第28話 走りたいだけなのだ


 

 

 ブラックリストだ。

 

 そう話すアライクンさんは、気の良い知り合いのおじさんではなく、完全に仕事人の顔つきになっていた。それだけで、今の発言が冗談でも間違いでもないことがわかる。

 

 クーがブラックリスト?

 

 レフィが戸惑った様子でおじさんと俺を見比べている。おそらく言葉の意味がわからないのだろう。俺もすぐに説明すべきなのだろうが、あのボリアの肉を食べているときの笑顔とブラックリストという単語があまりにも結びつかなくて、なかなか飲み込めずに首のあたりで止まっている。

 おじさんが何も言わずに待ってくれているように見えて、俺は自分の後頭部を平手でぺしぺしと叩き、喉で詰まっている情報を無理やり飲み込んだ。

 

「ブラックリストってのは」とおじさんはレフィに目を向ける。「パーティのなかで酷い悪さをしたやつが協会で通報されると要注意人物として名前が残ることがある。それがブラックリストだ」

「通報された? クーさんがです!?」

「そうだ」

 

 そこで言葉を切り、ため息を吐くとおじさんは向かいの椅子に座った。

 

「これよりも前に契約をした覚えがあるかと聞いたが、彼女は覚えていないと答えた。そういう場合、協会側は一応確認を取ることになっている。彼女のマナで調べたところもうすでに戦士ボルダーとして登録されていた。クーシェマ・フェンリウル。パーティ内で暴力行為を働き、四人に重軽傷を負わせた、とボスメーロの協会で報告されている。すぐそこの街だな」

「ぼうりょくこうい……」

「そういった危険なヤツが何も知らないまま他のパーティと契約することがないように、こうやって事前に知らせることも協会の仕事のひとつだ。彼女もけろっとした顔をしてたから、おそらく自分が通報されていることも知らないんだろうが」

「そんな……」

 

 レフィが打ちひしがれたように俯いた。

 ここ二日間ほど寝食を共にした相手だ。すぐに受け止められるはずもない。


「自白剤は?」

 

 俺の質問に、おじさんは眼光を鋭くする。

 

「未使用とあった。おそらく通報者が嫌がったか、人数が多いから信憑性としては高い、とその場では判断されたんだろう。……どう見る?」

「…………アライクンさんの所見ではどうですか?」

「あまりオレの言葉で先入観を与えたくない。ニトの第一感を先に教えてくれ」

「通報者が嘘をついてますね」

「え?」

「ほお?」

 

 レフィが顔を上げ、おじさんは興味深そうに笑って腕を組んだ。

 

「またどうして」

「クーさんはどうも、司令レフィンダーという存在を疑っているフシがあります。出会ったときも『司令はうそつきだ』なんて言ってましたし、『音指なんて本当は使えない』みたいなことも言っていました」

「音指が嘘だと?」

「そうです。クリスタルのこともよく理解していない様子だったので、司令や戦士についてもほとんど知らないはずなのに、司令と音指については頑なに嘘だって言い張るんですよ。とすると、クーさんが何かを誤解しているか、もしくはクーさんを何かしらの理由で騙したヒトがいると思うんですよね。ひと悶着あったはずなんですよ」

「……それだと、騙されたから怒って暴力を振るったって方が自然になるが」

「クーさんは暴力を振るうようなひとじゃないですよ」

「なぜそう言い切れる?」

「街で噂があったんです。街の中を走り回って、食い逃げもして、止めようとしたヒトに怪我まで負わせた黒髪の少女の噂が」

「ああ、なんかそれらしいのは耳にしたことがあったな。まさか、あの子が?」

「それがクーさんです。でも聞き込みをしたら、食い逃げをされた店も、暴力を受けたというヒトも、実際にそれを目撃したヒトもまったくいなかったんですよ。みんな街の中をたまに走り抜けていくのは見たことがあると言っていましたが、走っているってだけで、なにか問題が起きたりはしていないんです」

「そらまた、奇妙な話だな」

「クーさんは何もしていないのに、街では悪評が流れていました。これって誰かが意図的に噂を流した可能性はないですかね? とあるパーティの司令がクーさんに何か嘘をついてパーティに引き込んだ。だけどその嘘が発覚して決裂した。抜けたクーさんを良く思わない司令が仲間と結託して、腹いせに協会で嘘の通報をして、街にも噂を流した……」

 

 そこまで言って視線を上げると、アライクンさんは小さく頷いた。

 

「なるほど。流れはわからんでもない。でもなぜあの子をパーティに入れるのに嘘をつく必要がある? もしそれが音指のことなら、その司令は音指が使えると言っておいて実戦では使わなかったことになる。それがあの子を怒らせるようなことだったなら、音指を使えば良かっただけの話じゃないか?」

「…………」

 

 クーは。

 走りたいだけなのだ。

 

音指ノートは」と俺は口を開く。「使ったんだと思います」

「音指は使った?」

「ただそれが彼女の望むものではなかったんだと思います」

「どういうことだ?」

「クーさんは走ることが大好きで、走ることを生きがいとしています。でも魔物を前にしたら、戦いたくはないと言いました。走るのが好き、でも戦うのは嫌い、そう言われました。僕たちがそう言われたということは、そのパーティの司令も同じようなことを言われたんじゃないかと思います。おそらくですが、その司令も言ったんじゃないですかね。『音指というものがある、それを使えば足が速くなる。もっと速く走れる』って。それ自体は本当ですし、クーさんもそれを信じて契約をしたのではないかと思います。でも実戦となったら、魔物を放置して走ってばかりの戦士がいては困るわけです。戦えと指示を出したか、もしくは攻撃しろなんて音指を出したのかもしれません。でもクーさんは戦うつもりなんてこれっぽっちもなくて、走るために契約をしたわけですから。そこで話がこじれた可能性があるのかなと思います」

「ほう、なるほど」

 

 だとすれば。

 

「そう考えると、長いこと連れ添ったパーティと揉めた、なんて雰囲気ではないと思います。契約を交わして、最初の戦闘で揉めて、決裂した。契約期間はすごく短いはずです。長くても二日間か、……どれくらいですかね? 協会の記録に残ってないですか? 通報があった日付と、契約があった日付と……」

「当日だよ」

「え?」

「記録には契約したのとまったく同じ日に通報があったよ。ふっ」

 

 おじさんが鼻で笑った。

 どこか愉しそうにすら見える。

 

「それなら……」

「あ、く、ま、で。可能性な? ニトが今いったこともひとつの可能性だ。もうここに当事者は彼女しか残っていない。件の四人組が自白剤を使っていないともなれば真相は闇の中だ。なんなら、あの子に自白剤を使ってもらうって手も……」

「いらないです」

「お?」

 

 即答で必要ない、と切り捨てたのは、俺ではなくレフィだった。

 そのまっすぐな瞳には、いつも通りの強い意志を感じた。彼女は自分に言い聞かせるようにひとつ頷いてから、俺を見上げた。

 

「ニトさん、自白剤ってなんです?」

「なんで知らないのにいらないって言ったんですか……。それを飲むと本当のことしか話せなくなる薬ですね。証言を取るために使われる薬です」

「なら、合ってます。やっぱりいらないです」

「ぬはははは! そうか、いらねえか!」

 

 豪快な笑い声が待合室に響く。

 俺は肩の力を抜いて息を吐いた。

 うちの戦士様がきっぱりと断った。それでなにもかも決まりだ。これ以上、俺が自白剤どうのこうのと口にすること自体が野暮だろう。

 彼女の潔白を論ずる必要もない。クーとの契約は履行する。

 音指を試してそれでもクーがパーティには加わらないと決めたなら、その時はその時だ。


 なんとなく気が抜けて、俺は背もたれに体を沈めた。

 

「……はあ。それで、アライクンさんはどう思っているんですか?」

「オレか? ……まあ先に言わせてもらうなら、お前らもあの子も、いい出会いをしたんだなとは思うね」

 

 おじさんは穏やかに笑った。

 その表情を見て、おじさんの結論もまた、俺とそう遠くないところにあると確信した。

 

「まあ状況証拠というかだな、その四人組ってのがもし本当にあの子に暴力を振るわれていたとすると、なあ……」

「なんですか?」

「下手したら死んでる」

 

 唐突に飛び出た物騒な言葉に、俺は息が詰まった。

 

「お前の話を聞いた後でなんだが、この司令をやってたやつがどうしてあの子をブラックリストに入れたのかもなんとなく想像がつく。……ほんとに、お前はなんでこう、とんでもない子を連れてくるかねえ?」

 

 ああ、お譲ちゃんのことじゃねえよ、とアライクンさんは慌ててレフィに言ったけれど、恐らくレフィも含めての発言だろう。

 とんでもない子。

 なんだか嫌な予感がしてきた。

 

「なん、なんですか?」

「ありゃあヤバい。獣性ベストが93だ」

「はえ?」

「きゅっ……!?」

 

 アライクンさんの言った言葉に、俺とレフィはまともな反応ができなかった。

 なんて言った? 93?

 

「80超えてたら一人残らずバケモノ認定されるこの時代に、なあ。チューニングする俺の身にもなってくれ。93だぞ93。そんなもんお前、首都の騎士団が知ったら超高待遇で招待状が届いちまうレベルだよ。だがブラックリストに載っている以上は心象が悪いからそんなことにはならんだろうがな。93なんて数値を知ったら誰でも目が眩むし、あの子もあんな様子だから、やっこさんも何が何でも自分の思い通りにしたかったんだろう。だけどできなかった。だから腹いせにあの子の未来を潰すことにした。手に入らないモノは壊しても構わんと思ってるタイプだな」

 

 まあ、これも可能性のひとつでしかないけどな。

 そう言ってアライクンさんは深い深い息を吐いた。

 

「………………ふ、ぐっ、苦労するなあ、っはは、に、ニト。ぬはははっ」

「ヒトの顔見て笑い出さないでください」

「いや、ふ、すまん。くくく……っ」

 

 顔を隠して肩を震わせるアライクンさんを前に、俺も頭を抱える。

 高いだろうとは思っていた。クーの獣性は。最初のクリスタルと彼女自身の足の速さを含めても、75以上、もしかしたら80を超えるかもしれないと勝手に想像していたけれど。

 93とは。

 いや、それが本当ならこの先あまり苦労せずに済むのだろうが、アライクンさんの言う“苦労”とはそういうことではないのだろう。

 

 しかし93か。93ねえ。

 のだのだ言っておいて、93って、クー、おまえ。

 

「それ、じゃ」と言って膝を叩き、アライクンさんは立ち上がる。

「契約でいいんだな?」

「はい、お願いします」

「あいよ」


 奥の部屋へ向かおうとしたアライクンさんが、何かを思い出したように脇の部屋へ入り、街の協会の受付でみたようなクリスタルを持ってくる。テーブルに置かれる。


「先日の首都大会の映像が届いてる」

「大会?」

「チューニングしている間に暇だったら見てもいいぞ、それじゃあな」 

 

 そう言って、今度こそアライクンさんは奥の部屋へ消えていった。

 

 

 

 

 

「なんでわかったんです?」

 

 ほどなくして、レフィが口を開いた。

 俺はしばらく考えたのち、質問の内容を確認する。

 

「なにがですか?」

「クーさんがだまされたって」

「全然、なにもわかってないですよ」

「ええ……?」

「クーさんがパーティに暴力を振るってブラックリスト入りだなんて、ちょっと信じたくなかっただけです。クーさんが悪者にならなそうな筋道を無理やりでっち上げただけです。アライクンさんも言ってたように、ほんとに可能性のひとつってだけですよ」

「そうなんですか。感心して損しました」

「レフィさんこそ、確信したみたいな顔で『いらないです』なんて言っちゃって。いつのまにクーさんをそこまで信頼していたんですか」

「べつに、信頼なんてしてないですもん。ただちょっと、あのヒトみたいになってるクーさんが想像できなかっただけですもん」

 

 あのヒト。

 アグニフか。

 

「……じゃあ、お互い様じゃないですか」

「ちがいます。ニトさんはわたしよりは良くないです」

「なにが良くないんですか」

「ニトさんはだいたい悪いです」

「酷い言われようじゃないですか?」

「謝ったほうがいいです。すべてに」

「すべてって何に謝ればいいんですか。僕だけで足りますか?」

「じゃあ床に謝ってください」

 

 床。

 いつも彼はみんなを支え、時にその面を土足で踏みにじられようとも健気に、献身的に、常に最前線で体を張り続けて、ありとあらゆるヒトの生活を守ってくれている。

 いつもは恥ずかしくて言えないけど、今日だけは言わせてくれ。

 

「……………………ごめんね」

 

 ふ。という息漏れが聞こえて、俺は隣を睨んだ。

 

「笑いましたね?」

「い、いえ。まさかそんな、ほんきで……」

「僕を笑いましたね?」

「ちょっと、っ、こっち見ないでください」

「憐れだと思いましたか?」

「んふ、いえ、そんなことないです」

「床に謝る男を見て、滑稽だと、あなたは笑った!」

「笑ってないです! もういいですから!」

「ったく、床を一体なんだと思ってるんですか……」

「床だと思ってますよ。ニトさんがむしろ何だと思ってるんですか」

「……まあでも確かに、最近コイツちょっと馴れ馴れしいなとは思いますね」

「床の話ですよね?」

 

 俺はテーブルの上で反射するクリスタルをずいと手前に寄せる。

 起動の仕方は街の協会のものと同じだろうか。

 

「首都大会って言ってましたよね」

「床はどうなったんですか?」

「野生にかえしました。首都大会ってことはノーヴィンさんが出てるんじゃないですか?」

「ノーヴィンさん! そうです! 早く見ましょう!」

 

 その名前だけで、レフィの表情にぱっと花が咲いた。

 すごい効力だ。

 

「レフィさんが操作します?」

「じ、自信がないです! ニトさんお願いします!」

「はい」

 

 俺がクリスタルに触れながら、見せてくれ、見たい、と適当に念じると、最初は弱く、じわじわと光りを強くしながらひとつの風景を映し始める。まるでクリスタルの手前に一つの膜が張られるように、映像は中央ほど鮮明に、外側にいくほど薄くなっていく。

 遠すぎて見えないが、どうやら広い闘技場を上から見ているような状態だろうか。

 

 俺は指先から意思を流す。

 映像はすごい速さで下降し、ぐるりと回って横からヒトの姿を映し出す。

 闘技場全体を記録しているのだろうか。どんな技術なのだろう。

 

 ぱしん、ばしばし。

 

「のっ! ノーヴィンさんですっ! ニトさん!」

「肩を、いたい、肩を叩かないでください」

「止めてください!! そこ! そうです! ……あー、ノーヴィンさんだあ。かっこいいですう……」

 

 はにゃんと溶けてしまいそうな声が聞こえる。

 こんな発情期みたいな声をした仲間を俺は知らない。

 

 映像にはクーのような漆黒に少しだけ茶色が混じったような、濃い色の髪の青年が映し出されている。自信に満ちたその表情は口元に笑みすら浮かべ、かなり挑発的というか、悪戯そうな印象に映る。

 俺はレフィが落ち着いたのを見計らって映像を回し、全体が見えやすい距離と角度で固定する。すでに開始直前のようだ。観客の盛り上がりからして、これが決勝なのかもしれない。

 

 ノーヴィンは戦士ボルダーが4人、相手側は司令レフィンダーを含め6人。ノーヴィン側は剣を携えた少女――――ランキョクさんのところの双子くらいの年齢だろうか――――が最前線を張り、その後ろに無手で立つ少女と、ロッドを構えた女性がひとりずつ。そしてノーヴィンの近く、最も低い位置に杖を手に持った男性がひとり。


「ワントライアングル……」

「なんか言いました!? ほら、あのヒトですよ! 剣の!」

「あ、本当だ、色はちがいますけどレフィさんと同じ装束ですね」

「そうなんですうっ!!」

「相手も正統派っぽいですね……」

「はああ……、かっこいい……」

 

 蕩けるレフィを置いて、合図の白い閃光が放たれた。

 

 即座に剣士の少女がとんでもない速度で飛び込み、二人がかりでそれを止めている間に後衛が物理盾を張る。盾の中から見えない何かが陣形の中間を貫き、剣士の少女はそれを避け、直線上に狙われた男性とノーヴィンもまた横に避ける。おそらくは風系統の魔法だろうか。視認しづらい。

 

「ちょちょ、ちょっとまってください! ニトさん、いまの……!」

「なんですか突然」

「いまのぶつりたて、全員入ってなかったですよ?」

「えーっと……、これゆっくりにできるんですかね……」

 

 ゆっくり、ゆっくりと念じると、次第に全体の動きがもっさりと遅くなっていく。場面を一気に戻して、まず剣士の少女が地面を蹴ったあたりから再開する。

 

「まずここで牽制として突撃するフリをしてますよね」

「え!? これってフリなんですか?」

「ああ……、えっと、もうちょっと先から一回みましょう。えー、ここですよね?」

「そうです! ほら、後ろのヒトしか入ってません。みんな盾の中にいれなきゃ、あのヒトにやられちゃいます!」

「いや、この相手はそこまで弱くはないと思いますが……。確かに後衛まで入り込まれたらかなり怖いですから、物理盾の使用はわからなくはないですが。まず基本として、押し込まれたほうが圧倒的に不利だということを覚えておいてください」

「押し込まれると負けるんですか?」

「見ていればわかります。とりあえず大雑把にそうなんだーと思っておいてください。それで、物理盾っていうのは極力使いたくないんですよ、魔法盾と違って外にもすぐに出られなくなるので動きが制限されるんです。それを証拠に、物理盾の発動を見た瞬間に、剣士さんの後ろの二人が少し前に出てきています、……ほら」

「あっ、ほんとです!」

「相手が動けないならこっちは自由に動けるわけなので、少し押し込んでますね。細かいですけどすでにノーヴィンさんのパーティが少し有利になっています。まあ、それだけあの剣士さんが警戒されているってことなんでしょうね」

「当然です! あのヒトですから!」

「はい。で、剣士さんの初動ですけど、まず敵に詰めていってますけど、重心は後ろに置いているはずです。相手の戦士ふたりに止められてますが、そこまで激しく打ち合ってないですし、そのあと飛んできた魔法も即座に避けることができています」

「あー、たしかにそうです」

「距離を詰めて警戒させてるだけさせて、相手がもたもたしてたらそのまま切り込むといった動きに見えますね。で、相手がまんまと物理盾を展開したのでそのまま下がります。撃たれた魔法も、魔法盾で防がず全員が避けてます。……続きを見ます」

 

 速度を戻すと一気に火花が散る。司令と司令が休まず口を動かし、盾がめまぐるしく展開されては消え、炎と風が飛び交う。速すぎてさすがに全部は把握できないけれど、前線のラインを見ているだけで、徐々にノーヴィン側が押していることがわかる。

 

「っ! いまの! いまの変ですっ!!」

「今度はどうしましたか」

 

 俺は映像を止め、レフィの言葉に耳を傾ける。

 

「いま、治癒魔法なのに、違うのがでました!」

「はい?」

「ちょっと、もうちょっと戻して、またゆっくりにしてください!」

 

 俺はレフィの指定するところまで場面を戻す。

 言われたとおりに映像を近づけ、ノーヴィン側の杖の男性を大きく映す。再開。

 

『……東へとみたす光を』

 

 詠唱と同時に男性の前方に火柱が立ち上る。

 ぶおうお、と音を立てて、連続し、高速で相手陣営へと向かっていき、魔法盾に阻まれて消える。盾が明滅し、その耐久力がほぼ尽きたことを示した。

 

 

 

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