第20話
俺が泣き続けるアリアを抱き締めて、どのくらいの時間が経ったのだろうか。
アリアも少し落ち着いたようで呼吸も安定している。
「アリア、大丈夫か? あまり無理はするなよ」
俺はアリアを心配して言った。
「ありがとう……。少し落ち着いた……」
アリアは泣いて少し赤く腫れてしまった目で、俺を見つめながらそう言った。
「大丈夫ならいいのだが。話を戻してもいいか?」
クロウドは俺とアリアに尋ねる。
俺は抱きしめたまま、アリアに視線を移すと、彼女ら小さく頷いた。
どうやら大丈夫そうだな。
「ああ、大丈夫だ。続けてくれ」
俺はそう言って、クロウドに視線を戻した。
「わかった。落ち着いたところで……アリア、君は何故アルメスの跡を継がなかったのだ?」
クロウドはアリアに尋ねる。
貴族が当主の跡を継ぐ。
それは国政に関わる立場になるという事だ。
そのため次期当主になる者は、王家で審議にかけられた後、国王から直々に任命されるのだ。
それは、跡を継ぐ側に余程の問題が無ければ、流れ作業の如く進んでゆくのだが。
「……父の跡を継ぐって話は無かった……」
それがアリアの回答だった。
「妙だな。貴族の当主が亡くなった場合には国王から任命の伝達を受けた使者が現れる筈なのだが……」
クロウドはそう言い、口元に手を添えて考え始めた。
「使者が途中で何者かに襲われたという可能性が、あるのではないか?」
俺はクロウドに問う。
「その可能性は限りなくゼロに近いだろう。王家の使者は普通の人間には気付かれない程、高い隠密活動ができるのだからな」
クロウドは俺の問いに、そう答えた。
普通の人間ならそうだろう……。
だが、魔族が関わっているのならば、そう上手くいくとは限らない。
「アルメスを殺したのが魔族だという話の裏を取れていれば……。という前提の話だが、魔族が相手だったとしたら……。いくら王家の使者の隠密活動が上手かったとしても、逃げる事さえできないのではないか?」
クロウドは俺の質問を肯定するように頷いた。
「……そういえば……」
アリアは声を発して、俺に抱きついたままの両腕を解き、クロウドに視線を移した。
「……父は貴族の中に、魔族が紛れているって言ってました……」
「「何……!?」」
俺とクロウドは同時に声を上げた。
アルメスは貴族の中に魔族が紛れている、その事実に気付いた。
だから口封じのために殺されたというのが真相だったのか。
魔族の存在は、俺が考えていたよりも、この国にとって深刻な問題になっているようだな。
「貴族の中に魔族が紛れたとなると、王家もこの問題に一枚かんでいる……。そうだろう?」
俺はクロウドに視線を送って問う。
魔族が関わっているのなら、王家の使者がアリアの元へ現れる事が無かった事実に納得がいく。
「ああ、その通りだ。という事は、かなり前から魔族は復活していたという事になるだろう」
クロウドはそう言って腕組みをして下を向いた。
「……サクヤ……大変な事になってる……」
アリアはそう言い、俺の服の袖を掴んで、不安を隠しきれない様子だ。
「かなり前からという事は、何か心当たりがあるのか?」
俺は先程のクロウドの発言に、気になる部分があったので尋ねた。
「……今から五年くらい遡った話なのだが、前の国王が病に倒れ亡くなった。そして今の国王が王位継承した」
クロウドはそう言う。
「つまり、魔族が今の国王を
俺はクロウドに問いかけた。
前世の記憶がこの体に宿った時期と被っているが、偶然だと信じたいものだ。
「その可能性は高いだろうな。不敬な考えになってしまうが、今の国王が魔族を手引きしたのだろう」
クロウドは表情を変えず淡々と自らの考えを述べる。
「そこまで考えているのなら、裏を取ることもできたのではないか?」
クロウドが五怪しいと疑う王家を、五年間もそのまま放置しているとは思えない。
だが、クロウドは無言で首を横に振った。
「すまない、サクヤ。実はこの学園を創立するのに、私が前の国王に協力を懇願した経緯があるのだ。だから私には下手な真似ができなかったのだ」
クロウドには、動きたくても動けない事情があったのか。
そういう事であれば仕方ない。
そして、クロウドは一呼吸置いて、また話し始める。
「サクヤ……私の前世の記憶と比べたら、今の魔法は衰退している。だから、私はこの学園を守り、魔法の衰退を止めなければならない。そして、魔法で世界が豊かになり、皆が幸せに暮らせるような未来になるために私は尽力するのだ」
クロウドは魔法の衰退を止め、豊かな未来を創るために学園を守る立場に居る。
だから、怪しいと感じていても今の国王に対して、学園を王命で潰されないように大人しくしていた……という事か。
しかも、魔族が現れたら分霊を持つ者だけでどうにかするという、無茶苦茶な作戦を俺に力説していたが、そこまで気付いていたのか。
「つまりクロウド……。本当は、アンタは自分の代わりに動ける人間を待っていたのか?」
助けが必要だって立場的に言えないものなのだろう。
もし魔族討伐に分霊を使う事があれば、それに割かれた人の数だけ、学園の運営が大変になる事は目に見えている。
そもそも、前世の記憶がある人間に
「ああ……そうだ。全てお見通しという訳か……」
クロウドはそれ以上何も言わなかった。
「何も言うな。俺が
俺は元々魔族だぞ。
ぼっちだったとはいえ、魔族の手の内くらいは理解している。
「だがサクヤ、この学園の試験に合格した程度の魔力では、私どころか他の分霊にも及ばないぞ?」
その通りだ、クロウドが言ったことは事実だ。
だが、クロウドは俺が魔力を抑えている事を知らないから、並みの人間程度の魔力しかないと思っているのだろう。
それなら、俺の抑えた魔力を開放して直接クロウドに見せるのが一番手っ取り早い。
ただ、ここで開放すれば、魔力の圧で学園は半壊するかもしれないうえ、隠してきた正体が他の生徒達にもバレる可能性もある。
どちらにせよ、遅かれ早かれ魔族が侵攻してきたら魔力を開放する事になるだろう。
俺の現世での考えと、クロウドの学園を創設した考え、お互いの利が一致する。
それに、クロウドに対して『前世の記憶がある人間に
俺は嘘を吐いてはいないが、前世が魔王という事だけは隠している。
嘘も隠し事も同じ事だ。
貫き通せない隠し事があるなら、自ら公開してしまおう。
「他の分霊にも及ばないと言ったな? その言葉、すぐに撤回させてやるよ」
俺はそう言ってクロウドに視線を送りニヤリと笑う。
「フフフ……試験の解答どころか、お前という存在が大問題な気がしてきた……」
クロウドも俺に視線を送りニヤリと笑った。
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