世界に飛ばされてしまっただ》


 俺はそう発して、ニヤリと笑い少女を見た。

 元いた世界では、魔法学園の生徒だったのだから、俺は嘘を吐いてはいない。

 ミーシャにも会話が聞こえるようにしていたので、彼女は魔王って言えばいいのに……と、俺に目で訴えている。


《という事は、あなたは転移者なのね?》


 少女はクスクス笑いながら、そう語りかけて俺を見た。

 転移の事を知っているという事は、ただの少女では無いだろうな。


「そういう事になるな。そろそろ通信魔法ではなく、普通に話してもらいたいものだな」


 俺はそう声に出して、少女に視線を送った。

 

「私もその方がいいわ……」


 ミーシャは通信魔法で話しかけられた事が、普段と違い慣れていないせいか、疲れたような表情をしながら言った。


「……あなた達は信頼できそうだから、普通に話してあげるわ」


 少女はそう言って、ふふっと悪戯な笑みを浮かべながら、俺とミーシャを交互に見た。


「改めて、俺はサクヤだ。それと、隣に居るのが破壊神ミーシャ」


 俺はミーシャと一瞬目を合わせてから、視線を少女に戻してそう言った。

 そしてミーシャは少女に軽く会釈をする。


「そう……。学生と名乗ると、概念を滅ぼす破壊神が一緒だなんて、なんて面白い組み合わせなのかしら」


 少女はそう言って、フフフと口元を押さえながら笑っていた。

 その言葉を聞いた俺は、少女に対して驚きを隠せなかった。


 俺は、魔王だとは一言も発していないのに、どうして少女はそれを知っているのだ。


「君は一体何者なんだ?」


 俺は少女を見ながら問う。


「私? 私は時の神、クロノス……」


 少女がそう言った瞬間、時が止まったように周囲が静まり返り、誰も言葉を発さなかった。


「クロノス……?」


 俺はクロウドが時の神と融合した事や、その力の影響でここへ来た事。

 元の世界で起こった事を思い出した。


「……そう。クロノスの双子の妹……クロームよ」


「「えっ!?」」


 クロームと名乗った少女は、時の神の妹だと言った。

 俺とミーシャは同時に、それに驚いて声を上げた。


 あの老夫が探していた二人が、双子の時の神だったのは、思ってもみなかった。

 クロノスはクロウドと融合しているのだから、ここには存在しない。

 クロームだけ発見できた事になる。


「そんなに驚く事かしら?」


 クロームは不思議そうな表情をして、俺とミーシャを見つめながら言った。


「少しだけだがな。ところで、何故俺が魔王だと分かったのだ?」


 俺はそう言い、クロームを見る。

 不思議な事に、見れば見るほどアリアに似ている気がするのだが、話してみたらまるで別人なのだ。


「悪い人間にそそのかされて、神の力ごと融合した。そんな哀れな兄を観察していると、それに立ち向かおうとした、魔王と呼ばれる男が現れたのよ」


 クロームは、ふふっと笑いながら、妖艶な目付きで俺を見た。


「それを見れたのは、君の神通力か?」


 俺はクロームに視線を向けて尋ねた。


「そうよ。私は遡行夢が使えるの。あとは、兄みたいに自由自在に……とは言えないけど、時の力も少しは使えるわ」


 クロームはそう言って俺を見る。


「二種類の神通力を持ってるなんて、クロームさんって凄いのね!」


 ミーシャはそう言って、クロームを見つめた。


「そんな事ないわ。兄はさらに分霊術を完全に使いこなしたから……」


 クロームはそう言って、大きな溜息を吐いた。

 分霊術か……。それはクロウドが使った、分霊魔法の基礎構成に利用された可能性が高いな。


「クロームは分霊術を使えるのか?」


 俺は両腕を組んで、クロームを見つめながら聞いた。


「似たような力だったら、少しね……」


 視線を下に落として、クロームはそう答えた。

 その言葉に、俺は何か引っかかる事があった。

 俺は気になった事を、クロームに尋ねる。


「分霊を使って、融合した後の兄に接触したのか?」


 引っかかっていた事……。

 それは、あまりに姿がアリアに似ている事だ。

 それが気になって、俺はクロームに尋ねたのだ。


「接触したわ。……ほんの少しの間だけね? ……サクヤ」


 クロームはそう言い、最後に俺の名を呼んで、再び妖艶な目つきで見つめた。


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