第18話
俺の問いかけにクロウドは目を見開き言う。
「察しがいいな。確かに俺は勇者の第一分霊だ」
……何故クロウドは答えられたのだ?
分霊には過去の記憶が残らない。
だから、自分に宿っているという自覚を含めて無いのだから、分霊だなどと言う事自体おかしな話だ。
それなのに、クロウドは自らを第一分霊だと名乗ったうえ、自分を除いた五体の分霊の存在まで把握している。
ましてや、現世に転生した何体目の分霊なのか、それを答えられる筈が無い。
だが、クロウドは現にそれを俺に言ったのだ。
「何故分霊だと言えるのだ? しかも第一分霊とまで。確証はあるのか?」
俺はクロウドに問う。
一つ考えられるとしたら、勇者クロウも分霊魔法を参考にして、俺と同じように記憶が残るように修正した、転生魔法を構築したのかもしれない。
「確証か……。断片的ではあるが、俺には前世の記憶がある」
クロウドは俺を見ながらそう言う。
断片的に前世の記憶を引き継いだ事が事実なら、それは興味深いな。
俺と勇者クロウの出会い方がもし違う形だったのならば、一八〇度違う未来になっていたのかもしれないな。
「それで、その前世の記憶というのは、どういうものなのだ?」
俺しか知らない前世の世界、断片的とはいえクロウドが本当に記憶を引き継いだというのであれば、俺が関わらなかった世界の真実を知る事ができるかもしれない。
「大まかに言うと、人間が魔族を討伐するきっかけと、それによって討伐された魔王の最期……これだけだ」
クロウドはそう言いながら、両腕を組む。
断片的というより、何かのメッセージのように、意図的にそこだけを残しているようにも感じた。
もし、仮に勇者クロウが何らかメッセージとして、その記憶を残した状態で分霊を転生させたのであれば、現世に起こる天災を知っていたのだろうか。
例えばクロウドの言った魔法磁場が歪む事。それに気付いていたという事か。
もう少しクロウドの記憶を確かめてみる必要があるな。
「その記憶が残っているのだな。ちなみに魔王の最期は、具体的にはどんな感じだったのだ?」
俺はクロウドに、本当に記憶が残っていると言うのであれば、答えられて当然の質問を投げかける。
『勇者が消滅魔法を使い、一方の魔王は転生魔法を使った。魔王の身体は勇者の消滅魔法によって消滅したが、魔王の記憶と魔力は転生魔法によって転生し、新たな身体に宿った。』
それが筆記試験の最終問題で、俺が解答した文章の締めの部分。
これくらいの質問であれば、俺の解答を知っているクロウドに魔王だと疑わないだろう。
もしかしたら、興味本位で聞いてきたのだと捉えてくれるかもしれない。
「お前の解答は私の記憶にある魔王の最期と、ほとんど遜色ない。お前は解答に書いていない、さらにその先の事が知りたいのか?」
クロウドが俺に問う。
疑われる様子も無いので、俺は内心ニヤリと笑う。
俺が頷くと、クロウドは一呼吸置いて話し始めた。
「ミスリルの剣先に施した消滅魔法を発動して、勇者クロウは魔王の心臓を刺した。そして魔王は塵のようになって消えた。……それでいいか?」
淡々と語るところを見る限り、どうやらクロウドは本当に記憶を持っているのかもしれない。
転生を疑うだけの事はあるな。
クロウドは魔王を消滅させたとは言っていなかった。
「ああ、十分だ。ところで、他の分霊も同じように記憶を持っているかどうか、それは分かるのか?」
クロウの発動した分霊魔法は、俺の知っている分霊魔法ではない。
クロウが修正した転生魔法に近い分霊魔法。
それについても、情報を集めるに越したことはないだろう。
「他の分霊には記憶が無いだろう。試験の問題を解かせてみても、私の予想を大きく外した解答しか出ていないのだ」
クロウドは少し残念そうに、苦笑いをして言った。
「そうか……」
クロウドだけが前世の記憶を持っていて、他の分霊に記憶が無いのであれば……なるほど、そういう事か。
仮説だが、クロウドを
そうすれば分霊だけで討伐パーティーを組めるうえ、全員がクロウの分霊なので、魔力の波長が似ている。
それを利用して、波長の似ているもの同士であれば、その中で魔力を共有できる筈だ。
そのために、ある程度の高い水準の力を持った人間が誕生する時を狙って、その身体に分霊を宿す。
おそらくだがパーティーのリーダーには、その高い水準の中でも統率力があり、特に潜在的に強い力がある人間が選ばれて、記憶も引き継がれるのだろう。
目の前に立っているクロウドの魔力は、俺を除けば現世に転生してから見た中で一番高い。
そしてパーティーのリーダー、クロウドの強い魔力の波長に共鳴するかのように、他の分霊達も一同に集まってくる。
しかも、この世界では高い水準の魔力を持つ人間ならば、俺と同じようにこの学園へやって来るだろう。
だから結果的に、とても効率的に分霊を一箇所に集めることができたのだ。
そこまで勇者クロウが考えていたのかどうかは、俺の知った事ではないがな。
「ちなみに、分霊魔法で何体の分霊が誕生したのか知っているのか?」
俺はクロウドに問いかける。
元々分霊魔法は、無限に分霊を誕生させるような魔法ではない。
数が分からなければ、分霊全員集まっているのかどうかさえ分からない。
それに討伐するのなら、戦力は多いに越した事はない。
「記憶が正しければ、私を含めて七人だ」
クロウドは腕組みをしたまま、記憶を辿って問いかけに答えたようだ。
だがそれだと、あと一人足りないという事になる。
俺はさらにクロウドに問いかける事にした。
「あと一人はどうしたんだ?」
それなりの力を持つ人間なのだから、この学園に来ないというのは考えにくい。
「分からない」
クロウドは即答して、首を横に振った。
「分からないってどういう事だ?」
俺は切り返してクロウドに問う。
もう少し詳しく聞き出せればいいのだが。
「もう一人居るのは間違い無いのだが、今はその波長が感じられない」
クロウドはやりようがないといった表情で答える。
俺は聞き逃さず、気になる点を突くために口を開く。
「今はって事は……つまり、過去に存在したのか?」
クロウドの言葉から、そう捉えるべきだと思ったのは俺だけだろうか。
俺はクロウドに視線を送るが、一言も発することなく沈黙したままだった。
「……数ヶ月前に波長が消えた」
クロウドは沈黙を解いてそう言った。
「……サクヤ……」
アリアは俺の名前を小さな声で呼ぶ。
そして、ずっと腕に抱きついたままだった身体を解き、俺とクロウドの間に立つ。
「君は確か……アリアだったな。どうした?」
クロウドはそう言い、俺からアリアへ視線を移した。
「……理事長。……波長が消えた一人の名前。……本当は知ってますよね……?」
アリアはそう言って、クロウドに波長が消えた人間の名前を尋ねた。
クロウドは隠していた事を見抜かれたのかのように反応しているようにも見える。
「チッ……。アルメス・エールだ……」
クロウドは軽く舌打ちをしてから、名前を言った。
その名前に、今度はアリアが反応する。
「……その人は……私の父です……」
アリアがそう言うと、クロウドは驚いた表情をした。
アリアから父の話は聞いたことが無かったな。
そもそも、話題にも出てこなかったのだから仕方のない事なのだが。
だがアリアとこれからも一緒に居るのだから、当然知っておくべき事だな。
「そうか……君は
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