第1話 女神がくれる能力は大抵SSSランク
意識を失っていた僕の目の前に現れたのは美しい女性だった。
「美しい...」
「そう言ってもらえてとても嬉しいです。」
どうやら思っていたことが声に出ていたようだ。艶やかな髪。大きな目。整った鼻。すっぴんとも思える綺麗な肌。そんな彼女に僕は少し見惚れてしまった。
はっと気づき体を起こすと僕は頭を整理し始めた。確か僕は自転車に乗ってて凄まじい衝撃に体が飛ばされたはず...
そこまでしか記憶がない。多分交通事故かなにかにあったと思うのだが、、、
辺りを見渡すとドアもない薄暗い部屋をシャンデリアの光が照らしている。しかし、どういうことだろうか、ここは明らかに病院ではない。本来ベッドで寝ているはずが、硬い床に寝かされていた。
「色々混乱なさっている様ですね」
困惑しながらも女性に質問する。
「ここは一体どこなんですか。僕はどうなってしまったんですか。...思い出せない。一体何があったんですか」
「あなたは生前の事故で脳にダメージを負っていましたから記憶がないのも仕方ありません。」
生前ということは、
「...僕は死んでしまったのですか?」
声が震えているのが自分でもわかる。家族と親友を置いて死んでしまったのか。その事実に耐えられる人間がいるだろうか。
「はい。残念ながら。暴走トラックに轢かれて。」
いや、しかし、実感がまるで湧かない。じゃあ一体ここは天国なのか。そう考えている内に涙が出てきた。悲しいわけではない。実際理解できているわけでもないのだ。しかし、全く痛みを感じないこと、この異様な空間が僕に真実を教えてくる。
「最近いらっしゃる方々はほとんど泣かずに喜ぶ方が多いのですが、そうですか。あなたは生を楽しんでいらっしゃったのですね。」
「当たり前じゃないですか!多少の不満はあったけれど、僕は人生を謳歌してたんです。死んで喜ぶ様な無様な生き方はしていません。」
完全に混乱している。何も関係ない人に当たるなんてどうかしてるといつもの僕なら思うだろうが、こんな状況では仕方ないじゃないか。
「その言葉今まで来た方々に聞かせてあげたいです。」
ふと女性が見せた僕以外の誰かに向けられた憐れみに僕は気付く余裕がなかった。
そのまま僕が泣き止むまでこの女性は側にいてくれた。母さん、父さん、シルフィ。レオン。馬鹿な僕を許してくれ。
数十分たった後、僕は気持ちを落ち着かせ、彼女の話を聞いた。
「先ほどは失礼しました。」
「いえいえ。気にしてませんよ。しかし、貴方はまだ幸せな方です。ある特定の死に方をした特定の年齢の方は記憶を引き継いだまま別の世界へ転移できるのですから。」
別の世界に転移?なにか聞き覚えがあるような。
「その世界は様々な宗教、多くの王がいて争いが絶えず発展速度が遅いのです。よって他の世界の人間を投入することで飛躍的に人類を発展させようという計画が進んでおります。」
それもどこかで見たことがあるような。
「しかし、あなた方のような戦闘経験や生存技術のない方をいくら投入しようとも即死が不可避ですので特別なスキルを与える規定になっています。」
この展開...まさか!
「少し待ってください。僕の服も一緒に転移されているということはバッグもこちらに転移されてないですか?」
「え?ああ。はい。ありますよ。」
そう言ってなにもない空間から出現した僕のバッグの中から‘あれ’を取り出す。
「あった。いせかいなろうのすヽめ。」
取り出したそれを見るや否や女性が驚きの声を上げた。先ほどまでの冷静さを失い興奮している。
「...!それは、まさか。聖書!なぜあなたがそれを持っているのですか。」
(やはりか。)
「これは元の世界にあったもので、しゃぱんという国から輸入された物です。」
「しゃぱん、、、神が私たちを想像した場所。」
膝から崩れ落ちる女性。確かこの本によると天使が転移前に様々なサポートをしてくれると書いてあった気がする。となるとこの女性は天使なのか。
「あなたは聖書になんと書いてあるから分かるのですか。」
「生憎僕はシャパニーズを勉強していないので、申し訳ないですが...」
「そうですか...それは残念です。」
女神は一瞬絶望した顔を見せるがすぐに元通りに話を続けた。
「先ほどお話した通り、あなたにはスキルが与えられます。それはランダムに決まりますので、どうぞ2枚お引きください。」
そうすると目の前にテーブルと伏せられたカードが数十枚ほど出てきた。これを外すと、転移後の世界で生きることが難しくなる。まず第一に欲しいのは、生きるためのスキル。理由は簡単。1人で生きる可能性が一番高いからだ。そして次がコミュニケーションのスキル。言語関係を取らないと敵と思われる可能性があるからな。
悩みに悩んで選んだカードは...
「細胞最適化」「恒常性最大化」の2つだった。
全く読めないが、女神が説明するにはこうらしい。
細胞最適化とは、外部刺激を受けるとそれに細胞が瞬時に適応すること。
恒常性最大化とは身体に起きた異常を元に戻すこと。
「おめでとうございます。どちらもSSSランクですね。とても効果が高いため、あちらの世界でも役に立つことでしょう。」
どちらも生存に役立ちそうだ。だが、これで見知らぬ土地の言語を一から学ばなくてはならないことが決定した。
「こちらでも勉強になるのか。」
しかし、考えれば熱い場所でも寒い場所でも暮らすことができるというのは生存確率が高くなるはずだ。何事もポジティブに考えねば。
「それではスキルも決まりましたので異世界へ出発していただきます。」
「分かりました!色々ありがとうございました。」
「では、最後に1つだけ。創造神はこう仰りました。神は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず。なれば何が上下を分けるか。それは学ぶことであると。」
「では。行ってらっしゃいませ。」
天使がそう言うと、僕の意識はまた飛んでいくのだった。
なるほど。全ては自己責任とは、、、神は慈愛には満ちてないらしい。
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第1話 end
いせかいなろうのすヽめ さとうさな @sana024
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