第6話


 翌朝目が覚めた俺は、アリアの泊まっている宿屋へ向かった。

 店主のおかげで熟睡できたので、体調も万全の状態で試験を受ける事が出来る。


 しばらく歩いていると宿屋が見えた。

 その建物の出入り口、その横に金髪の少女が立っていた。

 どうやらアリアが準備を終えて、俺が迎えに来るのを待っていたようだ。

 俺の足音に気付いたのか、アリアがこちらを向いたので目が合う。


「あ……おはようサクヤ」


 アリアは迎えに来た俺に気付いたようで、微笑みながら挨拶をしてくれた。


「おはよう、遅くなってごめん……。もしかして、かなり待った?」


 俺はすぐにアリアに謝った。

 アリアを待たせないために、早めに出発したつもりではあったのだが、逆に待たせてしまう事になってしまうとは……。


「ううん、今出てきたばかり……」


 アリアは俺にそう言って微笑む。

 俺はアリアがそう言ってくれたので、ホッと胸をなで下ろした。


「そっか……それならよかった。このまま学園に向かうか?」


「うん……」


 俺の提案に、アリア笑顔で頷いた返事をした。

 まだ集合時間には少し余裕があったのだが、早いに越したことはないので二人で学園へ向かう事にする。



◆◇◆



 学園へ着いた時には、既に受験生の半分くらいの人数が集まっていたので、俺はそんな声を漏らした。


「皆集まるのが早い気がするが……」


「……サクヤも早かった……」


 アリアはそう言って俺の方を向いた。

 今更なのだが、俺との身長差があるせいか、小柄なアリアが俺の方を向くと自然と上目遣いに似た表情になる。

 童顔なアリアにそれが見事にから余計に目を合わせるのに困る。


 受験生が揃った数分後に試験官が受験生のところへ歩いて来た。


「おはよう受験生諸君!! 昨日伝えた通り、今日は実践試験を行う。試験を行うから、各自二人ずつでパーティーを組んでくれ」


 試験官の指示で、周りの受験生はパーティーを組み始めた。

 スムーズにパーティーが出来ているところを見ると、皆が早く来ていたのは、試験のパーティーを組む相手を探すためだったのか。


「昨日アリアが言った通りだったな。この試験、よろしく頼むぞ」


 俺はそう言って、アリアを見た。


「サクヤ……私の方こそよろしくね……」


 アリアもそう言って、俺を見つめた。

 綺麗な碧眼で目を合わせられると、次の言葉が浮かばないので咄嗟に目を逸らす。


「……どうしたの?」


 アリアは見つめたまま俺を心配する。


「いや……アリアの碧眼があまりに綺麗だから……」


 俺は、ドキドキするんだとまでは言わずに、逸らしていた視線をアリアの方にチラッと向けた。


「……!!」


 アリアは顔を赤くして固まっていた。

 俺何か変なこと言ったかな……?


「どうやらパーティーは無事に組めたみたいだな。それじゃあ、試験の内容を伝えるから聞いてくれ」


 試験官の声で、アリアは我に返って説明を聞き始めた。


「今から行う試験は、この学園の敷地内のあの山の頂上にある魔石を取ってくるだけだ」


 試験官は山の方を指差しながら言った。


「ただし、頂上までの道中には魔法罠マジック・トラップがあるから気をつけてくれ。死にはしないだろうが、怪我をするかもしれないからな」


 試験官はそう言って注意を促した。

 俺も回復魔法は使えるが、それでもアリアが怪我をしないように注意しないといけないな。


「他のパーティーを妨害した場合は即刻失格となるので注意するように。もちろん協力するのは大丈夫だからな! 制限時間は日没までだから、それに間に合わなかった者も失格だ。それでは試験始め!!」


 試験官の試験開始の合図と共に、受験者がぞろぞろと山に向かい始めた。


 俺は魔法罠マジック・トラップの場所を把握するために探索魔法を使う。

 山全体に二五〇個くらいの魔法罠マジック・トラップが仕掛けてあるのか。

 罠を回避しながら頂上へ向かうルートは……裏から絶壁を登るだけか。

 回復魔法が使えるとはいえ、アリアが万が一怪我したら大事なので却下だな。


 先に山に向かっている受験生は皆表側から山頂へ向かっていた。

 さすがに裏から登る猛者は居なかったか。


「アリア」


 俺は作戦を伝えるため、アリアの名前を呼んだ。


「……どうしたの?」


 アリアはそう言って、上目遣いに俺を見つめる。


「怪我してほしくないから……その、あれだ……俺の傍を離れないでくれるか?」


 俺はアリアにそう言った。

 近くに居てくれれば、すぐに補助魔法を使えるので何かあってもすぐに対応できる。


「え……わかった……」


 アリアはそう言い、少し顔を赤らめながらコクっと頷いた。


「このまま真っ直ぐ行こう……か?」


 俺はそう言って視線を戻し歩こうとしたのだが、左腕に違和感があったので見てみると……。


「おお!?」


 不覚にも間の抜けた声を発してしまった。

 俺は違和感のあった左腕に視線を移すと、服の袖と握ったアリアが視界に入った。


「離れないように……握ったまま。……ダメ……?」


 ちょっと恥ずかしそうに、だけどしっかり袖を掴んでいるアリア。

 このまま時の流れが止まってしまえばいいのに……。

 まるで、捨て猫が拾ってくださいと足元に擦り寄ってくるかのような……そう、守ってあげたい感覚だ。


「も、もちろん構わないぞ!」


 俺はアリアにそう言う。

 断る奴が居るのならば、そいつに消滅魔法を放つレベルだ。


「……よかった」


 アリアはそう言って、安心したのか袖をギュッと握った。


 気を取り直して探知魔法を使いながら進んで行くと、罠があるポイントに差し掛かった。


「一旦ここで止まろう」


 俺はそう言って、罠から五メートル手前のところで歩くの止めて、近くにあった適当な石を拾い罠に向かって投げた。


「……どうしたの?」


 アリアが俺を見て尋ねるが、言うより見せてみよう。


「こういう事だよ」


 俺がそう言った時、投げた石が地面に当たった。

 すると、どこからともなく魔法網が飛び出してきた。


「……魔法罠マジック・トラップ!」


 アリアはそう言って、罠が発動して驚いているようだ。


「そのようだな」


 俺はアリアに返事をした。


「……何で分かったの?」


 アリアは不思議そうに俺に尋ねてきた。


「何でって、探索魔法を使ったからだよ」


 俺はアリアの質問に答えた。


「……探索魔法?」


 アリアはそう言って、きょとんとした表情で俺を見る。

 魔法の衰退で探索魔法が『現存しない魔法の一つ』となったのだろうか。


「二人で学園に入学できたらアリアに教えてあげるよ」


 俺はアリアにそう言って微笑んだ。

 探索魔法は初歩的な魔法なので、アリアならすぐに覚えるだろう。

 魔力消費も探索規模に比例するので、狭い範囲から練習すれば大丈夫だから。


「……ありがとう……」


 アリアはそう言って俺に微笑み返した。

 一つ目の罠をクリアした俺とアリアは山頂に向けて歩き出した。


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