XⅡ―最後の選択―(後編)

 夕食を食べ終えて、片付けに入った。


 天児は流し場に鍋と皿を入れた。美守に自分がやっておくからと言ったが、片付けまでやらせてと言うものだから、二人ですることにした。


「……楽しかったわね」


 皿洗いをする美守はふと呟いた。


「騒がしかったけどな」


「騒がしい食事ならあったけど、楽しい食事だなんて久しぶりだし、騒がしくて楽しいのなんて初めてだから」


 美守は今までしてきた食事を思い出しながら言った。その想い出には死ぬはど辛いはずだったのに、そう言ってくれたのに天児は心動かされた。


「これから毎日そんな食事になるぞ」


「え……?」


 キョトンとする美守に天児は頬を赤く染めた。


「だからこれからそんなのうんざりするくらい毎日あるんだぞ!」


 勢いまかせ。その言葉が似合うほど天児は早口で言った。


「……フフ」


 美守は全て聞き取って笑った。


「そうだといいな…」


 美守は言った。その言葉は天児の気持ちを沈ませた。その気持ちをごまかすために、鍋を洗いながら言った。


「やっぱり無理、だよな……」


「どうして?」


「どうしようもない二択を迫られてるんだ……世界かソラか……どっちも大事なことなんだ、でも、どっちを選んでも無理だってことはわかっている……だから、もうこんな楽しい食事は無理なんだってな」


「………………」


 美守も黙り込んだ。


 台所にしばしの沈黙が流れた。


 美守が最後の一枚を手にとったところでようやく口を開いた。


「誰が決めんだろうね?」


「何を?」


「二択だって」


「あ……」


 そう言われて天児は気づいた。


「エージュが決めたの? それとも、あなたが決めたの?」


「多分……俺、だな」


 天児は自嘲した。


「馬鹿らしいな……勝手に二択だって決めてた……」


「……よかった」


 美守は微笑んで言った。


「ソラを殺すような選択したら私……許さなかったと思うから」


「ああ、俺も許せないと思う」


「気づいてよかったね」


「美守のおかげさ、ありがとう」


 天児は微笑み返した。




**********




 時計を見るともう十一時だった。


(今日は十一時五十九分か……)


 ミッドナイトスペースが開かれるのは、その時間だと確信できた。


 エージュは今日から明日に変わるギリギリまで天児に選択させる猶予を与える。そんな気がしてならなかった。その時間が近づくにつれて確信に変わった。


「兄ちゃん…」


 将が声をかけてきた。


「起きてたのか」


 天児は意外そうな顔をする。いつもなら、眠っている時間で眠ったのならちょっとやそっとでは起きなさそうなほど寝つきがいいはずなのに。


「兄ちゃん、話あるんだ」


「話?」


 将は天児のテーブルの隣に座っている美守に目をやった。


「とにかく、外だ外!」


「お、おお…」


 天児は将の勢いに気圧されながら、一緒に外に出て行った。


(いってくる…)


 外に出る際、天児は心の声で美守にそう言った。


 美守はそれを承知したのか、小さく頷いた。


 月の出る街の通りを二人で歩いた。


「………………」


 歩いてしばらくは無言だった。将は何かを言おうとしているのだが、どこかためらっているようで、天児は将が言い出すまで待った。


 そうこうしているうちに、二人は公園についてしまった。


「……話って何だ?」


 ここで天児がようやく声をかけた。そうしなければずっと沈黙のままになりそうだと思ったからだ。


 その声で背中を押されたのか将は、口を開けた。


「ソラ姉ちゃんと美守姉ちゃん、これからどうするんだ?」


「どうするって……?」


 将からそんな話がくるなんて意外だった。あの二人がこれからどうするかって当の二人から聞くべき話だし、将や空は特に気にしていないことだと思っていたからだ。


「美守は行くところがない、記憶が戻ってもソラはソラだからな」


 天児は自分の考えを言った。


「あいつ、何者なんだよ?」


「ソラのことか?」


 将は頷いた。食事中にもソラを不審な目で見ていたからすぐにわかった。


「記憶が戻ってから別人みたいだし、なんか隠してるみたいだし……」


 将は言いづらそうに言った。この話をしなくては、と思いながらもしたくないようにも見えた。


「お前はソラが嫌いなのか?」


 天児は訊いた。


「嫌いじゃない、けど……」


「好きでもないのか?」


「そういうわけじゃ…」


 将は素直に言わず、そっぽ向く。


「空はソラが好きだぞ」


「はあ?」


「家族だからな。好きになるときだってあれば、嫌いになるときもある。そいつはしょうがないことだ」


「兄ちゃん、あいつが家族だと思ってるのか?」


「ああ、あいつは家族さ」


 天児ははっきりと答える。


「納得できねえよ……」


 将の反応は当然だと思った。急に記憶が戻って部屋に戻ってきたのだから、将にとってみれば他人が居座ってきたように見えてもおかしくないのだから。


 だからこそ、同じような立場にたったことのある自分のことを話さなければならないだろうと天児は思い立った。


「あのな、将は……大事な話があるんだ、聞いてくれないか?」


「ん?」


 天児が足を止めたのを見て、将も急に足を止めてバランスを崩しかける。そこから持ち直すまで待ってから天児は告げた。


「俺はお前らのお兄ちゃんじゃないんだ」


「何言ってるんだ…?」


 将は最初、冗談だと受け取ったみたいだが、天児の真剣な表情で言うものだから、息を詰まらせる。


「冗談だろ、兄ちゃん、冗談言うのヘタなんだからよ…」


「……ヘタだからわかるだろ? 俺が冗談で言ってるのか、本気で言ってるのか」


「本気、ってわけかよ……」


 将は天児が思っていたよりも早く受け入れたようだ。そうなると天児も躊躇いなく話せた。


「そういうことだ、本物の天児はな……遠いところに行っちまってな。代わりに俺がやってこさせられたわけだ」


 これで信じてもらえるかどうかはわからないが、とりあえず将に本当の事を話した。


「……やっぱり…」


 将は不意に呟いた。


「やっぱりってどういうことだ…?」


 天児は気になって訊くと、将は戸惑いながら体を揺らしながら、やがて意を決して言ってきた。


「……兄ちゃんが本当の兄ちゃんじゃないって……わかってた……」


 思いもしなかった将からの言葉に天児は唖然とした。


「……どうして…?」


「いつからかもうわからなくなっちまったんだけど……何か違ってたんだよな、俺の知ってる兄ちゃんと……もっとこう頭良くて、何考えてるかわからないイメージだったんだけどな……今の兄ちゃんは違っていた……」


「それは、俺はバカだってことか?」


「おう、バカだ」


 その返答を聞いて、天児は苦笑した。


「でも、そっちの方が俺はよかったんだよな。なんていうかずっと一緒にいたらそんなのどうでもよくなったつうか……父さんと母さんが死んだときも、兄ちゃんは泣いてくれたじゃねえか……」


「ああ……あの時か…」


 天児は両親が死んだときの事を思い出した。二人の顔は思い出せなったが、将と空と三人で泣き明かしたことだけは憶えている。あの時は、本当の両親が亡くなったようで悲しかったということもあったが、今思うと悲しむ二人の気持ちが自分にもうつったのかもしれない。


「それでもうどうでもよくなったんだよな……ああこいつ、俺の兄ちゃんなんだなって…」


「そうか……」


 将はその時の悲しみを思い出したのか、瞳が潤んでいたが笑顔で言ってくれた。天児もそれに笑顔で返した。


「それに毎日俺達のために頑張ってるのみて、誰が兄ちゃんじゃないって言えるんだよ?」


「そう言われると、頑張ってきた甲斐があったんだな…」


 天児は思い出す限り、将と空と過ごした振り返った。すると、新聞配達して学校行ってバイトして、とにかく大変で辛かったことばかり思い出してしまう。だが、そうやって過ごしてきた日々こそ、将と空の兄として過ごしたかけがえのない記憶だったのだとわかった。


「ソラも同じだよ……今は記憶が戻ったばかりで混乱しているから隠し事しているようにも見えちまう。だけど、いつか俺みたいに家族だと思える日がくるからさ、信じてやれ」


「くるのかな……?」


 将は不安げに訊く。すると天児は自信満々に答える。


「ああ、絶対にくる」


「……わかった、兄ちゃんを信じるよ」


「……ありがとな」


「水臭いぜ!」


 将は照れ隠しに笑顔で答えた。


「あ、でもよ、美守姉ちゃんはずっといててもいいよ」


「ご飯がおいしいからか?」


「ちげえよ」


 将は笑顔で首を横に降る。


「だってよ、美守姉ちゃんは兄ちゃんの、なんだろ? だったら俺にとっても姉ちゃんだよ」


 どこかで似たような台詞を聞いた気がするが、思い出せなかった。だが、こういう言葉を聞いてどう対処すべきか身体が憶えていたようだ。


「こいつ! バカいってんじゃねえ!」


 天児は将の頭を小突いた。




**********




 公園から部屋に戻るとすぐに将は眠った。


「すっきりしたんだな…」


 天児はその様子を微笑ましく見た。


「私のことで何か話していたの?」


 ソラが不安げに訊いてきた。


「いや、なんでもないよ」


 天児はあっさりと答えた。


 そこでふと時計を見ると、もう十一時五十分だった。


「もうすぐ、ね…」


 美守の緊張感のある口調で言った。自分の手に持った懐中時計を見ている。それを見て何やら決意を固めているようだった。


「ああ…」


 天児はソラと顔を見合わせた。


「ミッドナイトスペースが開かれたら、俺は決めなければならない……」


「わかってる……」


 ソラは覚悟はできていると言いたげな態度だった。


「どんな事が起きてもあなた一人で背負うことはないわ」


 美守がそう言ってくれた。それで気持ちがいくらか楽になった。


「ありがとう……」


 天児はそのことに礼を言うと、視界が歪む。


「ついにきたか…」


 天児の全身に緊張が駆け巡る。ミッドナイトスペースが開かれるときはいつもこうだ。ファクターと戦う事、記憶を失う事への恐怖で身体を支配しそうだ。


 だがそれをいつも覚悟を決めて恐怖を抑え込む。


 今回は同じ事。ただいつもと違うのはどんな結果が待っていようと戦う決意が加わっている事だった。




**********




 音も無く風も無く人もいない空間。あるのはビルが規則正しく並ぶ街並みと空が黒以外の色を許さずそこにはあった。


「ソラがいないわね」


 美守が辺りを見渡して天児に言った。


「ソラはエージュの意思に関係なくミッドナイトスペースに来てしまう……多分その影響で俺達と別の場所についてしまうんだろう」


「でも、最初のうちはあなたと一緒だったじゃない?」


「………」


 天児は少し間を置いてから、自分の考えを言った。


「ソラは最初は取るに足らない小さな存在だった、ってエージュは言っていた。だからミッドナイトスペースに来る際にも俺と一緒に来れたんたのかもしれない…」


「エージュのこと、よくわかるのね」


 美守は少し驚きの表情を見せて感心した。


「なんでか、わからないけどな……」


 天児はそのことを美守に言われて自分の頭が冴え渡っていることに気がついた。


 何故かはわからない。だが何か記憶の奥底から湧いてくるこの感覚は初めてのことだった。


「多分、これが……」


 そう言いかけた瞬間、轟音が鳴り響いた。二人は思わず耳を塞いだ。塞いだ後に、音のした方向を見る。


 ファクターだ。薄く円盤状に5メートルほど伸びたドス黒い身体が上空に浮かんでいた。その半分ほどを丸い、黒しかない身体の中で映える白い眼球と細長く針のような黒い瞳ですぐにファクターだと判別できた。


「ファクター……でも、攻撃してくる気配がないけど……」


 美守はファクターを見上げて、ただ浮かんでいるその様子を見て言った。


「……あれも選択の一つってことだな」


 天児はそう言って、ファクターを見上げるのをやめた。


「選択の一つ……?」


 美守は頭に疑問符を浮かべて天児の視線を追った。


 その視線の先に二人の人影があった。


「天児、くん……?」


「天夢だ」


 天児にそう言われるまで美守は天児と認識していた。それほどまでに天夢は天児に似ていた。


「思っていたよりもそっくりなのね」


「あいつがそうなるように俺を作ったらしいからな」


 天児は自分でも驚くほど平然とその言葉を言えた。


「実際よくできたと思ってるよ」


 それに天夢が返してきた。


 音が無いせいか声がよく通り、距離があるにも関わらずはっきりと聞こえた。


「おかげでお前の代わりに『日下天児』を演じることができた」


「感謝してるのか?」


 天夢が訊くと、天児は微笑んだ。


「しているさ。だけど俺には過ぎた代役だったよ」


「じゃあ返してもらうよ……なんて、言うつもりはないよ」


 天児は微笑みから一転して真剣に切り替えて言う。


「そう言ってくる気がしたよ」


「考える事が似通ることもあるさ。同じ記憶を持っているんだからな」


「お前は記憶を無くしているはずじゃないのか?」


「俺を助け出すときに、オーバーロウを使った影響かもしれないな」


「あ……」


 天児は天夢を助け出した時の事を思い出す。あの時、オーバーロウを発動させて天夢とソラとともに時元牢から脱出した。その時、溢れるほどのメモリオンが天夢に移ったのかもしれない。そうなると天夢は天児の記憶を持っていても不思議ではなかった。天児のメモリオンは天児の記憶そのものなのだから。


「あの時は無我夢中だったからな。オーバーロウで何が起きても不思議じゃない……お前に記憶写るなんてこともありえたんだな……」


「あらゆる法則を超える。つまり、俺達の考えられる事象を引き起こすことができるんだからな」


 天児と天夢はにらみ合う。


「よくわかってるな、オーバーロウのことを……」


「エージュから見せられたからな」


「見せられた?」


「違う時間軸のこともな」


「――ッ!?」


 天夢の言葉に天児は驚愕した。


「自分が殺されるところを見せられたのはいい気分じゃなかったがな。もっとも自分を殺した瞬間を見せられた奴もいたみたいだ」


「今度はそうはいかない、あの時とは状況が違う!」


 前にいた見せられていた光景では、彼女と美守は倒れていた。だけど、二人はこうして立っている。それはこの時間軸がその光景を再現するようなことになっていないことを示していた。


「そうだな、だから俺は同じことはしない」


「じゃあ、何をするつもりだ?」


 天児は天夢の口調に企みが含まれていることを見抜いた。


「時元牢に内包されている記憶を使う」


「あの記憶を、か…!」


 時元牢に入ったときに見せられたアクタ達とその記憶が頭に浮かんだのを思い出す。


「確かに別の俺のやり方は時間がかかりすぎた。だから今度はすぐにすむ方法を見つけられた」


「あの大量の記憶をメモリオンに変えれば確かに時間軸の歪みを元に戻せる……」


「そういうことだ」


 天夢は確信を得ている口調でそう言った。


「ダメだ」


 だが天児はその考えを否定する。


「失敗する可能性が高い。時元牢に入って記憶だけを手に入れるなんて都合よくいくはずがない」


 天児はアクタ達の記憶野中に同じことを試みて失敗して時元牢を彷徨うことになった者がいたのを知っていた。都合よくいかないどころか、失敗して時元牢を彷徨うことになる可能性しか天児には思いつかなかった。


「これを使えばできるさ」


 天夢はそう言ってメモリオンの光を手に集中させて日本刀を形成させる。


 その刃は、鋭く眩い光を放ちどんなものでも斬れると誇示しているようだった。


「それは……」


「こいつには3人……いや、4人分のメモリオンが蓄えられている」


「お前と教子さん、ワイルドクロウ……あとはシャッドか!」


 天児は天夢の傍らにいる金髪の少女を見つめて言った。


「………………」


 金髪の少女は沈黙し、サファイアのような瞳はどこを見ているかわからないほど虚ろであった。


 記憶を使い果たしてしまった、天児はそう考えていた。そしてその記憶は今天夢が手にしている日本刀にあるのだと理解した。


「そのとおりだ、これがあれば時元牢にある記憶を手にすることができる」


「手にして、それでそいつをどうするつもりだ?」


「俺が歪みを修正し、この世界を支配する」


 天夢ははっきりと力強くそう言った。


「支配か……確かにあれだけの記憶があれば出来ないことじゃない。だけどそいつは不可能だ」


「何故だ?」


「溢れんばかりの記憶の中には、消したい、忘れたい嫌な記憶が山ほどある。それを全部取り込んで受け入れられるほど人間の心は強くできちゃいない」


 天児は美守の話してくれた記憶を想像し、彼女が泣いてすがりつく姿を思い出した。たった一人の記憶でさえ、心を閉ざして死を選んでしまうほどの絶望なのだ。それが幾千もの記憶を手にしてしまった後の末路は目に見えて明らかで天夢がどうなるか、想像に難くなかった。


「それでも、俺はやる…! やらなくてはならないんだ!」


 天夢の瞳には強い意志が宿っていた。


「やらせるわけにはいかないな」


 天児は剣を思い描くと、身体から湧き出たメモリオンの光が長剣と短剣を形成され、それを手にした。


「お前は将と空の本当の兄だ。たとえ、『日下天児』の記憶を捨て去ったのだとしても、そんなことをさせるわけにはいかない」


「だったら、腕づくで止めるっていうのか?」


 天児と天夢はにらみ合う。


「できればしたくなかった…!」


「いいのか? そんなことをすればまた時間軸は歪む。そして、エージュが時間逆行を始める……全てが無駄になり、またこの戦いが繰り返される」


 天夢は唇を噛み締めるかのように、鬼気迫る口調で続ける。


「そんなことだけはさせない。歪みは正さなければならない! どんなことをしてでも!」


「だけど、そんなやり方は俺が認めない」


「ならば戦う!」


 天夢はそう言って、少女に視線を送る。すると少女は二丁の拳銃を天児と美守に向ける。


 両手の引き金が同時に引かれ、何発もの弾丸が二人に襲いかかった。


 美守は背中からメモリオンの翼を生やして、それを盾にして二人に襲いかかる弾丸を防いだ。その間に天夢はその場から立ち去った。


「美守!」


「これくらいなら平気」


 メモリオンを使えばまた記憶が無くなる。せっかく取り戻した記憶で美守は今の攻撃を防いだのだ。


「1回の戦いぐらいなら、大事な記憶は無くならない」


「だけど…!」


 それでも美守が戦うことには抵抗があった。戦えばまた全ての記憶が消えてしまうんじゃないかという懸念があったのだ。


「あなたは、天夢を追って!」


 天児は天夢のいなくなった方を見た。


「私なら大丈夫! 何があっても忘れない!」


 こうしている一瞬の間でも時間が惜しい。今にも天夢がファクターの体内――時元牢に突入するかもしれないと焦った。


「……信じて、いいんだな?」


 天児はもう一度美守から聞いて確かめたかった。自分自身に踏ん切りをつけたかったのだ。


「……信じて……あなたを信じているから…!」


 天児はその言葉に背中を押されたような気がした。そして走った。彼女のその向こうにいる天夢を追うために。


 彼女はそれを阻止するために銃口を向ける。


「フェザー・サンショット!」


 美守が翼の羽を飛ばす。彼女は発泡する。


 メモリオンである光の弾丸と、光と化した羽がぶつかる。それは一つではなく、数十にも及び、一瞬辺り一面が光に包まれる。


 光が消えると、天児はその場にいなかった。


 彼女は天児を追おうとするが、美守が飛び上がり彼女の目の前に現れ、立ちふさがった。


「いかせない……あなたは私が止める」


 美神が射抜くような視線で言うと彼女は無言で美守に銃口を向けた。




 ファクターを追っていれば天夢に追いつけると思って上空のファクターに近づくように走った。


 その直感は当たっていた。すぐに天夢の姿を目で捉えた。それと同時に天夢も天児が近づいていることに気づいた。


「どうしても邪魔をするか!」


 天夢は走りを止めて日本刀を構える。


「どうしてもだ!」


 天児の一声と共に、剣を日本刀をぶつける。


 辺りに先程のファクターの絶叫に負けないぐらいの轟音が轟いた。




――不確定要素がいくらあろうとやはりこの瞬間に行き着くのだろう


――0とXⅡは表裏一体。同一の関係……時を指し示す指針の回転のごとく、運命もまた廻り廻って廻り来るもの。


――だがこの先は、未知の展開になるだろう……定められたXⅡの先にある運命


――再び0となりⅠへと進むか、それとも……

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