第30話


 周囲を見渡すと、数軒の木造の建物と多くの畑が目に付く。

 山脈の麓まで下りてきたとはいえ、ここもなかなか肌寒いので、俺は防御魔法をそのまま維持した。


「サクヤ、アルル村の村長に挨拶しましょ!」


「ああ、そうするか」


 俺はミーシャに案内されて村長のところへ向かう。

 着いたのは村の中の他の建物と比べると少し大きな建物だった。


「村長ー! お久しぶりですー!」


 ミーシャはそう言いながら建物の中に入っていくので、俺もその後を追って入ることにした。


「これはこれは……ミーシャちゃんじゃないか……。久しぶりじゃのう……ホッホッホ……」


 そう言って村長と言われる、長い顎鬚が特徴的な白髪の老人がミーシャを笑顔で出迎えた。


「サクヤ、この人がアルル村の村長よ」


「サクヤだ。よろしく」


 俺は村長に名前を名乗り、軽く会釈をした。


「ワシがこの村の長を務めるアンシアーノじゃ。サクヤ君……よろしくのう」


 村長はそう言って俺に右手を差し出す。

 俺もそれに応えて右手を差し出し、握手をした。


「サクヤ君は……ミーシャちゃんのかのう?」


 村長は左手の小指を立てて俺に聞いてきた。


「村長! からかわないでください!! 私とサクヤはそんな関係じゃないです!!」


 ミーシャは顔を真っ赤にして、村長に間髪入れず言い返した。


「どういう意味だ?」


 俺は、村長のジェスチャーの意味が分からず、ミーシャに尋ねた。


「あれは……その、恋人って意味で……」


 ミーシャは、さっきまでのようにキレの良い返事をしなかった。

 顔を赤くして、小さな声で言ったのだ。


「俺達、そういう風に見えるのか?」


「お願い、それ以上何も言わないで!」


 ミーシャはそう言って、俺の質問を遮りながら、肩のあたりを軽く叩いた。


「ホッホッホ……仲良きことは美しきかな……」


 村長はそう言って笑いながら、俺とミーシャのやり取りを眺めていた。


「もー……。村長も変なことをサクヤに言わないでくださいよー」


 ミーシャは、勘弁してといった表情で、村長に向かって言った。


「サクヤも……アリアちゃんが居るんだから、勘違いされるような態度をとっちゃダメ」


 ミーシャは続けて、俺を指差してそう言った。

 確かに勘違いされると、誤解を解くのに時間がかかってしまうので、気を付けるようにするか。


 ……俺は、何か勘違いされるような事をしたのだろうか……。


「そういえばミーシャ……」


「……!! どうしたの!?」


 俺が話しかけると、ミーシャは一瞬ビクッとして返事をした。

 そんな驚くような大声も出していない。むしろ小さな声で話しかけたくらいなのだが……。


「……この世界の住人以外の者が神通力を使う方法ってあるのか?」


「えーっと……。私は知らないから、村長に聞いてみて!」


 俺の質問はミーシャによって、見事に村長へ振られた。


神人しんじん以外が使う方法とな……。そうじゃのう……」


 村長は腕組みをして沈黙した。



「あるとすれば二つの方法じゃ」



 沈黙を破り、村長はそう言った。


「「二つ!?」」


 俺とミーシャは二つある事に驚き、同時に声が出た。


「なんじゃ、そんな事も知らなかったのか……。まあよい。一つ目は神人と融合する事じゃ」


 忘れていたが、クロウドも時の神と融合したと言っていたな……。


「それで二つ目の方法は?」


 俺が聞く前に、ミーシャの方が興味を持って村長に聞いた。


「そう慌てるな……二つ目は徳を積む事じゃ」


「徳か……」


 この二つしか無いのか……。

 クロウドと同じように神と融合するのが一番手っ取り早いのだろうが、あの男の真似はしたくない。

 神通力を使えるようになる方法がもう一つあるのだから、俺はそれで力を得てクロウドを倒せばいい。


「サクヤは優しいし……徳なんてあっという間に積めちゃうんだから、そっちにしなさいよ!」


 前半部分は聞かなかった事にしておこう。

 ミーシャも、俺が徳を積みながら力を得る方が良いと思っているようだ。


「そうだな、それが良さそうだ」


 徳を積むとなると、かなりの時間を要するだろう。

 元の世界に戻る際に俺が消滅した直後に戻ってしまえば、どれだけ時間がかかろうと問題は無い。


「そういえば、一つ言い忘れとったわい」


 村長が何か思い出したようで、俺とミーシャに向かって言った。


「「忘れていた事……?」」


 俺とミーシャは、また同時に声が出た。


「融合すれば、その神の力を得られるが……徳を積んで得る神通力には、のじゃ」


 それはマズイな……。

 クロウドを倒せるような力が無ければ次は無い。

 これで仮に植物を成長させるような、生活を豊かにする力が手に入った日には後悔してもしきれない……。


「ミーシャ……」


「嫌」


 ミーシャは俺の言葉を遮って即答した。


「待て、俺はまだ何も言っていないぞ」


「どうせ、私と融合したいとか言い出すんでしょ!」


 ふむ……。ミーシャの破滅の力は非常に魅力的だが、その発想は無かったぞ。


「確かにミーシャは魅力的だが、それに気付かなかった。すまない」


 俺は、その発想が出てこなかった事を、ミーシャに謝った。


「魅力なんて無い無い。出た出たサクヤ節」


 ミーシャはそう言って、俺の謝罪を軽く流した。


「ふーむ……。サクヤ君の発言は、傍から見ればミーシャちゃんを口説いているようにしか聞こえんぞ……」


「村長、何か言いました?」


「いや、何でもないぞ。ただの老人の独り言じゃ……」


 村長は小さな声で何か呟いたようだが、俺は聞き取ることができなかったうえ、見事に話を濁された。

 とりあえず、徳を積めば神通力を使える事が分かった。

 それなら、今はこの世界で困っている人々を救ってあげるのが一番の方法だな。


「そういえば、この村で起こっている問題とか……あります?」


 徳を積むのなら、些細なことでも人助けを……と思い、俺は村長に聞いてみた。


「……そうじゃのう……。今までは滅多に出てこなかった魔物が、食料を求めて村の畑を荒らしてしまう事かのう……」


「村長! 魔物退治なら、私とサクヤに任せて!!」


 先程まで静かだったミーシャが急に話題に入ってきた。

 魔物退治なら、確かに俺とミーシャが協力すれば造作も無い事だろう。

 ミーシャは俺の方を見たので、俺も協力の意思を伝えるように頷いた。


「決まりね」


 そう言ってミーシャはニコッと笑った。


「ありがたいのう……2人共、頼むぞ。 それと……くれぐれも無理はしないようにのう」


「ありがとうございます。行ってきます!」


「ありがとう村長! 行こうサクヤ!」


 俺とミーシャは早速魔物退治をするために外へ向かった。

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