第39話 面談
中性的な顔立ちの青年は俺達を部屋に通すと、「いま呼んできますね」と申し訳なさそうに言い残してそそくさと出て行った。
「……まあ、座るか」
「そうですね」
俺が木製のテーブルの脇に並んだ椅子に遠慮がちに腰掛けると、俺の左にレフィ、右にクーがそれぞれ座った。
スケールこそ正義とでもいうようなこの街は協会に着いてその建物の大きさと広さに驚き、料理店に寄ってみれば通常料金のまま顔みたいなデカさのパンを出され、泊まった宿屋はベッドの一つひとつがゆうに三人並んで手足が伸ばせそうなサイズが用意されていて、このままだと街の端まで歩くだけで遭難者が出るのではないかと真剣に疑いたくなるほどだった。大は小を兼ねるというが、この言葉を造ったヒトもおそらくここまでの事態は想定していなかったのではないかと思う。
ここは大通りだろうか? と言いたくなるような路地裏を、さきほどの彼に付いて歩き、曲がった先にあった金属製のドアは一般的なサイズで、開いてみれば、期待を裏切らない標準的な内装がそこには広がっていた。
荷物を床に降ろし、一息ついて隣を見ると、レフィも少し安心したような表情をしていた。ニトとレフィという名前のふたりが、ゴノーディスのメンバーを探している、という触れ込みで街を歩き回り、やっとのことで関係者らしき人物に出会えたのは街に着いて三日目のことだった。
関係者とはいっても、先ほどの彼の様子を見る限りではゴノーディスのメンバーの知り合いといった感じだろうか。歳も自分よりやや幼く見えるし、強豪ギルドに属しているというにはちょっと威厳が足りないように思える。腰が低いのは悪いことではないけれど。
「失礼します」
ドアを開け、礼儀正しく入ってきたのはやはり同じ青年だった。開けたドアを支えながら後方を伺うその穏やかな目には丸ぶちのメガネが掛けられている。次に入ってくる相手に身構えるとドアの端から銀色の何かが見え、その少女の全身が現れたときに初めて、銀色に見えたものが翼であり、彼女が有翼種であることを理解した。
切れ長の目がこちらを一瞥する間に、もうひとりの少女がドアから現れた。彼女もまた、黒い翼の持ち主だった。銀翼の少女と顔立ちが似ていることから姉妹ではないかと思われる。どちらの少女もレフィやクーと比べると二つか三つほど年上に見えた。
「…………」
二人ともさらっとこちらを眺めた程度で、挨拶もなく椅子に座った。銀翼の子はクーの前に、黒翼の子はレフィの前に腰掛ける。自分の正面が空席なのを不思議に思いドアに目を向けると、やはりどこか申し訳なさそうな青年は、ドアの外の誰かを待っているようだった。パシリにでもされているのだろうかと心配になるけれど、その整った顔立ちと清潔感のある服装からして、良くない境遇に身を置いているという感じでもない。むしろ女好きのしそうな容姿とその物腰から、モテそうだなあ、という素直に感想が出てくるくらいだ。
ごこん。
重々しい靴の音。
最後に入ってきた女性は、もうそれこそ、彼女こそがリーダーであろうという説得力を体で語るほどの巨躯だった。この街の仕様に合わせて成長してしまったのだろうか。ドアすら屈まないとくぐれないほどの長身は間違いなくアライクンさんよりも高いだろう。
「こんにちは」
最初の二人とは違い、誠実さと剛健さを兼ね備えたようなしっかりした挨拶に、俺たちは一瞬面食らい、遅れてこちらからも挨拶を返した。こちらをじっと見据えたまま一切視線を動かそうとしないのは、いま、まさにギルドに相応しい資質を持ち合わせているのかどうかを値踏みされているのかもしれない。思わず背筋が伸びる。
「……、……」
「…………?」
視線を外せないまま真っ直ぐ見つめ返していると、巨躯の女性は俺の正面には座らずに、黒翼の少女を挟んで外側の椅子へと腰掛けた。椅子のサイズも心配になるけれど、それ以上に座る場所がそこでいいのか気になってしまう。
「……エノジーさん、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「は、はあい!」
青年の言葉に、巨躯の女性は空気を揺らすほどの大声で返事をした。有翼種のふたりは慣れきったように、けれどうんざりした様子で顔をしかめた。
鼻息の荒い巨躯の女性は、よく見れば顔が脂汗でテカテカしている。こちらを見たまま一切視線を逸らさないのは、というか瞬きすらしないのは俺達の実力を見抜こうとしていたのではなく、ただ単に極度の緊張のせいだったというのだろうか。
…………いや、そんなことよりも。
スー。トン。
中性的な顔立ちの青年は、やはりペコペコしながら彼女たちの後ろを通り、そして俺の正面にある椅子を引き、座った。
青年は静かに顔を上げる。
「……ゴノーディスの、オーグリズ・ラーファスです。よろしくお願いします」
正直に言おう。
油断した。
「……よろしく、お願いします。僕はパーティの
だん、と机を叩く音に俺の言葉は遮られる。
椅子を弾き飛ばさんほどの勢いに、そちらに目を向けると、クーが真紅の目を爛々と輝かせていた。
「それで!! クーより脚が速いとかいうのはどいつなもぎゃ!?」
「こちらがクーシェマ・フェンリウル。見た、通りの方ですが、彼女も、僕の戦士の、ひとりです」
「いも、あめめないもぎゃ」
「しばらく、黙ってて、くださいねー」
俺はクーの頭と口を押さえつけて、無理やり椅子に座らせた。むーむーと文句を垂れる超級の走力馬鹿が天下のギルド様にケンカを売るのをやめるまではこの手を離すわけにはいかない。
オーグリズ・ラーファスと名乗った青年はヒトの良さそうな笑顔を見せる。けれど、その脇に座る有翼種ふたりはくすりともしていない。エノジーと呼ばれた巨躯の女性は相変わらず首の関節がイカれてしまったかのようにまったく俺から顔を逸らそうとせず、そのせいで謎の圧力をかけられているような気分になる。欲しいのは金か、力か。すでにどちらも持っていそうなものだ。きっと親からは「話を聞くときは相手の目を見て」と教わったに違いない。良い教育だ、ああ。
「大人しくする。わかりますか? 大人しく、する。理解できますか?」
「んぐ! んむうう!」
「でなければ、今日、明日、明後日の夕飯が抜きになります」
「……っ!? …………んん」
「大人しく、できますね?」
「ん」
「よろしい」
大変失礼しました。と俺は青年に頭を下げ、クーを解放する。
ご飯の脅しが効きすぎたのか、クーは時が止まったかのように目の前の机を眺めていた。あまりの無表情っぷりに呼吸ができているのか心配になる。巨躯の女性と向かい合わせに置いてみたらどうなるだろうか。
「お名前は確かに」と青年は微笑む。
「それでは、推薦状というものを見せていただいてもよろしいでしょうか?」
「はい」
俺はホッしながら筒から両手サイズの紙を取り出して青年に渡した。推薦状という単語は伏せていただけに、それを向こうから切り出してくるとなれば本物に違いない。
青年がその紙に目を落とすと、興味があるのか、両脇のふたりもそれを覗き込むように体を傾けた。そこにクーの名前が書かれていないことは理解しているけれど、そもそも俺とレフィがこの紙切れ一枚で本当にギルドに入れるかどうかの確認でもあったので、あまり問題には思っていない。必要であればアライクンさんに話せばいいだけだ。
「……確かに確認いたしました。ありがとうございます。こちらの紙はいただいても?」
「はい、大丈夫です」
「わかりました」
俺が筒を差し出す素振りを見せると、青年はやはり申し訳なさそうに頭を下げ、それを受け取り丁寧に推薦状をしまった。
なんというか、気さくなヒトだ。話し方というより、雰囲気が気さくだ。
雰囲気が気さくってなんだ。
「それでは、ボクたちがゴノーディスのメンバーである証明ですが……」
「リズ、ほんとうに入れる気なの?」
青年の言葉を遮ったのは、銀翼の少女だった。
やや棘を感じるような物言いに、青年は困ったように笑った。
「セイフィさん、ボクたちに決められることではないですよ。まずは本部に……」
「私も、反対。リズ。相手する、必要、無い」
「ケ、ケイファさんまで……、そんな……」
銀翼の少女に続き、黒翼の少女も冷たい言葉を放つ。
部屋に入ってきてからの鋭い視線や挨拶のひとつもしない態度から、歓迎されてなさそうな雰囲気は感じていたけれど、どうやら勘違いではなかったらしい。
彼女たちの纏うピリピリとした空気は、クーが机を叩く前から変わっていない。別にクーがやらかしたせいで彼女たちが怒っているというわけでもなさそうだ。
「あの、えーっと……」と俺は口ごもる。
はっと顔をこちらに向けた青年は焦ったように笑みを浮かべた。
「あ、ボクのことはオーグでもリズでも、好きなようにお呼びください」
「えーっと、それでは」と俺は有翼種の少女たちをちらりと見て、リズという呼び方を候補から消した。
「オーグさん。もしかして、僕たちは歓迎されていないようですね……?」
「え、えー……っと、そう……、ですねえ。スー……」
「リズ? はっきり言ったらどうなの?」
「皆怒ってる。話す必要ない。帰る」
「ふ、ふたりとも少し待ってください。……えー、ニトさんと、レリフェトさんですが、その、入団のお話があったのがだいぶ前だったものですから、その、うちのみなさんにはゴノーディスを愛している方々が多いですから、うちに入れる、という機会が与えられたのに、えー……、どうしてすぐに来ないんだ、とおっしゃる方もいらしてですね?」
「マスターが可哀想よ」
「そ、そ、そうですね。その、うちのギルドマスターが一番あなたたちが来るのを待ち望んでいらっしゃいまして、でも、その、連絡がなかったものですから、いつになるのだろうと、最近は溜息もよくつかれるようになりまして、その、みんな、マスターのことも慕っているので、余計に気が急いてしまったと言いますか……」
「ああ……、なるほど……」
なんだか話している彼の方が苦しそうに見えるけれど、だいたいの事情は掴めた。
俺たちの動き出しが遅すぎたんだ。
そもそもこの推薦状を受け取ったのはレフィと一時的にパーティを組んだばかりのことで、それもいずれ解散する予定だったこともあってギルドへの所属なんて頭の片隅にも考えていなかった。
その後もいろいろなゴタゴタがあってやっと今回ギルドへの参加を決めたわけだけれど、気付けば推薦状をもらってからかなりの時間が経ってしまっている。ゆうに一月以上はありそうだ。おそらくその期間、ゴノーディスの一部のメンバーをずっとヤキモキさせていたということだろう。
考えるだけで恐ろしい。
だいたいギルドマスターが一番俺達を待ち望んでいるだとか、アライクンさんは一体全体どんな紹介の仕方をしたのだろうか。相手はこの国でナンバー2のギルドで、しかもそのトップなのだが。
「遅くなってしまったのは、申し訳ありません。いろいろと事情がありまして……」
「ええ、ええ、そうでしょうとも。……それで、もう一度確認だけさせていただきますが、ゴノーディスに入りたいというのは、今でもその気持ちは変わらないということで、その、よろしいでしょうか?」
「すいません、婉曲的なやり取りに慣れていないもので……。もしかして、僕たちはやんわりと辞退を促されていますか?」
「よくわかってるじゃない」
「理解したなら、終わり」
「いえっ! そうではありません! すいません、そんなつもりは。……その、ゴノーディスの内部では多かれ少なかれ、あまり良い印象を持っていない方がいらっしゃいますので、その、それを理解した上で、それでも入団を希望されるのかとお聞きしたいのです」
「……、入りたいです、ゴノーディスに」
俺が早めに返答すると、青年の両脇のふたりが顔を逸らし、フンと鼻を鳴らした。
本人にそのつもりはないだろうが、これは二択に見えて一択しかない。天下のゴノーディスに裏道のように入る手段を与えられて、それをしばらく放棄していた挙句に、やっぱり入りたくないですなんて言ったらどうなるか。
とてもじゃないが、今後の狩場を平気な顔で歩ける気がしない。
先にアライクンさんに連絡を取ってもらうべきだっただろうか。しかしそうでなくてもおじさんにはお世話になりっぱなしだし、推薦状を手配してもらった時にも「三日くらい掛かるかもしれない」なんて言っていた記憶がある。これ以上迷惑になるのも気が引けると感じていたからこそおじさんには何も言わずに来たけれど、いやはや。
「そうですか……」とオーグさんは胸をなでおろした。「はあ、安心しました。マスターにもこれでやっといい報告ができそうです。最近はギルドが少しピリピリしていて、ボクも会話をするのが億劫でしたから……。少しお待ちくださいね」
オーグさんが俯くと、眉を隠すほどの黒髪に表情が隠れる。胸元に添えられた綺麗な赤いバッジは波打つ旗のような形をしていて、その中には浮き出る紋章のように荘厳な槍が描かれている。これがゴノーディスのエンブレムだろうか。
『ニル』
オーグさんの音指が空気を震わせた。
バッジは呼応するように一瞬の光りを放ち、そして元の色合いに戻る。
水を打ったような静寂。そのままじっとしているオーグさんを、俺はどうすることもできずにじっと見つめる。それ以外にやることがない。瞬きと呼吸くらいのものだ。声を掛けていいのかも分からない。
いまの音指はなんだったのだろうか。彼がこのパーティの司令であることは間違いなさそうだけれど、リーダーというにはなんだか尻に敷かれすぎている気もする。ゴノーディスのメンバーともなればもっと堂々としていればいいのに、だなんて、俺に言えたことではないのかもしれないが。
手持ち無沙汰に左隣を見ると、レフィも似たような表情でこちらを見返してくる。ふたりで二度ほど瞬きをして、今度は右を見る。相変わらず悟りを開いたようなクーの表情。その目は木製のテーブルをずっと眺めている。木々の長い年月に想いを馳せているのだろうか。自分はまだ成人したばかりであるのに、この木は何百年も生きて、その上で切り倒され、加工され、人間に扱われて、いったいどんな気分なのだろうと、その感情を推し量ろうとしているのだ、なんてことは絶対にないだろうけれど。
とす。
俺は微動だにしないクーの頭側面に何気ない手刀を食らわせた。
「……っ!? ……!?」
クーは突然動き出し、両手で頭を押さえながら全力の困惑顔をこちらに向けてくる。
そうだよな。驚くよな。意味分からないよな。すまんかった。
とりあえず彼女がちゃんと生きていることを確認し安心していると、左の膝に抓られるような痛みを覚え、俺は姿勢を正す。
左隣と斜め前からじっとりした視線を感じる。ので、俺もやはり、木々の長い年月に想いを馳せることにする。綺麗な木目である。クーの気持ちが少し分かった気がする。
「………………」
あまり視界に情報を入れないようにしながら徐々に顔を上げると、オーグさんは先ほどよりも表情が見える角度で、何かを待つように視線を落としていた。
「……あの」と声を掛けると、オーグさんは凄まじい反応で顔を上げた。
「オーグさん?」
「あっ! は、はい!? なんでしょう!」
「いま、少しだけ質問をしても大丈夫でしょうか?」
俺が訊ねるとオーグさんは一瞬固まり、そして自嘲するように相好を崩した。
「……ああ、そうですね。少し向こうも忙しいみたいです。どうされましたか?」
「ギルドがピリピリしているという話ですけど、それもやっぱり僕たちのことで……、ということでしょうか?」
「そう、ですね。……まあでも、そんなに気負う必要もないですよ。ゴノーディス優しい方が多いですから」
オーグさんは朗らかに手を広げてみせる。
優しい方が多い、か。ということは厳しい方もいらっしゃるということで。さらに言うと、その優しい方というのも“よくよく付き合ってみれば優しい面も見えてくる”といった、練達した鍛冶屋のイカつい職人みたいなヒトを想像してしまうのは俺だけだろうか。
根は優しい、だとかいう言い逃れのような評価は、俺はあまりアテにしていない。
「その」と俺は切り出し方に迷う。「ゴノーディスといえば誰もが知っているようなすごいギルドじゃないですか。向上心とか野心があるヒトであれば誰でも一度は入団を夢見るほどの評判だと聞いています。いままでにもこういった面談などで入団されたヒトの中にも、僕たちとは比べ物にならないくらい強い方々がいらっしゃったとは思うのですが、僕たちみたいな匙にも棒にも掛からないような無名のパーティが入る入らないという話で、ゴノーディスのような強豪ギルドに影響があるのかと、ちょっと不思議に思ってしまったのですが……」
言葉を選びに選んで“ゴノーディスは俺たちに構っていられるほど暇なんですか”という趣旨の質問をぶつけてみる。こんなもの、ゴノーディスからしたら「新人が来る? そんなもん下の奴らで勝手に判断しとけ」で終わりそうな話に思えて仕方が無いのだ。
俺たちがあまりにも無名過ぎるということだろうか。そんなドコの何とも知れない雑魚が入るようになっただなんて、うちの上層部は大丈夫か、みたいなコトなのだろうか。そうだとしたら申し訳ないとは思う。弱くて申し訳ない。本当に。こればっかりは。
「それが、ないんですよ」とオーグさんは言い辛そうに苦笑した。
「はい?」
「とにかく強い人材を集めているのはボルクレツオで、ゴノーディスもそう見られがちなのですが、実際にはうちは身内の集まりでして……。誰かの子供だったり兄妹だったり、遠くても必ず誰かの親友であったりで、いま活躍しているのも実を言えば生え抜きの方ばかりなんですよ。今回のように外来の方の面談を受けることはほとんどないんです」
「そ、そうなんですか……」
「ええ。ですので、ギルドの結束は強いですよ」
言葉の強さに、オーグさんの自信が感じられた。
俺は表面で頷きながら、内心で頭を抱えた。ゴノーディスがそんな身内ギルドだとは思わなかった。
結束が強いといえばその通りではあるけれど、裏を返せば凝り固まってるとも言える。普通の組織では切り捨てられるような厄介な人材が身内の情で残されているなんてこともあるだろう。もっと仕事然とした繋がりであればドライな対応ができるけれど、周りが知り合いだらけともなれば業務に私情が入ることも多いのではないだろうか。
良い意味で捉えるのであれば、一度“中”に入ってしまえばそう簡単に見捨てられることもなく、忍耐強く成長を見守ってもらえるのかもしれない。活躍しているのが生え抜きばかりだというのであればそういうことだろう。
なるほどそれで、完全に外側の存在である俺たちにピリついているワケだ。
“中”に入るまでは、地獄かもしれないな。
『ニルだ』
突然、野太い声がして俺はオーグさんに目を向ける。当の本人が自分のバッジを見下ろしているということは、いまの声はそのバッジからだろうか。
「ルーンです」とオーグさんは自分のバッジに声を掛けた。
「ゲンドーゼンの街で例のお二人がゴノーディスのメンバーを探しているという情報を得たので、一番近くに居たボクが対応しています。ゴノーディスへの加入を希望されていて、戦士の方が追加でもうひとりいらっしゃいます。三人ともいますぐに会話ができる状態にありますが、このまま本部まで付いて来てもらえばよろしいでしょうか?」
例の二人。置かれている立場のせいか、なんだか物々しい響きに聞こえる。
オーグリズ・ラーファスと彼は名乗ったはずだから、ルーンというのは仮の名前だろうか。とすればこの野太い声をしたニルという人物も本名ではないのかもしれない。声の迫力からするとギルドマスターの風格すら感じるけれど、はてさて。
「…………」
オーグさんは返答を待つ。相手に言葉が届くまでに時間がかかるのかもしれない。魔法か、技術か。どういった方法を使っているのだろうか。むしろそれが気になって仕方が無い。
『…………やっと、か。わかった。五日以内にペウザーゴを手配させる。例の者たちを連れて本部へ合流してくれ。以上だ』
それだけ聞くとオーグさんは顔色一つ変えずに「わかりました。以上です」と返した。
胸元のバッジはそれ以降なにも喋らなくなった。当たり前のように会話が終わったけれど、最後の最後にとんでもなく不吉な単語を耳にした気がする。
――――いま、ペウザーゴと言わなかったか?
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