第7話
試験が始まって、どのくらい経ったのだろうか。
俺とアリアは無理をしないように気を付けつつ、山頂を目指して歩き続けていた。
俺は近くにあった小石を拾い、それを目の前に投げると、どこからともなく魔法網が飛び出てきた。
「これで七つ目の罠か……」
「……多い……」
網を使った捕縛罠が四つ、落とし穴が三つ。
二人で発見しただけでも、これだけの数が見つかったのだ。
ここまでの道中に俺とアリアで見つけた以外にも、罠が発動した形跡が何ヶ所かあったのだが、そこに受験生はいなかったので、恐らく無事に脱出したのだろう。
この罠が受験生のレベルに合わせた妨害だとすれば、探索魔法を使えない彼らには、この程度の罠でも脅威になるだろう。
脱出するだけでもタイムロスに繋がるうえ、怪我をしてしまえば日没までに山の頂上との往復は厳しいのだから。
試験開始から一時間くらい経過しているが、俺とアリアは山の七合目辺りまで登った。
「アリア、少し休憩するか?」
俺はアリアの方を向いて提案した。
「うん……そうする……」
少しだけ息の上がったアリアがコクっと頷くと、額から汗が零れていた。
この先は勾配が急になってくるから、俺はアリアに無理はさせたくないので気遣う。
アリアがしゃがみ休憩する隣で、俺は魔法罠に使っている探索魔法で他の受験生の位置も調べた。
ほう……山の頂上まで一番近いパーティーは五合目付近、遠いのは二合目付近といったところか。
このペースなら山頂から一番離れた所にいる受験生も、日没までに山頂へ到着して戻って来れるだろうな。
「ところで、アリア……疲れていないか? 休憩しても時間に余裕はあるぞ?」
俺はアリアの様子を見てみると、呼吸は落ち着いてきたようだが、それでも心配してしまう。
「ちょっとだけ……でも大丈夫」
健気だな……。そして素直で良い子じゃないか。
俺はそっとアリアの頭に手を当てた。
「サクヤ……?」
アリアは頬を赤らめて俺を見つめる。
「
手を当てた流れで、アリアの頭を撫でてしまいたいが、そこは気持ちをグッと抑えて我慢することにした。
「アリア……どんな感じ?」
ちゃんと回復魔法が効いていれば良いが…。
「あれ……? 疲れがとれてる……!」
アリアはそう言い、先ほどまでの疲れが取れたので、パッと笑顔になり喜んでいる。
「簡単な回復魔法だからな」
このぐらいの魔法ができないと、生活するのに大変だからな。
「……簡単? それ上級魔法……」
え!?
アリアは俺が回復魔法を当たり前のように使った事に驚いたようだ。
俺は回復魔法が上級魔法という位置付けだった事に驚いた。
「サクヤは魔法を何でも使える……羨ましい……」
アリアが頬を膨らましながら、上目遣いに俺を見てくる。
何をしても可愛いアリアは
「アリアも
「あれは……古い本に書いてあったのを読んで覚えただけ……」
読んで覚えただけって、前世の俺より魔法の才能あるんじゃないか?
「……でも、他の魔法は覚えられなかった……」
アリアがそう言うと、彼女の表情が少し暗くなったように感じた。
「覚えられなかった?」
俺がアリアにそう尋ねたら、少しの沈黙が続いた。
「うん……試験が終わったら話す……」
少しの沈黙があった後、アリアはそう言った。
アリアは試験が終わったら、覚えられなかった理由を教えてくれるようだが、俺は彼女の力になってあげることができるのだろうか…。
とりあえず俺とアリアは試験内容を達成するべく、山の頂上へ向けて再出発することにした。
ここから山の頂上までの間には、罠が設置されていないようだ。
学園の敷地内だからなのか、意図的に麓から七合目あたりまでに罠を設置している。
山の頂上付近の急な勾配で、罠を避けようとして滑落死する。
そうならないように、学園側が考慮しているのかもしれない。
なるほど……。
俺は、死にはしないだろうが、怪我をするかもと言っていた試験官の言葉を思い出した。
罠が無いと分かっているので、あとはバランスを崩して滑落しないように、注意を払って登るだけ。
並んで歩けるくらいの道幅と少し急な傾斜。
地面が砂なので、滑らないように警戒しておこう……。
アリアが羨ましいと言っていたので、魔法も使うのは気不味い。
緊急時以外は使わないようにするか。
試験開始から二時間は経過しただろう。
俺はそれから魔法を使わないまま、アリアと共に山の頂上に到着した。
頂上には岩が積まれてテーブルのようになっているところに、実践試験用魔石と書かれた箱があった。
そしてその中に、沢山の魔石が入れられていた。
「これが試験官の言っていた魔石だな」
「そうみたいだね……」
俺とアリアは魔石を一つづつ持った。
「目的は達成したし、麓に戻ろうか」
「……うん」
ミーシャは俺の発した言葉に頷き、一緒に麓を目指して歩き始めた。
下りの方が滑りやすいので、注意を払いながら進んでいたら、七合目くらいから勾配も緩やかになってきた。
「さっきの休憩地点くらいまで戻ってきたな」
「そうだね……まだ時間も大丈夫だよね……?」
「まだまだ余裕はありそうだな」
「サクヤ……油断大敵……」
アリアは俺にゴール地点まで、何が起こるか分からない。
だから、余裕があっても油断しないでと注意する。
「ごめん。それじゃあ、このままゴール地点に向かおうか!」
「……うん」
俺とアリアは止まることなく登ってきたルートを辿って下りてゆく。
そうすれば登った時に罠を対処しているからタイムロスを防ぐことが出来る。
五合目あたりで他の受験生パーティーと遭遇した。
赤い髪の男子が右足を庇うように歩いており、もう一人の茶髪の男子が肩を貸している。
どうやら足を負傷しているようだ。
「大丈夫か?」
俺とアリアは負傷している受験生の元へ向かう。
「さっき魔法罠で穴に落ちて捻ったみたいなんだ」
そう言って右足に視線を向ける。
「ちょっと見せてくれ」
俺はそう言って右足に軽く触れる。
軽い捻挫のようにも見えるが、試験中の負傷は合格を目指す受験生にとっては致命的だ。
「
「「回復魔法!?」」
俺は赤い髪の受験者の捻挫を治すために、回復魔法を使った。
アリアが先ほど言った、
「少しは楽になったか?」
「少しは……って全然痛くないし、治ってる!!」
そう言って、負傷していた受験生は喜んだ。
「ありがとうございます!!」
俺にそう言って、頭を下げる。
「気にするな。大した事はしていない。それに、この時間なら日没にはまだ間に合う。だから早く行け!」
お礼を言う時間が勿体ないではないか。彼らが日没に間に合ってくれればいいのだからな。
「本当にありがとうございます」
そう言ってもう一度頭を下げた後、彼らは山の頂上へ向かって走り出した。
俺とアリアも改めて、ゴールへ向かって出発する。
「サクヤは優しい……」
アリアは柔らかい表情で俺を見る。
「そうか? あのままだと日没には間に合わなかったかもしれない。当然の事をしたまでだ」
アリアにそう言われると照れてしまい、目線を逸らしながら答える。
俺とアリアは試験開始から五時間弱でゴールし試験を終えたのだった。
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