第31話


 俺とミーシャは、一緒にアルル村の周辺を探索し始めた。


「待てよ……」


 俺はこの世界に転移して、初めて探索魔法を発動してみた。

 すると、この村の半径約一〇キロ圏内に十三体の魔物の姿を捉えることができた。


「どうしたの?」


 ミーシャは突然歩きを止めた俺に尋ねる。


「ちょっと気になる事があってな……」


 魔物の姿を……その輪郭を捉えられた事に、俺は驚きを隠せなかった。

 実践試験で、探索魔法を発動した時には、魔法罠マジック・トラップの場所は把握できたのだが、どんな罠なのかという詳細までは分からなかった。


 それに対して、今発動している探索魔法は、その姿を捉えるだけでなく、対象の力や強さといった詳細を含めて感じ取れるのだ。


「サクヤ……何か変よ? ニヤニヤして、凄く怪しい顔してる」


 ミーシャに言われて気付いたが、自分自身の魔力が高まっている事を実感して、俺の口元は自然に緩んでしまい、怪しいニヤケ顔になっていたようだ。


「別に怪しくはないぞ?」


「どこがよ! めちゃくちゃ怪しいじゃない!!」


 俺はニヤケ顔をやめたので、怪しくは無い筈なのだが、ミーシャは間髪入れずにツッコミを入れた。


「とにかく……気をつけてくれ。この村の周辺に十三体の魔物が潜んでいるぞ」


「えっ!? っていうか、サクヤはそんな事も分かるの?」


 ミーシャは、俺が魔物が潜んでいる事に気付いた事実に驚いたようで、そう聞いてくる。


「分かるも何も、これも魔法だ。魔物の場所や姿を確認できるだけだがな」


「サクヤが恐いわ……」


 ミーシャはそう言っているが、破滅の力を持っているミーシャの方が十分に恐ろしい気がするぞと、俺は言い返そうかと思ったが、胸の内に留めておいた。


「まずはフロウド・ウルフから討伐するぞ!」


「うん、分かった!」


 俺は転移魔法ヴァンデルを使って魔物に接近するため、走り出そうとするミーシャの手を握った。


「ちょっと……こんな時に何やってるの!?」


 ミーシャはいきなり手を握られた事に驚きながら、頬を赤らめ俺を見てきた。


「走っていくのは時間と体力の無駄だ」


「じゃあ、どうやって向かうのよ?」


「こうするんだ……。転移魔法ヴァンデル



 一瞬景色が歪み、俺とミーシャは一番近くに潜んでいるフロウド・ウルフの近くへ移動した。



「さて、討伐するか」


 俺がミーシャの方を向くと、彼女は呆然として立っていた。


「ミーシャ? ……大丈夫か?」


「え? あ、うん……大丈夫」


 我に返ってミーシャはそう言いながら、辺りをキョロキョロと見渡す。


「安心してくれ。村からはそんなに離れていないぞ」


「それは分かるけど……。さすがに驚くじゃない」


「説明してなくて悪かったな」


 フロウド・ウルフはこの先に潜んでいる。

 ミーシャに転移魔法の事を説明するのは、フロウド・ウルフを討伐をした後でいいだろう。


「この先の洞窟に一〇体のフロウド・ウルフが潜んでいるようだな」


 俺はそう言って二〇〇メートル程先にある洞窟の入口を指差した。


「えっ!? 十体も潜んでるの……?」


「どうした?」


「フロウド・ウルフとはいえ、十体は多すぎるわ! サクヤ、一体ずつおびき寄せて倒しましょう!!」


 ミーシャは俺にそう提案してきた。

 アルル村に来る途中に遭遇したのは三体だった。

 だから多少の集団戦闘はできるものだと思っていたが、ミーシャには難しいか……手刀で戦っていたし……。


「その必要はないぞ」


「サクヤ……私の話聞いてた? 数が多すぎるのよ?」


「たかが十体だろう? 試したい事があるから、任せてくれ」


 俺は離れた距離から火球魔法フレイアの魔法陣を構築してゆく。

 入学試験の時に、他の受験者が直径二〇センチ程の火球を魔石に飛ばした初級魔法だ。


「ちょっと……何よこれ!?」


 ミーシャは俺が洞窟の入口に向けて伸ばした右手に、魔法陣が浮かんでいる事に驚いているようだ。


火球魔法フレイア


 俺がそう詠唱すると、自分の身長と同じくらいの炎の渦が洞窟に目掛けて放たれた。

 放たれた炎は入口から中へ進んでゆき、耳を塞ぎたくなるほどの轟音と共に爆発した。

 その風圧が、洞窟から二〇〇メートルも離れている俺とミーシャに吹き付ける。


「今の何……?」


 ミーシャは目の前の光景に頭が追いつかないようで、ただ立ち尽くしている。


「そうだな……初級の火の玉が飛ぶような魔法だ」


 本来はそれが火球魔法フレイアなのだ。

 アリアでさえ五〇センチ程の火の玉を発生させるのが精一杯だった。

 俺もここまで大きな火の玉……いや、炎の渦が飛び出すとは思ってもみなかった。


「火の玉ねー」


 ミーシャは俺をじとーっとした目つきで見ながら棒読みでそう言った。


「普通の魔力だったらそうなるんだが……」


「サクヤは異常だって事?」


 ミーシャ、異常と言うには語弊があるぞ……他の人より魔力があるというだけだ。


「異常って……酷い言われようだな。おそらくだが、魔族の時の魔力が戻っているような気がするんだ」


 俺はミーシャにそう告げた。


「サクヤが嘘を吐くとは思えないから信じるけど……そうよね」


 ミーシャはフロウド・ウルフが潜んでいた洞窟の方をチラっと見て、何か納得したように頷いた。

 そこにあった筈の洞窟は火球魔法フレイアの衝撃で崩落して、その原型を留めていなかった。


「信じてくれて助かる」


 俺は探索魔法で次の標的を探す。

 人のように二足歩行ができる魔物か……。


「そういえば、残った三体の魔物はどこにいるの?」


「ここから一〇キロ離れた所にいるようだが、フロウド・ウルフではなさそうだ」


「え!? フロウド・ウルフじゃないの?」


 ミーシャはフロウド・ウルフ以外の魔物だと言われて驚いている。


「ああ、二足歩行ができる魔物のようだ」


「……フロウド・オーガね」


「知ってるのか?」


 ミーシャが魔物の情報を知っていてくれれば、探索魔法で得られない内容も分かるので、非常に助かる。


「知ってる。……それなら単体だったら倒せそうね」


「近くに居るのはフロウド・オーガ一体だ」


「それなら早く行きましょ!」


 ミーシャは俺の手を握った。

 説明をしなくても、転移魔法を使うのに術者に触れる必要があると理解してくれたのだろう。


転移魔法ヴァンデル


 俺とミーシャはフロウド・オーガの討伐へ向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る