第47話 ドリテルの協会
「もともとは
俺の見解に、マスターは小さく笑った。
「きっとそれも嘘ではないのでしょう。ラヴァンの同僚の方に伺いましたけれど、職員になったのは知人の誘いがあったからだと聞きました」
「職員になる前は戦士だったと?」
「私はそう思っています」
まあ、あれだけの強さだ。
協会に勤める一心で生きてきたヒトだったら勉強が生活の中心であって、拳で岩を砕くような技を身に付けられるはずもない。
「はあ、そうなんですね。でもせっかく首都の協会の、しかも本部に勤めていたのにどうしてあんな地方に行っちゃったんでしょうね」
「……を、……うためです」
「え?」
「…………あ、いえ。その、以前に一度、それもずっと前の話ですが、首都の協会で問題が発覚したのです」
「問題?」
「ええ。それは今後の協会の進退に関わるほど大きな問題で、それが街の者に知れたときに大騒ぎになりました。当時から協会本部は少し、一部のギルドとやけに仲がいいと噂をされていたらしくて、中立でいなければならないはずの協会が懇意にしているギルドと裏で取引をしているのではないか、だなんて憶測もあったほどです。そしてその憶測は、協会内部から告発される形で明るみになりました」
「本当に何か取引をしていたということですか?」
「ええ、技術的なことは私にはわかりませんが、戦士の方々が覚えたい技や魔法がクリスタルではなく、お金で取引されていたという話です」
「お金で!? …………まさか、街のマナに手を付けたんじゃ」
「詳しくはわかりませんが、そのギルドとはそうした取引が行われていた、と」
「なるほど」
それは。なるほど。
それは確かに、バレたら激怒する者は多いだろう。戦士達を中心として、もちろん街で生活するヒトも同様だ。しかも疑惑が掛けられていたところに、本当にそれが行われていたとされれば余計にだろう。当の本人たちは知らん顔をしていたはずなのだから。
「嫌な予感がしてきたのですが」と俺は切り出す。「その内部告発をしたヒトって……」
「そう、それがラヴァンです」
「あー……」
俺は額を手で覆った。
合点がいった。アライクンさんならやりそうだ。やりそう、すぎる。平気な顔をして真実をバラまいて飄々と逃げ出す姿が簡単に思い浮かぶ。
「それはまた、ドデカイことをやらかしましたね……」
「本人は、やりたいようにやっただけだ、誰の事情も関係ない、なんて言っていましたけれど、街からの反響は凄まじいものでした。協会本部の周りにとてもたくさんのヒト達が詰め掛けていて……、当時幼かった私でもよく覚えているくらいに」
「その後はどうなったんですか?」
「ラヴァンは姿を消しました。協会本部と、そのギルドのマスターなどは責任を取ることになったようですが、詳しくは私も知りません。それ以上に、私も身の回りが騒がしくなってしまったものですから、それからしばらくは目の回るような日々で……。やっと落ち着いた頃になってうちの子達からラヴァンを見つけたという報告が入りまして、いまも連絡だけはこうして取ることができるのです」
「はあ、なるほど」
アライクンさんが地方へ飛んだ理由はなんとなくわかった。
けれど、どうも彼女とアライクンさんの接点がうまく掴めない。意図して触れないようにしているのだとすれば、あまり聞かないほうがいいのかもしれない。
「地方へ逃げたといっても、ご家族なんかはいなかったんですかね」と聞いてみる。
「ラヴァンは独り身、のはずだったと記憶しています」
「まあ奥さんとかお子さんがいたらそんなこと出来ないですよね。……そういえば、失礼かもしれませんが、マスターはクロノさんとはご兄弟なんですか?」
「……あら、やっぱり似ているのかしら。クロノは私の少し遠い叔父に当たる方です」
「お、おじ?」
「ええ」
おじさん? クロノさんが?
マスターのおじさん?
「誤解がないように言っておくが」とニルさんが奥で咳払いをした。
「ルグ様はケットシーの中でもミンキ族という珍しい血筋だ。成人するほどの年齢になったとしても背丈があまり変わらないという特徴がある」
「ありがとう、ニル」とマスターは柔らかく口にする。
「……背丈が変わらない? ってことは」と俺は整理する。「クロノさんは見た目の年齢よりもずっと年上ということですか?」
「あら、クロノはまだそれほどではないはずよ。それこそ、あなたの戦士の方達と同じくらいではないかしらね。女の子で言えばちょうど成人するくらいじゃないかしら。年相応に見られないとすれば、むしろ私の方でしょうね」
「ち、ちょっと待ってくださいね」
ん? 何がなんだ?
どうなっている?
「クロノさんが成人した女性くらい、ですか? えっと、マスターは」
「私は今年で28になります」
「にっ……!?」
自分の年齢を言い慣れているのか、相手の反応にも慣れているのか、マスターは俺の質問を失礼とすら思っていない様子で愉しげに笑った。
28? その見た目で? ランキョクさんよりも年上?
それで、クロノさんがレフィやクーと同じような歳で。
さらに、クロノさんはマスターのおじさんに当たるヒト?
時間が歪んでないか?
「よく驚かれるの。でも年下の叔父や叔母なんて、珍しいことではないでしょう?」
「ええ、それは、まあ」
もちろんソレ自体はそこまで珍しくはないが、しかし年齢差が。
要はランキョクさんがレフィのことを叔母さんと呼ぶようなものだ。しかもクロノさんは男性だから、女性が男の子を産める年齢まで考慮に入れると……。
…………だめだ、まったく家系図が想像できない。
「ルグ様、そろそろ……」
「あら、いけない。ニトくん、ごめんなさいね。話が長くなってしまったようね」
「い、いえ、こちらこそ不躾な質問をしてしまいました」
「そんなことはありません。またお話を聞かせてください」
「はい、喜んで」
恐らく急ぎの用事があるのだろう。奥から椅子が動く小さな音がして、部屋を立ち去る足音だけが遠ざかっていった。
去り際にとんでもないモノを置いていってくれたものだ。
ケットシー種のミンキ族か。クーシー種のスコール族みたいなものだろうか。言葉の節々に昔を思わせるような発言があったけれど、なるほどその年齢ということであれば納得がいく。
ゴノーディスのマスコットとは、言い得て妙というやつか。
とりあずわかったことは、アライクンさんは昔から破天荒だったこと。破天荒すぎて地方に飛ぶことになったこと。そしてそのアライクンさんとの繋がりを大切にしている女性がゴノーディスのギルドマスターだということ。付け加えるなら、そのマスターはミンキ族という珍しいケットシーであること。
こんなところだろうか。
「…………ふー」
静かになった面会所に、何ともいえない空気が流れる。
ペウザーゴに始まり、ドリテルというデカすぎるこの街をオビッケンで走り、緊迫した会議を終えてマスターとの会談を行い、精神的には割りとヘトヘトである。この後にまたオーグさんからの案内や説明を受けて、なんなら協会に寄ったりする必要もあるかもしれない。とすると。
早めに、処理しておくべきか。
「レフィ」と俺は口を動かす。「なにか聞きたいことは?」
問いかけは狭い空間を居場所もなく漂い、そして静寂に溶けて消えた。
俺は彼女が言葉を探していることを期待してただひたすらに待つ。先に謝るべきだったかなと小さく後悔したところで、隣から息を吸う音が聴こえた。
「聞きたいことが多すぎて忘れちゃいました」
どこか疲れたような、諦めたような、肩の力の抜けた声だった。
予想よりも穏やかそうなレフィの様子に俺はここぞとばかりに媚を売っておく。
「思い出したものからでいいぞ」
「思い出したらまた聞きます」
「そうか」
「そうです」
「ごめん」
「いいえー」
少しだけ拗ねたような声色に俺は苦笑する。
俺は話さない。話さないヒトだという風に、レフィに理解されてしまっている。それが嬉しくて、同時になんだか申し訳ない。
きっと俺の種族だとか、神性だとか、そんなことは彼女にとって大したことじゃない。
だから。だったら。
もうここで、言ってしまっても、だなんて。
「秘密があるよ」
思ってしまうんだ。
「レフィにいつか言うとは思うけど、今は言えない。いや、言えなくはない。まだ言う気になれない秘密がある。だから言えない」
ここが、誠実さの限界。
「それは前にも聞きましたよ」
「え?」
「スライムのところで約束したじゃないですか、いつか話してくれるって」
「……ああ、そうだったな」
「無理しなくてもいいです。約束は守ってもらいますケド」
「うん」
うん。ともう一度だけ俺は頷き、空気にくすぐられる前に席を立つ。
俺はまた、何かレフィからすれば分かりやすいような表情をしているのだろうか。レフィが俺の顔色を察せるように、俺がレフィを察せないのは本当に不公平だと思う。
不公平だと思うし、その方がいいのかもしれない、なんて思ったりもする。
「終わりましたか」
「はい」
部屋を出るなり、オーグさんに声を掛けられる。
その傍らには先程まではいなかったエノジーさんの姿があった。一応の護衛なのだろうか。だとすれば有翼種のふたりは別の用事かもしれない。
「どんな話をされていたんですか?」
「ほとんどがアライクンさんの話でしたよ」
「そうでしょうね」
話しながら、俺はエノジーさんの方をチラりと見る。すると彼女は大きな身体を素早く翻し、わかりやすく顔を逸らした。そんなに慌ててどうした。
俺が様子を見ていると、なぜかオーグさんが苦笑した。
「ゲンドーゼンでは、申し訳ないことをしました」
「え?」
「いえ、秘密でラヴァンさんに照会を求めたり、6エリアなんて課題を出したりして」
「本当ですよ。オーグさんは意地悪なヒトですね」
「……全然、思ってないですね?」
「バレましたか」
俺はオーグさんと顔を見合わせて笑う。
会議を通して俺はエルフなどという嫌われている種族を名乗り、オーグさんは俺に内緒で密偵のようなことをしていたのに、気まずくなるどころかむしろ会議を終えた今のほうが話しやすさを感じるのはなんとも不思議なことだ。
「ニトさん、あれだけ涼しい顔で『一応、6エリア終わりました』とか普通に報告してくるものですから。こっちだって驚いたんですよ」
「だったらちゃんと驚いてください」
「びっくりしたなあ、もう」
「もう遅いですって」
「セイフィさんもケイファさんも目を丸くしていましたからね。本当はニトさんたちと別れた後にもいろいろと文句をつけていたんですが、それがピタッと止みましたから」
「ああ、それで今朝から大人しいんですね……」
ペウザーゴを待っていたときのふたりは俺がオーグさんの面談を受けたときとは明らかに様子が違っていた。どうやらあれは彼女達なりに俺たちを認めてくれたということなのかもしれない。
ということは、エノジーさんが申し訳なさそうにしているのは、もしかしたら俺の声についてオーグさんに報告したことを後ろめたく感じているのだろうか。
「いないんですよ」とオーグさんが出し抜けに言う。
「はい?」
「ニトさんみたいに、ボクとある程度年齢が近そうな男性っていうのが周りに全然いないんです。ジャベリンやスピアには少しいるんですが、あまり話す機会もないので」
「二位ですもんね、オーグさん」
「早く上がってきてくださいよ」
「無茶言わないでくださいよ」
「無茶じゃないですよ。皆には言っていませんが、ボク個人としては時間の問題だと思っているので。理論上可能な速さで登りつめてください」
「僕たちを何だと思ってるんですか?」
「期待しているんです。構成もなんだかユニークですし」
視界の端で、そのユニークの代表が口をつんと尖らせた。
「そういえば、クーのブラックリストの件は説明していなかったですが」
「ああ、気にしなくていいですよ。今のゴノーディスは実は結成当時のメンバーはあまり残っていなくて、マスターとニル以外のほとんどはその子供や孫に引き継がれているんです。その初期の世代っていうのが、これがなかなかヤンチャなヒト達の集まりだったらしくて、親がブラックリストに入っていたなんてメンバーもそれなりにいるんです」
「なるほど」
「実際、クーシェマさんのあの様子だと、何かの誤解だったんじゃないですか?」
「まさにその通りです」
「やっぱり」
予想通りだとオーグさんが笑う。
なるほど、いまのゴノーディスの前身はそれほどお行儀の良いギルドというわけでもなかったようだ。
「レビューさんでしたっけ」と俺は切り出す。
オーグさんはそれだけで俺が何を言わんとしているのかを感じ取ったらしく、愉快そうに笑った。
「ああ、彼女は、そうですね。一番色濃く前の世代のやり方や精神性を受け継いでいるヒトです。だからこそいまのゴノーディスは物足りないらしいですね。ギルドがだんだんと丸くなって、無難に落ち着いていくことが不安でたまらないってよく言ってます」
「聞き役はたいていオーグさんなんでしょうね」
「そうでもないですよ? 今日の会議みたいに噛み付いてくることはすごく珍しいです」
「そうなんですか」
ということは、普段はオーグさんの前では出来るだけ不満を漏らさないようにしているのだろうか。なんだかイメージが湧きそうで湧かない。
二人きりのときは、それなりに女の子しているのかもしれない。
「少し歩きながら話しましょうか。案内もしたいので」
「よろしくお願いします」
オーグさんの申し出に、俺とレフィは揃って頭を下げた。
* * *
「それでは、また後で」
「わかりました」
なんでも協会の職員のひとりに挨拶をしておく必要があるらしい。
ゴノーディス本部の案内を一通り受けた俺たちは、オーグさんの手ほどきのもとオビッケンでドリテルの協会へ向かった。遠くに見えていた一際高い塔のような建物がソレだったらしく、近づいてみれば建物の上部からは有翼種のヒトたちが大勢出入りしている様子が見受けられた。一般の入り口は目の前にあったので、おそらく建物の上層部は街全体の連絡用の施設か、あるいは有翼種の職員用の出入り口ではないかと思われる。
綺麗な建物内でオーグさん達と別れた俺たちは、閲覧室に向かった。
ちなみに色黒の女性に競走で惨敗したらしいクーは、大泣きしているところを俺が回収し、いまも隣でずこずこと鼻を鳴らしている。クーの泣き顔なんてものを俺は初めて見たけれど、なんとも豪快で、ぶさいくで、格好良かった。
俺が無理やり連行しないことには、あのまま何度でも再戦を要求していたことだろう。
「ここかな?」
ずいぶんと歩き回った後で見つけた部屋には扉がなかった。うすい靄のような空気の膜の向こうには本棚が並んでいるのが見える。
俺がおそるおそる指先を伸ばすと、何の感触もなくその膜を突き抜ける。そのまま息を止めて入室すると、ヒトの声に溢れていた世界が、足音と紙の擦れる音に変わる。
レフィと時間を潰したあのボスメーロの協会とは比べ物にならないほど広い。一階の展示物を中心に、吹き抜けの上り階段から先には書物がまとめられているようだ。
俺たちは適当にそのあたりを見回ってみる。
一階部分の壁際にはへんちくりんな線の模様が並んでいた。全て同じサイズで似たような形が並んでいることから、おそらく文字だと思われる。さらにその隣を見ると、やはりまた別の規則性に則っていそうな文字列が並んでいる。どこの言葉だろうか。
さらに、隣、隣。
どれもこれも一癖ある形をしている。
「……?」
よくよく見れば文字列の下に名前が書いてある。
文字の名前、というのもなんだか変な気分ではあるけれど、きっと学者さん達からすれば大事なことなのだろう。俺には衣服に毛が生えた程度にしか興味がわかない。
はたと、足を止める。
屋根に並ぶ小鳥を順番に眺めていたら、突然、子供の頃に逃がしたはずのオビッケンを見つけたような気分だった。いや、その図体で屋根に上るなよとか、なぜ「自分も小鳥です」みたいな当たり前の顔でそこにいるのだとか、いろいろ問い詰めたい。けれど、やけに見覚えのあるその文字列は知らん顔で沈黙している。
形がわかる。発音もわかる。
なんなら、その並び順が正しくないことすら理解している。
なぜこれが。
「古代文字に興味があるのかね」
しわがれた声はすぐ隣。
俺が顔を上げると、そこにはひとりの老人が立っていた。
背丈は俺と同じくらいだろうか。顔に刻まれた皺には年季が入っていて、頭に生える白髪の量も心もとない。けれど俺はその人物にすぐにピンときた。
「ジストリという職員さんを探しているのですが」と俺は小声で訊ねる。
「ワシがそうだが」
「ああ。初めまして、僕たちは新しくゴノーディスに入る者です」
「ほほう。なるほど、なるほど」
人の良さそうな老人はどこか嬉しそうに俺たちを眺め、そして小さく唸った。
「……どこの子だったかの」
「僕たちはアライクンさんの紹介で……」
俺はジストリさんにことの経緯と、未だ正式加入をしていないことを説明する。
老人は興味深そうに目を見開いた。
その対応の仕方からしてジストリという名前の職員は他にいなさそうに思える。彼がオーグさんの言っていた“歴史が大好きなジストリさん”で合っているのだろう。手に持った数枚の紙も、歴史に関する資料かもしれない。
「なるほど、なるほど。立ち話もなんだ、ついてきなさい、……おっと」
ジストリさんが振り返った拍子に、持っていた数枚の紙が床に舞った。俺が動くよりはやく、レフィがそれをかき集める。すぐに手渡すのかと思いきや、レフィは固まったようにその紙の一部をじっと見つめていた。
俺がそれを背中越しに覗き込むと、そこには見知らぬ名前と適性値や契約情報なのが書き込まれている。俺はすぐにレフィに声を掛けた。
「レフィ」
「あ、あ、ごめんなさい」と、焦ったようにレフィがそれをジストリさんに手渡した。
「ありがとう、お嬢さん」
彼は気分を害した様子もなく、余裕のある足取りで閲覧室の片隅へと向かった。
そのまま背中を追うと、背の高い板に区切られた個室をいくつか目にする。中は外から筒抜けになっているけれど、ここに入室したときと同じような靄の壁が薄く掛かっていた。
ジストリさんは当然のようにそのうちの一区画に入っていく。俺たちもそれに続いて靄を通ると、今度こそ俺たち以外の物音が全て消え失せる。
壁に沿って囲うような柔らかい座席と中央にテーブルが一つ。料理を注文すれば運ばれてくるんじゃないかとすら思える。
老人はその向こう側に、俺たちもそれぞれテーブルを囲うように適当に散らばって座った。
「さて、誰が案内を?」と老人は切り出す。
「オ、ルーンさんにの案内です」
「ルーンさん、か、ははは、初々しいのう。あそこの通名はみな呼び捨てにするのが慣わしになっておるぞ」
「あっ、そうなんですね」
「リズ君もずいぶんと立派になったからのう……」
ジストリさんはまるで昔のオーグさんを思い出すかのように目を細めた。
「ジストリさんは、ゴノーディスの方々とは仲がいいんですか?」
「ワシか? ふむ。そうさの。ただのお節介といったところかの」
「お節介さんですか」
「昔話が好きなお節介さね。君たちはラヴァンの親戚の子かね?」
「親族ではないですが、近しい知り合いではあると思っています。アライクンさんのことを知っているんですか?」
「んにゃ、ラージの話をよく聞いていたからの。話に聞く限り、すすんでコネを使うような男ではないと思っていたが、よほどの事情があると見える」
にやっと笑う老人の表情は歳を感じさせないほどに悪戯だった。
俺は一旦種族の話を置いておくことにする。
「ラー……、ルグさ……、ルグ、ルグ様とは仲がいいですか?」
「はっはっは。そうじゃの。あの子も昔話が好きだからの。ニトくんと言ったか。君こそなにやら古代文字に興味がありそうではなかったか?」
「仲間に引き込むつもりですか?」
「昔を語らうのにヒトが多すぎるなんてことはないからの」
「それでは参加も考えておきます。無学ですが」
「よいよい」
老人は嬉しそうに笑ったけれど、俺にそこまで期待しているようにも見えない。
なんとなく、軽口を交わすのが好きそうな印象を受けた。
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