第45話 加入会議その2




 帽子で隠すというのも、元はパロームおばさんの案だった。

 俺はおばさんの創り上げたストーリーを思い出し、そのまま口に出す。

 

「実際に、こういった反応があるからです。エルフが嫌われているということは小さいころから耳にしていました。僕は種族への偏見はないつもりですが、他の方はわかりません。エルフというだけで生き辛くなることは避けたかったのです」

「ということは、君に西の思想はないと?」

「僕を育ててくれたのはケットシーのおばさんでしたし、いろいろと話を聞かせてくれたのはクーシーのアライクンさんでした。大きな耳もなく、有翼種の方のような耳羽もないのは僕だけでした。むしろそれを不幸とすら思ったこともあります。今聞いた話ではエルフは自分を神に近い存在だと考えているということですが、僕にはまったく理解できません」

「けっ、どうだか」

「シューラ、西で生まれたきみの方がわかるのではないか? 西の思想に染まったエルフが、自らケットシーに変装するだなんてことが本当にあるのか」

「…………」

 

 男性の言葉に赤い髪の女性は黙り込んだ。

 エルフという種族に俺は会ったこともないけれど、どうやらその他種族嫌いという性質は本物らしい。しかもかなり重度と見える。

 

「エルフということであれば、確かに納得だ」と男性は続ける。

「こちらも推薦状を作成した時点ではその神性は67と聞いていた。しかし、先程きみの返事に反応した者がいたように、きみの声は少し特別であるようだ。虚偽があるとすれば協会の規定に抵触すると思うが?」

「その点はボクから」とオーグさんが口を開いた。

 

 テーブルの上に両手を組み、顔を上げたオーグさんはやはり申し訳なさそうな顔をしている。けれど、今となってはその侘びの表情が余裕の表れのようにすら思える。

 皆の顔が奥のオーグさんへと集中した。

 

「ニトさんの声についてはうちのエノジーさんがすぐに気付きまして、こちらでラヴァンさんに連絡を入れました。やはり67というのは嘘の数値でした。ラヴァンさんがおっしゃるには『規定にあんのは“適性を本来の数値より高く偽るなどの偽装行為を禁止する”ってだけだ、低く偽装する分には構わねえだろ?』だそうです」

「…………あのヒトはまた、無茶苦茶なことを」

 

 男性が頭が痛そうな仕草を見せるのと、奥で白い少女がやけに嬉しそうに笑ったのはほぼ同時だった。男性は片目を閉じる。

 

「高く偽る“など”、という部分に、低く偽ることも含まれていると考えるのが一般的ではないか。あのヒトはまさか本気でそんな理論で戦うつもりなのか」

「どうやらそのようですね」

「はあ、相変わらずというべきか、さすがというべきか……」

「ふふふっ」

 

 ギルドマスターと思わしき白い少女は楽しそうに手で口元を覆った。

 渋い顔の男性も声からは想像もできなかったけれど、どうやらギルド内での苦労役を任されているのかもしれない。なんとなく、その苦々しそうな表情に年月を感じる。

 

「それで、正確な数値はいくつと」

「神性が86だそうです」

 

 部屋内にレフィやクーを紹介したときと同じようなどよめきが走る。リズさんより高いのか、ニル並みじゃないか、など、様々な声が聴こえる。

 その納得したような反応の数々に、俺は人知れず胸をなでおろした。

 第一関門、突破。

 

「神性を偽っているのには種族の事情がある、とも伝えられました。これはニトさんがエルフであることに関係していると考えて間違いないでしょうか?」

「はい、その通りです」と俺は答える。「エルフという種族は神性が高いヒトばかりだと聞いていたので」

「その関連性を薄めるために、ということですか?」

「そうです」

 

 オーグさんの問いに俺は頷く。

 こっちは、アライクンさんと決めた筋書きだ。あの果物畑の広がる協会で初めて検査を受けるときに話し合って決めたことだ。

 それをそのままオーグさんへ伝えてくれたことに、俺は心の中で感謝する。

 

「わかりました。ニル、せっかくなので、ボクからの報告に移ってもよろしいでしょうか?」

「そうしてくれ」

「ありがとうございます。ニトさんの適性値については先程いった通り、協会への登録は神性が67で、実際には86あると。そしてこれは今判明したばかりですが、それを偽っていた理由としてニトさんがエルフであること、そしてそれを隠すための数値の偽装であったことがわかりました。ニトさんの帽子も本物と見間違うほどの出来ですから、それだけ種族を知られることを警戒していたのでしょう。……次に、彼らの能力についての報告です」

 

 オーグさんはそこで一度言葉を切った。

 能力についての報告とは。

 まさかクーの種族やその秘密がバレたということはないだろうと思うけれど。

 

「ボクは彼らにひとつ課題を与えました。その結果、彼らはゲンドーゼンの周辺において、四日間に6エリアを制覇しました」

 

 今度こそ、会議が中断するほどの騒がしさだった。

 テーブルについた幹部達だけでなく、壁際に立った戦士達までがそれぞれ騒然と顔を見合わせては口をつき合わせている。こちらに次々と飛んでくる視線に俺は目の遣りどころをなくし、けれど下手に隣を見るわけにもいかず、ぼやっとした空中に意識を投じた。

 なんだ。一体。

 なにが起こっている。

 

「リズ! 何かの間違いだろう!?」

「エリア周り始めたばっかりなのってこの子達のことじゃなかったっけ? 別だっけ? この子達だよね? あれ、あれ?」

「四日間で6? ありえない」

「うむ、よい数字だ」

「やはりあの子が……」

「不可能ではない、けど、いや、不可能ではない、けど」

「どうやったの? どうするんだろ?」

「わかんないやー、すごいねー」

 

 ほとんどを女性で埋め尽くされた会議室は甲高い声に埋め尽くされる。

 

「ボクも正直」とオーグさんが口にすると、喧騒が少し静まった。

「驚いています。それはうちの戦士の方々も同じです。ボクはそのとき『五日以内に6エリア』という無理な課題を出して彼らの意気込みを図ろうと思いましたが、彼らはまだ稼動したばかりのパーティですから、良くて2エリア。出来すぎで3エリアと考えいていました。しかし彼らはその無茶な課題を本当に達成してしまいました。皆さんも入念に下調べを行っているでしょうから、これがどれだけ驚異的なことかは説明する必要もないでしょう。ゲンドーゼンの街の周辺を覚えている方ならご存知かと思いますが、あそこはそれなりに厄介な魔物が多いです」

 

 スライム、ハーミードエルミー、グラフラッポ、バリードノイズ、コブリーク。オーグさんは聞き覚えのある名前を並べていく。名前が挙がるたびに、当初の記憶が呼び起こされたかのように苦い顔をする戦士がちらほら見られた。

 制しているエリア数が多ければそこまで苦戦はしないはずだから、おそらく嫌そうな表情をしているのは東側出身の者なのだろう。

 

「そして」とオーグさんが続ける。「いま挙げた“5体”がゲンドーゼンの街周辺にいるレベル1の魔物すべてです。ボクはそれを知っていた上でワザと“6エリア”と言いました。…………つまり、どういうことかおわかりでしょうか」

「ありえねえ!!」

 

 ガタンと椅子を蹴ったのはやはり赤い髪の女性だった。

 

「報告じゃあ3とか4とか、その程度のヤツのはずだろう!?」

「ええそうです。彼らとゲンドーゼンの街で別れた後に協会で照会をしてもらいました。間違いなく4エリアでした。まあ一点だけ――――」

 

 そこで言葉を切って、オーグさんは俺だけに目を向けた。

 眼鏡の奥の穏やかな瞳に、こちらを探るような光を見たような気がした。

 

「――――不可解な部分はありましたが、確実な情報です。本当に4エリアでした。そして四日後、彼らから狩りを終えたとの報告を頂き、もう一度照会を行ったところ、確かに10エリアとなっていました」

「…………じゃあ、つまり」

「そうです。ニトさん達は今の時点で、レベル2のエリアを一つ制覇しています。オディナウンドとギフターノンが出る、ゲンドーゼンの北のエリアです」

「……おい、そこの黒いの」

 

 騒ぎの中、女性の鋭い視線は俺の隣へと突き刺さった。

 クーは何の話かもわからない様子で「ん?」と気の抜けた声を出した。女性がクーを見つめる瞳には、いままでにない真剣さが感じられた。

 

「お前、そのパーティを抜けろ」

「……ん? なんなのだ?」

「うちに来い。うちで育ててやる」

「まだ話は終わっていませんよ」とオーグさんがたしなめる。「クーシェマさんは協会でブラックリストに入れられています。まずその説明を」

「あん? ブラックリストだろうが構わねえよ。たかだか10エリアのひよっ子に寝首を掻かれるようなヘマはしねえ。だが見込みはある。度胸もあるみたいだしな。ヘタな司令に任せて野垂れ死んじまうにはもったいねえ。だからうちに来い」

「……レビュー、戦士の入れ替えもまずは彼らがギルドに入ってからの話だよ」

「あの黒いのだけ入れりゃあいい話だろう? あいつだけならあたしも反対しないでおいてやるよ」

「順序が……」

 

 オーグさん勘弁してくれといった様子で眼鏡をずらし、眉間を指でつまんだ。

 当のクーはやはり何も理解していない様子で、赤い髪の女性と俺を交互に見つめていた。

 

「……はあ」とオーグさんが深く息を吐く。「すいませんが、ニトさん。クーシェマさんのパーティ移動を許すかどうかの可否を教えてください」

「聞く必要がねえだろ! あたしはそこの黒いのに……!」

「レビュー、リーダーや司令を通すのがうちの決まりだよ。これ以上無茶を言うならボクにも考えがある」

「うっ、いや、そんな」

 

 オーグさんの珍しく低い声に、女性は酷く狼狽した。

 しばらく二人は見詰め合った後、女性の方が根負けしたように顔を逸らした。やはりオーグさんは彼女の弱みを握っているのか、それとも何かしらの事情があるように見える。

 6エリア狩るにはレベル2のエリアも必要になることを分かっていてあんな課題を出すのだ。オーグリズ・ラーファスという人物は今でこそなぜか俺たちの味方をしてくれているように見えるけれど、警戒しておくに越したことはないだろう。

 そもそも、出席しているメンバーの中で、あの渋い男性を除けば上座のギルドマスターにもっとも近い席に座っているという時点で。

 

「ニトさん」とオーグさんが語調を緩める。「クーシェマさんの移動は可能ですか?」

「クーさんがうちを抜けるということですか?」

「そうなります」

「嫌ですね」

「ああっ!?」

 

 言葉はするりと胸の奥から飛び出した。オーグさんがわずかに目を丸くした。

 自分でも驚くほどだった。こんな場で、こんなにすんなりと、そんなことを口にしてしまうとは思わなかった。


 ……そっか。そうなんだ。

 へえ。


「てめえ、何様のつもりだ!?」

「レビュー」

 

 二人のやり取りを目だけで眺める。

 そしてこちらを見上げてくる視線に気付き、その黒髪にぽんぽんと手を跳ねさせた。また手刀がくるでも思ったのか、クーは少し驚いたように片目を閉じた。

 

 そうか。

 俺はクーがパーティを抜けるのがいやなんだ。レフィが抜けるのがいやなんだ。

 別に自分が司令である必要はないと頭では思っていた。やめられるものならやめてしまいたいと。他のヒトに託せるなら、それを彼女たちも望むなら、それでいいじゃないかと自分では思っているつもりだった。

 そうか。ダメなんだ。

 彼女たちが知りもしないパーティに入って、そこのリーダーの意向でよくわからない技なんかも覚えさせられて、俺の意としない戦士に成ってしまうことが許せないんだ。

 もう、おれ自身のエゴが根付いているんだ。

 彼女たちの夢を、俺が叶えたいと思ってしまっているんだ。


 そっか。そうですか。

 へえ。


「すいません」と俺はひとつ断りを入れる。「可否の話ではありませんでした」

「ああ? なんだって?」

「彼女が抜けるのを僕が嫌だというだけの話です。うちにいて欲しいと思っています。ただの感情の話です。移動するかどうかは本人の意思を尊重します」

「ふん、まどろっこしいな。なら別にいいってことだな?」

「本人が望むならば、そうですね」

「……クーシェマさん」とそこでオーグさんが仕切る。「未だあなたたちの全員がゴノーディスに入れる確約はありませんが、あなたに限り、望むのであればレビューさんのパーティに移ることができます。それを望みますか?」

「んん? 話がよくわからないのだ」

「うちに入りたいとだけ言えばいい」と女性が炊きつける。

「クーがそっちに入るのだ? なんでなのだ?」

「それが一番お前の才能を活かしてやれる」

「うーん、……おまえの声あんまり好きじゃないのだ」

「おまっ!? ……なんだと?」

 

 あっけらかんとしたクーの言い様に、女性が青筋を立てた。

 俺は場を収拾することを早々に諦めることにした。

 

「おまえもレフィンダーってやつなのだ?」

「お前じゃねえっ! レビューさんと呼べ! それにあたしは司令じゃねえ!!」

「レフィンダーはだれなのだ?」

「うちは戦士だけだ! これでずっとやってきてる! お前もその一員にしてやるって言ってんだ。……いや、無理にうちに入る必要もねえ。ニルのとこだっていい。リズのところだっていいだろう。どこの誰ともわからねえエルフなんぞにお前の才能が潰されるのがもったいねえって言ってやってんだよ、こっちは」

「ニルはだれなのだ?」

 

 クーの問いに、奥の男性が煩わしそうに顔をしかめた。

 おそらく彼もクーを引き取ることに前向きではないのだろう。

 

「……私がニルだが」

「おっさんがニルなのだ? ……うーん? もういっかいだけしゃべって欲しいのだ」

「おっ……」

 

 声を張り上げそうになったニルさんが、はたと言葉を切って咳払いをした。

 周囲は戦々恐々とした様子で状況を伺っている。どう考えても“おっさん”なんていう一言で片付けていい人物ではないし、こっちから命令できるような立場でもない。

 男性もあまりに上からの物言いに多少困惑しているようだった。

 

「う、うむ。私がニルで間違いはない。本名ではないが、あまり公にできない事情もある。こんなもので良いか?」

「ありがとうなのだ。やっぱりニトでいいのだ」

「んあっ? なんでだ? ちびっ子」

「クーはニトの方がいい声だと思うのだ。あうっ」

 

 俺は焦りのあまり、ちょうどいい位置にある頭に今度こそ手刀を食らわせた。

 やはりクーは全霊を込めた困惑顔をこちらに向けてくれる。

 そうだよな。褒めた相手から叩かれるなんて意味分からないよな。そうだよな。

 でも、お前が悪いぞ。

 

「ニルよりも声がいいだあ!? バカいうな。いくらエルフったって、86だろ? ニルと同レベルの司令がこの世界に何人いると思ってんだ」

「クーはニトがいいのだ。ここがいいのだ」

「……レビュー、結論が出たね」とオーグさんが声を掛けた。

「待てって!! どう考えたってそいつらが6エリアも制覇できたのはそいつひとりの力だろう!? 戦闘技術も相当にあるはずだ。じゃなきゃ6エリアなんて四日間じゃ到底狩り切れるもんじゃねえ。そうでなくたって、レベル2のエリアまで踏み込んでんだろ!?」

 

 女性の発言に頷くヒトの姿が何人か見受けられた。

 なるほど、確かに現場を見ていない者からすれば適性を聞いただけの段階ならクーがひとりで奮闘したと考えてもおかしくはないのだろう。なにせ四日間で6エリアが異常な速度だという話だ。異常な強さを持った誰かがいなければ説明がつかないと考えるのが普通だろう。

 いや、頑張ったんだけどな、こっちも。頑張ったんだよ。

 頑張った結果、ギリギリで6エリアに間に合っただけなんだよ。本当に。

 

「よくわからないけど、クーは戦うのは苦手なのだ」

「……はあ!? なんだお前、どうせアレだろう、自分では得意じゃないと思ってるだけなんだろ?」

「うん? ほんとーにダメなのだ。ひとりじゃ全然ダメなのだ。ニトとレフィーがいないとぜんぜんラカンが当たんないのだ」

「羅漢が当たらねえだ? あんなもん、逆にどうやって外すんだよ」

「クーのラカンは当たらないのだ。ヘタクソなのだ」

 

 クーの発言に、女性はがしがしと頭をかいた。

 

「…………おい、エルフ」

「なんでしょうか」

「お前の目から見てどうだ。そのちびっ子は。嘘ついてんのか、どうか」

「……まあ、そうですね。戦いが上手とは言えないですね。まだ今は。でもこれからの経験でどんどん良くなるとは思います」

「ああそうかい。……で、それなら、どーやったんだ」

「はい?」

「どうやったのかって聞いてんだよ!」

「何をですか?」

「そのちびっ子は戦闘がヘタクソで? おまけのもうひとりの戦士は雑魚で。どうやって四日間で6エリアも狩ったのかって聞いてんだよ!!」

「どうやって狩ったか? それはだから、一生懸命にです」

「ぶふっ」

 

 俺の言葉に吹き出したのはオーグさんだった。

 顔を抑えた彼は、まるで周りに謝罪をするようにもう一方の手を前に出し、頭を下げた。ぺこぺこしながらそれでも肩を震わせる姿に、俺も少しだけ顔を逸らす。

 通じるヒトがいて良かった、と内心でほくそ笑む。オーグさんのことを警戒すべきだなんて一度は思ったけれどその必要はなさそうだ。いまので笑ってくれるヒトならば。

 

「……おっ、おまえ、なあ!!」

 

 赤い髪の女性は顔を赤らめ、こちらをギリと睨み付けてくる。

 冗談が過ぎたかもしれないが、俺はあくまで分からないフリを通す。

 

「な、なんですか?」

「どうやったって聞いてんだよ! やり方を聞いてることぐらいわかるだろ!? 意気込みなんて聞いてねえんだよ!」

「え? えっと、何を聞かれているのか……」

「だあから! どうやって、何をして6エリアも狩ったんだって!?」

「苦労して狩りました」

 

 今度こそオーグさんがばしばしと机を叩いた。

 またしてもそちらへ集中する視線に、俺はしてやったりと笑みを噛み殺す。

 

「……リ、リズ!? なんだってんだ!?」

「いっ、いえ、ふふ、すいません、ふはははっ」

「くっ、そ……」

 

 笑うオーグさんと、赤面しながら歯を噛み締める女性に。

 そしてなによりその視線に、俺はなんとなくふたりの関係性が見えた気がした。

 なるほど、それでこのヒトはオーグさんに弱いのか。

 

「と、に、か、く!! どうやったのか! どんな戦い方をしたのか! それを教えろって言ってんだよ! バカなのかてめえ!!」

「い、いえ、そんなこと言われましても」と俺は怖がっておく。

「シューラ」とニルさんが口を出す。「パーティごとの秘密はそれぞれあろう。私達は仲間ではあるが、全てを曝け出す必要はない。それぞれのやり方があるのだろう」

「だ、だけどニル! 6エリアはインチキだろ!?」

「確かに驚異的ではあるが、仲間であるならば今後が楽しみと言えるのではないか?」

「そうだよレビュー。これはボク自身が、彼らがゴノーディスに入るに相応しい実力があると感じたからこその報告だよ。いまはまだ10エリアだけど、きっと彼らはこれからどんどん伸びていくよ」

「リズはなんだってそっちに付くんだよ!?」

「何回も言うけど、これはラヴァンさんの紹介だからね。ボクとしても、特にニトさんとは個人的に仲良くしてもらいたいと思っているけれど」

「ぐ、くう……っ!」

 

 顔を真っ赤にした女性は、口惜しそうに机を叩いた。

 俯いたその赤い髪が垂れ、女性の多い会議室には彼女を同情するような視線が多く集まっている。そしてレビューという女性を見つめるオーグさんの微笑ましそうな表情に、やはり俺は確信してしまう。

 これはおそらく、本人だけが気付かれていないと思っている状況だろうと。

 

「それでは決を採るが、よいか」

 

 一段落した空気を察したように、男性が幹部達を見回した。

 椅子に腰掛けたメンバー達は各々正面へ向き直り、視線を落とした。

 ただひとり、ギリリとこちらを睨み付ける女性除いては、だけれど。

 

「ニト、レリフェト、クーシェマ・フェンリウル。この三名のギルドへの加入に反対するものは起立すること」

「反対だ!! 絶、対!!」

 

 今度こそ椅子が後ろに吹き飛び、それをクーの相手をしてくれると言っていた色黒の女性が分かりきっていたようにキャッチした。

 立ち上がった女性は凄まじい形相ではあったけれど、今回はオーグさんも止めようとしなければ、メンバー達も驚いた様子もなく、変わらない様子で俯いているだけだった。

 

「……それではシューラ。きみの条件を聞かせてくれ」

「今日中に全部のエリアを周りやがれ!!」

「シューラ。ゴノーディスのやり方は誰よりも理解しているはずだが」

「~~~~~ッ!! ああっ、もう!! だったら大会だ! 明後日、すぐに街の大会がある。そうだな、ハウンドクラスだ。ハウンドクラスで優勝したら認めてやる」

「シューラ、実行可能な範囲で、だ」

「もうレベル2のエリアも周れるってんだろ? だったらいいだろ!?」

「……残りの二つ次第だ。二つ目は?」

「そうだな、四日で6エリアなんだろう? だったら今日から一月以内に50エリアだな」

「……何度も言うが、実行可能な」

「わあってるって言ってんだろ!?」

 

 シンとした会議室に、ニルさんと女性の押し問答が続く。

 

 なるほど、単純な多数決というわけでもなく、少数側が条件を取り付けられるシステムになっているらしい。それでオーグさんも何も言わないのだろう。さらに言えば、他の反対派のメンバーもレビューという女性に発言を任せているように見える。俺に厳しい視線を送ってきたのは何も彼女だけではない。

 逆に反対派が多かったとしたら、賛成側としてオーグさんが条件を出すのだろうか。だとすれば、どちらにしろ課題を与えられることは規定路線にも思えるけれど、俺たちのような外部からの加入自体が異例ということであればこれもまた特例なのかもしれない。

 

「それで、三つ目は?」


 

 

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