第15話



「お、おはようアリア……」


 アリアの顔を見ると昨日の事を思い出してしまい照れてしまう。

 お互いに好きだと言ったものの、どうしていいのか分からないので気まずい。

 見つめ合ったままの俺とアリアの間に沈黙が続き、アリアも昨日の事を思い出して頬が赤くなってきている。


「そ、そういえば学園に行く準備をしないといけないな」


 俺はベッドから降りて、アリアにそう言いい、沈黙を破って話題を作ろうとする。


「……うん……準備しなくちゃ……」


 アリアもベッドから降りて学校に行く準備をし始めた。

 結局不自然な沈黙が続いたまま、俺とアリアは学園に向かう準備をしたのだった。


 俺とアリアは準備を終えて、巨大な城フェルネの外に出る。


「……このお城って……他の人に見つかったりするのかな?」


 アリアが俺にそんな質問をした。


「この世界の人間の魔力では、見つけることはできないと思うぞ」


 俺は不安そうな表情をしているアリアに、ニヤリと笑って即答した。


「……この世界ではってどういう事?」


「魔法が衰退してるって言っただろ? 探索魔法を使えるような人間はいないだろう。それに目に見えなければ、ここまで来るな奴はいないだろう?」


「……確かに……」


 アリアは納得して頷いた。

 余程の事がなければ、誰もこんな僻地に来ることは無い事を知っている。

 それを前世の時にしっかり学べたからこそ、こうして活かせているのだ。

 不可視魔法で巨大な城フェルネを見えないように隠蔽して、俺はアリアの手を握り、転移魔法ヴァンデルを発動して王都へ向かった。



 ◆◇◆



 俺とアリアは王都から少し外れた所へ転移した。


「ここから学園まで歩いて向かおう」


 俺はそう言って、アリアを見つめる。


「……サクヤ……王都まで少し遠いよ?」


 アリアは俺を見つめながら、そう言っている。


「わざと離れた所に転移したんだ。転移魔法ヴァンデルを学園の近くで使うと、かなり目立つだろ?」


 衰退して失われた転移魔法ヴァンデルを使ったところを目撃されれば目立ってしまうので、極力避けたいという俺の思惑がある。


「……そうだけど……でも、合格発表の日に使ったよね…?」


 俺の言葉にアリアは、とても的確なツッコミを入れた。

 なかなか痛いところを突いてくれるではないか。


「あの時はアリアの爆弾発言で、周りが騒がしくなっていたからな。どさくさに紛れて使ったから大丈夫だろう……」


「……紛れてないし。……十分目立ってると思う。あと……あの事を言うの……ダメ」


 アリアはで弄られるのが嫌なようで、顔を赤くしながらそっぽを向いてしまった。


 それから暫く歩いていると、王都の城門が見えた。


「……王都に戻ってきたね……」


「ああ、そうだな」


「……久しぶりに来たみたい……」


「三日しか経っていないのだがな」


 俺とアリアは他愛のない会話をしながら王都に入った。


 俺は初めて王都に来た日の事を少しだけ思い出した。

 あの時は夕暮れで酒場からは賑やかな談笑の声が聞こえており、屋台からは料理のいい匂いがしていた。


 だけど、今は日が昇り始めたばかりの時刻だ。

 前に訪れた時と同じ場所を歩いているはずなのに、静寂に包まれているせいか、夕暮れには聞こえなかった石畳を歩く俺とアリアの、カツカツという足音だけが建物に反響していた。

 そんな些細な変化でさえ、前世を孤独に過ごしていた俺には新鮮な物だった。


 そんなことを考えながら歩いていたら学園の入口に到着していたので、俺とアリアは案内板を見て教室に向かった。


 教室に着くと既に二〇人近くの生徒が登校しており、いくつかのグループになって談笑していた。

 新しい環境での仲間作りだろう。


 やはりそういうのは苦手だな。

 そう思いつつ一番後ろの角の方の席に俺とアリアは座った。


「……サクヤ……」


 アリアが俺の手をギュッと握る。

 周囲を見て、自分が一人になってしまうのではないかと、不安を覚えたのだろうか。


「大丈夫だ。アリアの傍には俺が居るぞ」


 そう言うとアリアは安心したのか、手を握っている力を少し緩めた。


「サクヤさん、アリアさん、おはようございます!」


 赤髪の男子……リグレットが俺たちの元へ歩いてきた。


「お、おはよう」


「……おはようございます……」


 俺とアリアはそう言って、リグレットに軽く会釈をした。


「今日から学園生活が始まりますけど、もしご迷惑でなければ仲良くしてください」


 リグレットは丁寧にそう言って会釈をする。


「俺は構わないぞ。アリアはどうだ?」


 俺はそう言って、アリアの方を見る。


「……私も大丈夫ですよ……」


 アリアも俺に合わせてくれた。


「という事だ。こちらこそよろしく頼むぞ、リグレット」


「……よろしくお願いします……」


「試験の時といい、今回の事といい、なんと二人はお優しい! 僕の方こそ、よろしくお願いします」


 リグレットはそう言って、深くお辞儀をして俺の隣に座った。

 

 その直後、教室に眼帯をしたオールバックの男が入ってきて教室を見渡す。


「よし、全員揃っているな。俺がこの学年の担任を務めるカーティスだ。よろしく」


 カーティスは、渋い声で自己紹介をした。

 どうやら俺たちの担任の先生だったようだ。


「これから三年間、君たちには魔法についてしっかりと学んでもらう事になる。分からないことがあったら何でも聞いてくれ。俺からは以上だ」


 そう言ってカーティスは教室から出ようとしたが、何か思い出したかのように踵を返して、俺の所へ向かってきた。


「サクヤ……だったかな?」


 カーティスは唐突に俺の名前を呼ぶ。


「ああ。……ところで何で俺の名前を?」


「ちょっと話題になったものでな」


 アリアの言った通り、転移魔法ヴァンデルを使った事がマズかったのだろうか。


「話題……だと?」


「そうだ。その話題の事で学園の理事長が話があるそうなのだが会えるか?」


 いきなり学園の理事長が出てくるとは。


「今からが?」


「今からだ」


 拒否権は無い。黙ってついて来い。そう言いたげな表情で俺を見た後、背を向けて歩き出した。

 俺はカーティスについて行くため、席を立ち上がった。


「……待って……」


 アリアはそう言って俺を呼び止めた。

 俺とカーティスが立ち止まり、アリアの方を振り返ると、彼女は席を立ってついてきた。


「アリアも一緒で構わないか?」


 アリアの事を思って俺はカーティスに提案する。

 カーティスは既に視線を戻して歩き始めていたが、少し歩いたところで立ち止まり、口を開く。


「……まあ、いいだろう。ついて来い」


「すまないな」


 カーティスがアリアの同伴を承諾した。

 そして、俺とアリアはカーティスの後をついて歩き始めた。


「……サクヤ……ありがとう……」


 アリアは俺の隣を歩きながらそう言った。


「アリア……礼を言うのは俺の方だ。ありがとう。俺も一人だと少しばかり心細かったのでな」


 俺がそう言うとアリアは少し微笑んだ。


 カーティスについて歩いていると、徐々に周りの空気が変化してゆく事に気付いた。 

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