第15話 引退後はのんびり暮らしたいんです。

 特別顧問と言ってもやる事はほとんど無かった。

気が向いた時に訓練所に顔を出して、適当にアドバイス等をして帰る。

ただ、それだけだった。


「これならメイド喫茶の経営にも差し支えないなぁ」


この時、御影は呑気に考えていたが、これはまだ、序章に過ぎないのであった。


「御影先生! おはようございます」

「おはよう。今日は機嫌がいいからな! 訓練に付き合ってやるよ」


この頃にはメイド喫茶も軌道に乗り、店長である杏に店を任せても問題ないほどであった。


「ちょっと模造刀を貸してくれ」


今日は騎士団の訓練所に来ていた。

御影は騎士の一人から模造刀を受けっとった。


「めんどくせぇから、全員一気にかかってきな! 俺に一撃でも当てられたら、うちのメイドカフェで好きなだけ飲み食いさせてやるよ!」


その言葉で騎士たちは一気にやる気に満ち溢れた。


「「「「うぉぉぉぉ!!」」」」


それぞれ模造刀や模造槍、盾などを構えて御影へ向かってくる。

それを綺麗に躱したり、剣で受け流したり、時にはこちらから攻撃を仕掛けたりと、騎士団20人ほどを相手にしていた。


「なんだ? もう終わりか?」


数十分もすると騎士たちはその場に座り込んでしまった。


「強すぎですよ。御影先生!」


騎士団長のコームが声を上げた。

それに、他の騎士たちも同調するようであった。


「おいおい、そんなんで王様の護衛ができるのかね? 俺はまだ三割くらいしか力、出してないぞ」


この言葉にコームは目を見開いた。


「三割……!? 化け物ですか? あなたは!」

「化け物か。そうかもな」


御影は冗談めかしく笑った。

中にはそれを冗談と思ってない者もいたようだが。


「今日、貸し切りにするからうちのメイドカフェ来たいものは居るか?」


一撃を与えられなかったとはいえ、せっかく頑張ったのだ。

息抜きは必要であろう。


「「「「はい!!」」」」


騎士団全員が手を上げた。

しょうがねぇ、全員連れて行くか。

そろそろ店のキャパも増やしたいと考えている。

御影は騎士団連中をぞろぞろ連れて、自分の店へと歩みを進めた。


「あ、オーナーお帰りなさい」


杏がキッチンから顔だけ出して声をかけてきた。


「あぁ、ただいま。悪いけど、今日は貸し切りで頼む」

「了解です!」

「よし、みんな入ってくれ!」


御影の言葉により騎士団のみんなが入って来る。


「「「お帰りなさいませ! ご主人様」」」


杏を含め三人のメイドが迎えてくれる。


「一人銀貨二枚な!」


御影は黒い笑みを浮かべた。


「えぇ!! 金取るんすか?!」

「誰も奢るなんて言ってないだろ。俺に一撃も与えられなかったんだから、大人しく払え。これでも割引してるんだからな!」


御影はちゃっかりと料金を請求した。

その後というものアルコールも入った為か皆盛り上がっていた。

もちろん、この後任務がある者はノンアルコールだが。


「皆さん楽しそうですね」


一人隅で酒を煽っていた御影に杏が話しかけてきた。


「普段からお堅い仕事に就いているんだ。たまには、ああやって仕事を忘れる時も大切さ」

「そうですね!」


数時間後、騎士団連中はそれぞれ帰路についた。

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