第42話 技術担当クロノさん
「えー、すいません、ドリテルの街に入る前にも一度お伝えしますが、ニトさんは街中では出来る限り声を出さないか、あるいは小声で話すようにしていただけますか?」
相変わらず腰の低い青年は、苦笑いするようにメガネの奥の優しげな目を細めた。
ゲンドーゼンの冗談のような大きさの西門を抜けると、移動用の動物や飼いならされた一部の魔物を待機させておくための厩舎が並んでいた。ほとんどは大通りを歩いていればすれ違うような顔ぶれであるけれど、やはり相性はあるのだろう。喧嘩っ早そうな魔物はあまり隣り合わせにならないようにしているように見える。
さまざまな鳴き声の飛び交う朝、透き通るような青にずいぶんと機嫌の良さそうな顔色の雲がぽこぽこと浮かんでいた。絶好の遠出日和ではあるけれど、俺には“最後に見た景色くらい綺麗にしておいてやろう”と、天気にまで気を遣われているようにしか思えなかった。
「小声、ですか」と俺は聞き返す。
「そうです」とオーグさんは頷いた。「この辺りはそれほどでもないですが、栄えている街ではやはり女性の方の立場が強いので、下手に権力のあるヒトに目をつけられると少し面倒なことになりますから……」
「えーっと、それは……」
それは、僕の声では目立つということですか? と訊ねようとして、やめた。
オーグさんは言葉に詰まる俺を見て、ちらりと別の方へと目配せをした。俺も目だけでそちらを見ると、相変わらず像のように直立している巨躯の女性がそこに佇んでいた。名前はエノジーさんといっただろうか。なるほど。
方法はいくつか考えられるけれど、オーグさんはすでに俺の“声”に関してある程度の情報を手に入れているのだろう。やはり彼もゴノーディスの一員か。無事に6エリアをこなしたと伝えたときも特段驚いた様子もなく、至って標準的な褒められ方をされてしまったのを思い出す。これでもうちとしてはかなり頑張ったのだが。
「わかりました」と俺は素直に頷いておく。
「よろしくお願いします。ペウザーゴはもうすぐ到着するとは思いますが、それまでに何か聞いておきたいことはありますか?」
その単語を聞くたびに気分が沈む。
俺は本当に生きたままゴノーディスの本部へたどり着けるのだろうか。
「そうですね、ドリテルの街というのがどういった場所なのか聞いてみたいです」
「ドリテルは東の都と呼ばれている街ですね。首都はもちろん西のカティルトですが、この国の東側で一番大きな街がドリテルと言われています。数少ない海の塩の流通がある街のひとつでもあります」
「あっ、なるほど。北側のエリアがレベル3までしかない所ですね? たしか塩の街とか呼ばれている」
「そ、そうですが、……その、すごく独特な覚え方をされていますね?」
「ニトさん、ニトさん」
声の方へ目を向けると、興味の化身が耳をピンと立ててこちらを見上げている。
「塩の街ってなんです?」
「塩にもいくつか種類があるらしいですが、海の塩となると手に入れるのがすごく難しくなるんですよ。どうしてかわかりますか?」
「ええっと……、どうしてでしたっけ?」
「海に近づくほど……?」
「あっ! そうです! まるの外側にいくほど魔物が強くなるんですね?」
「そうです。エリアは一番危険なところでレベル6まであるんですが、まるの外側がすべてレベル6ってわけじゃないんですよ。5のところもあれば、4のところもあって、バラバラなんです。魔物がそこまで強くないエリアが続いていれば海まで道が引けますから、塩の流通する中心として街が盛んになるんですよ。簡単に言うとドリテルの街は魔物がよわくて、塩がとれて、街が金持ち。って感じです」
「ははー、それで塩の街なんですね」
「そんな感じです」
それだけ言って顔を上げると、こちらを見つめるオーグさんの表情が少し驚いているように見えた。
「ニトさんは」と彼は口を開く。「すごいですね」
「はい?」
「いえ、まだその、すいません、エリア数も10になったところじゃないですか。それなのにレベル5や6のエリアもすでに見据えているんだなあと……、すいません、嫌味じゃないんですけど。ふつうそんなにエリアの分布までは知らないと思いまして……」
「……ああ、いえ。好きなだけです。エリアだとか魔物だとかが。レベル1ですらこんなに苦労してるのに、レベル6だとか、いったいどんな魔物が出るんだろうかとか、いったいどんな猛者がそこで戦っているんだろうとか、小さい頃から興味があったんですよ。……なんか、わくわくしません?」
「わくわく、ですか? ……いやあ、大変なことのほうが多いと思いますが」
「ああ、そうか。そうですよね。オーグさんの近くには実際にそこで戦っていらっしゃる方々がいるわけですもんね。そうですね、僕はまだ夢見がちなだけです」
「はあ、なるほど……」
ヒトの影を濃くするほどの赤い閃光に、俺たちは会話を止めた。
空を広く赤く染めた光はまだしばらく明滅し、そしてゆっくりと青に馴染んで消えていった。別名信号石とも呼ばれているそれは、俺が以前レフィに合図を送るために使ったものと色も種類も同じだけれど、いまのは光の強さが段違いだ。かなりイイモノを使わないとあれほど強い光にはならない。
「きましたね」
オーグさんは穏やかな表情で西の空を見つめる。
鳥の群れかと思われたいくつかの黒い点がしだいに大きくなる。胴体の横に少し広げた翼のようなものは、けれど決して羽ばたくことはなく、まるで滑空するかのような姿勢でこちらへと向かってくる。
「気をつけてください」
オーグさんは軽く注意を口にして、その群れに向けて大きく両手を振る。
白いお腹が上空を通過すると通り過ぎた部分に薄い膜のようなものが残り、それらは雪のように崩れ、日の光に反射しながらきらきらと降ってくる。黒と白の巨体はまさに滑るような速度で大きく旋回しながら、遠く円を描くようにゆっくりと高度を下げてくる。
距離が近づくほどに理解する。その一匹一匹のデカさを。
「な、な、なんなのだ?」
「アレが、ニトさんがいってた……?」
「…………」
そうだ、と断言してしまったらこの悪夢が現実になるような気がして、俺は彼女たちの問いかけには応えなかった。
次第に緩やかになる速度に上空に描かれた透明な円がだんだんと小さくなっていく。最後にはまるで歩くような遅さで地面に到着し、そのまま地面の上を軽く滑った。お腹と背中で真っ二つに白と黒に分かれる流線型の太い体は、その体長だけでもヒトの三倍か四倍ほどはあるだろうか。次々と地面に降り立つそれらが、まるで空中を滑っていたときと同じように地上を流れていく様は酷くシュールだった。
尖った嘴から顔、さらには背中までを大きく覆う黒色は、けれどその首元――――といってもどこまでが顔か胴かもわからないが――――だけは薄い黄色に染まっている。頭全体が真っ黒なせいで目の位置がわからない。
「はは、まさかもまさかですよ、クロノさん」
「我も不満を訴えた。そうか、お前の所為か」
先頭のペウザーゴからなにやら白いものが飛び降り、オーグさんがそれに駆け寄り、挨拶を交わした。今朝からやけに大人しい有翼種のふたりは、降りてきた人物を見てなぜか驚いたようにひそひそと話し合っている。少し焦ったような素振りと、その視線の熱さからして、おそらくは降りてきた人物がかなり偉いヒトなのか、あるいは姉妹にとって好ましい相手であることが伺えた。
「相変わらず小さくていいですね。わー」
「……我を降ろせ」
と、思いきや、オーグさんは突如としてその白い人物を両手に抱え上げた。
白い。というか小さい。とにかく小さくて白い。服装まで白ければ、ギリギリその目が隠れないほどのぱつぱつの前髪も、オーグさんの戦士である少女の翼よりもさらにくすみのない真っ白な色をしている。
アレは少年だろうか、少女だろうか。声も顔立ちも未だあどけなさが抜け切らない様子は、俺から見てもまったく性別の判断がつかない。肩に付くほどの髪の長さからすれば少女なのだろう、と思えるのだけれど、レフィやクーのキンキンした声をよく聴いている俺からすると少し低めというか、その声はやや丸みを帯びている気がする。
「失礼しました」
「うむ」
オーグさんが小さくて白いソレを地面に降ろすと、ソレは抑揚のない声で応えた。それからクロノさんと呼ばれたソレがひとりでここへ来たこと、ペウザーゴの頭数と、手順の確認と、そして他愛のない話をいくつか続けた。
ペウザーゴたちは着陸したものから順にその短い足で立ち上がり、ヴヴクククク、と妙な鳴き声を上げた。普通の鳥が地面に立っているのとはまた違った印象を受けるのは、その寸胴な体型のせいかそれとも規格外のデカさのせいか。そのうちの一匹が不意にばたたたたと前後に翼(?)を振ると一気に土ぼこりが舞った。
「な、なんなんですか、アレ」
「ほんとに何なんだろうな」
「うはははは、はは!」
「おい、クー」
なぜかクーは大笑いしながら一匹のペウザーゴに走りよっていく。その大きさに感動しているのか、それとも訳の分からない存在に興奮しているのか。いずれにせよあまり不用意に近づくべきじゃない。
「待て、お前」
ペウザーゴに走りよっていくクーの背中が突然“ブレ”て、次の瞬間にその体は砂埃を上げて停止した。黒が白に抱き止められている。気が付けばつい先程までオーグさんと話していた白い姿が消えていた。速い。
司令じゃないな、この子。
「……ペウザーゴたちは今、信号で目が焼かれている。あまり近づかないほうがいい」
「わ? わ、わ、わかったのだ」
クーはわーっと両手を挙げた姿勢のまま、大人しくその忠告に従った。
白い子はクーを解放すると何食わぬ様子でこちらへと歩いていくる。耳の形にしても、先程の素早さにしてもおそらくはケットシーだろう。長い髪からちらりと見えている丸い枠は片眼鏡だろうか。オーグさんの眼鏡の縁に似ている。
首に下げた大きめのアクセサリーはおそらく時間を示すものだろう。丸い形状と、その中心から伸びる尖った針に見覚えがある。そしてそれをどこで見たのかにすぐに思い当たって、俺は記憶を辿るのをやめた。
「お前が件のレリフェトとかいうのか」
「クロノさん、その方はニトさんです。となりの方が戦士のレリフェトさんです」
「そうか。性別を確認していなかったな。お前はニトの方か」
「……はい。ニトです。よろしくお願いします」
「んん」
俺を見上げる小さな存在に挨拶を返すと、ソレはなぜか困惑したように首を傾げた。白い前髪で見えない眉毛が少し寄っているのがなんとなくわかった。
小さなそのヒトはオーグさんの方へと振り返る。
「“ニト”というのが司令で間違いなかったか」
「そうですね、ニトさんが司令の方です」
「報告では司令の神性は67と聞いていたが」
「……その件に関しては、また本部で」
「そうか」
「それよりクロノさんも良ければ自己紹介を」
「ん」
クロノさんと呼ばれたその子はもう一度こちらへ向き直る。
明け方の空のような紺色の瞳がちらりとレフィを見たのがわかった。
「名前なんぞに意味などないが、慣習というなら仕方なかろう。我はクロノ・フローディだ。ゴノーディスの技術担当を任されている。我が求めているのは数字だ。時にそこのレリフェトという戦士よ、お前の適正が50だというのは本当か?」
「え、え? ……あの」
「神性と獣性がそれぞれ50だと聞いた。間違いないか」
突然話題を振られたレフィはわかりやすく戸惑い、クロノさんと俺をキョロキョロと見比べた。
「そのままお答えすればいいですよ」と俺は促す。
「……えっと、はい、その通りです。神性のほうが少しだけ高いらしいですが、50と50、です」
「ふむ、少し触れるぞ」
「え?」
レフィが了承するより早く、クロノさんはレフィに近づいて手を伸ばし、そのふわふわの耳を柔らかく掴んだ。唐突な行為に声を上げることすらかなわず、レフィはあわあわと口を動かしている。
「……ふむ」
片眼鏡の奥の瞳がレフィを検分するようにじっくりと眺める。手際よくレフィの頬にまで触れると、レフィは口の中で「ひっ」と鳴き、それすら意に介さない様子で今度は両肩を掴んで背中側の尻尾を見る。身長は同じくらいだろうか。クロノさんが身を屈めているせいか、むしろレフィのほうが少し高いようにも見える。
ふむ、ふむと口にしながらレフィを触りまくる様子は、その手つきがあまりに事務的に過ぎて、何の情緒も感じられない。けれどレフィにとってはまったく別の話のようだ。
一通りのセクハラを終えると、クロノさんは最後にレフィの顔を覗きこんだ。
「……ふうむ、至極一般的なケットシー種だが」
「もっ、もう! なんなんですか!!」
「おっ! おお」
レフィはついに耐え切れなくなったようにクロノさんを突き飛ばした。
遠くで有翼種たちの息を呑むような悲鳴が上がったが、当のクロノさんはレフィの全力を込めたであろう突き飛ばしを受けてなお、バランスよく着地して見せた。
絶対、戦いに慣れてるぞ、このヒト。
「すいません!」と俺は一旦謝罪を入れる。「ほらレフィさんも」
「あっ、う、その、すいません……」
「ん、何を謝る」
クロノさんは平然とした顔でそんなことを口にした。謝らなくてもいい、という意味ではなく、本当になぜ謝られたのかを理解できていない様子だった。
俺たちの状況を見かねたようにオーグさんが口を開く。
「こちらこそ失礼しました。クロノさんは研究以外のことにはほとんど怒らないので大丈夫ですよ。逆に研究のことを過度に邪魔されると本気で怒りますけど。ゴノーディスの技術革新はほとんどがクロノさんに頼りっきりというくらいの天才で、このバッジを作ってくれたのも彼なんです。ボクの眼鏡もそうですよ」
彼。
そうですか。
当のクロノさんはレフィの体を撫で回したことも当然の行為といった様子で、俺とオーグさんが互いに謝罪をし合っている現状をあまり理解していないようだった。
オーグさんといい、クロノさんといい、ゴノーディスというのは中性的で顔立ちの良いヒトばかりが集まっているのだろうか。なんだか俺の中の強豪ギルドの像がだいぶ崩れつつあるのだが。
「お前はニトといったな」とクロノさんがまた近づいてくる。
「はい、そうです」
「我はお前の声にも興味がある。ギルドに入ったら我の実験に付き合え」
「は、はあ。実験ですか」
「クロノさん、その、まだニトさん達がギルドに入れると決まったわけではありませんから、いま約束を取り付けるのはあまり良くないと思いますよ?」
「む。そうか。しかしペウザーゴを運ぶ役目を我に任せること自体が異例であろう。おそらくはお前との相性と、さらには我がこの者たちに興味を持つであろうことを見越しての人選であろう。少なくとも我はそう踏んでいる。先に仲間を増やしておくとは、マスターもニルも早々に外堀を埋めておきたいと思っているのではないか」
「それ、本部で口にしちゃいけませんよ?」
「ふむ、気をつけよう」
何やら怪しげな会話の末、クロノさんはこちらへと向き直る。
「そういうことだ」
どういうことだ。
「お前たちは何も考えずに付いてくれば良い。反対を口にしそうな奴等の顔ぶれも、口にしそうなことも想像が付くからな。恐らくは課題を出されることになるだろう。お前たちはそれをどうにかしてクリアすることだ。でなければ我がお前たちを研究できん」
「は、はあ。わかりました」
「うむ。……しかし、やはり良い声だな。我にもう少し聴かせろ」
「はい?」
「あー、でも、うー、でも構わん。鳴け」
鳴け、とは。
「え、えっと。わ、わー……?」
「おお……」
真っ白な耳がぴくりと動いた。
耳の先に少し伸びたカールしている毛が、その動きに合わせて小さく揺れた。
うずり。と。
この場面で一番出てきてはいけない魔物が。
「わーあー……」
「ふむ」
俺の声に合わせて、ピンと立った耳が動く。
いつだろう。いつだっただろうか。これとまったく同じ光景を最近目にした気がする。あれはクーを捕まえたときだったか。
クロノさんとオーグさんの会話の内容からして、すでに俺の声についてある程度の情報が漏れているであろうことは理解しているのだけれど、それに対しての焦りや危機感は確かについ数瞬前までは持ち合わせていたはずなのだけれど、こうして、こう、なんというか、そんなに“良い”モノを目の前に見せ付けられると相手がゴノーディスの重要な役目にいるヒトだとか初対面だとか、あるいは男の子だとか、そういった細々とした問題が些末なことに思えるほどに右腕の魔物が肥大化していて、いまにも爆発しそうになっていることの方がなによりも危険だと判断した俺は。
ぽふん。
「おお?」
何も考えないことにした。
もふり、もふ。
ああ、うむ。素晴らしい。マーベラス。
見た目どおりさらさらとした髪は思ったよりも厚みがあり、指を添えるだけで小さく沈み込む。頭の上から耳の付け根まで指を滑らせると、上り坂に、もわさっと引っかかり、その毛の流れが逆になっていることを初めて知る。
粗相。失礼。この場合の撫で方はこうではなかった。
ここから、こうだ。そう。そうそう。こう撫でるとこういう感触が返ってきて、だからわざと逆から指の腹で撫で上げたりして、それをまた直すように撫で付けて。
そう。こんなだ。そうだ。ああ。
「なぜ我を撫でる」
「はい? ……ああ」
相変わらず感情の起伏のない声色に、俺はハッと我にかえる。
慌てて周りを見ると、もはやレフィは仲間に向けるような表情ではなく、オーグさんは苦笑し、有翼種のふたりは万力を込めたような瞳で俺をにらみつけていて、クーだけはなぜか遠くで一匹のペウザーゴと見つめ合っていた。
うん。まあ。
やったな、これは。
「ギルドでもよく頭を触られるのだが」というクロノさんの言葉が静寂を裂いた。「いったいなんだというのか。ヒトの頭部に触れることは何を意味する。我としては不可解でならないのだが」
「まあ、ニトさんの気持ちもわかりますよ」となぜかオーグさんまで加勢してくれる。
「なにがわかるというのだ。我は説明を求めるぞ」
「クロノさんはマスターと並んでゴノーディスのマスコットですから」
「それがわからないと言っている。我とマスターがゴノーディスのシンボルだと言うのであればその頭に触れる理由はなんだ」
「まあ、いいじゃないですか。クロノさんも別に怒っているわけではないのでしょう?」
「怒る理由はなにもないであろう。我は言語化を求めている。ギルド内だけでなく初対面にまで頭に触れられるのであればそこに関連性がないはずがない。ギルドのシンボルという枠内に収まっていないではないか。ゴノーディスとは関係の無い、何か深い理由があると考えて間違いないと思うが」
「もう少し大きくなったらわかるかもしれないですね……」
「身長が関係しているのか。難儀だな」
議論はどうやら、ある意味で当たらずとも遠からずなところへ落ち着いたらしい。
これで一命を取り留めたと思っていいのかどうかは、有翼種のふたりの様子からしてもかなり微妙なところだろう。この場で殺害されなかっただけ良しとするべきか。
遠くではなぜか頭を下げたペウザーゴの黒い嘴をクーが撫でていた。
「ふむ。少し時間を取りすぎたか」とクロノさんは胸元のソレを手で持ち上げた。
「さっそくだが出発しよう。お前はペウザーゴと戯れてる黒いのをあとで叱っておいてくれ。あれは実に危険だ。アレもお前の戦士なのだろう」
「はい、すいません。言っておきます」
「うむ。風の障壁はそちらで頼んで良いか」
「もちろんです」とオーグさんが頷き、同時に後ろの銀翼の少女が頭を下げた。
「では二人一組で行くとしよう。あの黒いのは我と一緒にしておこう。何をするかわからん。我が良しとするまでペウザーゴには決して近づかないことだ」
そう言って、クロノさんはペウザーゴの方へと歩いていった。
俺がクーを呼び戻すと、彼女は別れの挨拶のように目の前の相手に手を振り、ペウザーゴもばさささと土埃を上げて挨拶を返した。なぜコミュニケーションが成り立っているのかまったく理解できない。
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