第27話 勧誘
「きょーはもーたべなくてーのだー……」
「よくあれだけお腹に入りましたね」
とろみのついた表情でクーは満足そうな声をあげた。
不思議で仕方がない。クーの体格はレフィと変わらないくらいだ。その胃の大きさをどれだけ大きく見積もっても、食べた肉の体積の方が上回っているようにしか思えない。
呆れを通り越して、もはや畏敬の念を抱いていると、当のクーがすくっと立ち上がった。
「どうしたんですか?」
「きょうはまだ走ってないから、走るのだ」
「……まさかあれだけ食べてすぐ動けるなんて言う気じゃないでしょうね?」
「……? 食べると動けなくなるのだ?」
「いえ、なんでもなかったです」
「そうかー?」
彼女に関してはもう、いろいろと諦めたほうがよさそうだ。
この様子ならすぐに肉付きも良くなることだろう。
「クーさんは」とレフィが準備体操のようなことをしているクーに声をかける。
「どうして戦うのが嫌いなんです?」
その質問にクーは体を動かしながら考え込んだ。
「……べつにりゆーはないのだ。なんか嫌いなのだ」
「そうなんですか。なんだかもったいないですね」
「もったいない? のだ?」
「そうです。それだけ走るのが好きなんですから、『もっと足が速くなりたい』だとか、思わないのかなって」
レフィの言葉に、クーの体が中途半端な姿勢のまま、完全に停止した。
瞬きを数回。見つめ合ったままのレフィが首をかしげた。
「……足は、速くなりたいのだ。とーぜんなのだ。だから走ってるのだ」
「ああ、だから、
「んっ、んんっ!? レフィは何を言ってるのだ?」
「あれ、もしかしてクーさんは知らないんです? クリスタルのこととか」
「クリスタルってあのでっかいキラキラの石なのだ?」
「知ってるじゃないですか」
「一回だけ見たことがあるのだ。里をでる前にみんなに手伝ってもらうのだ。ちゃんとクーのなかに入ってるのだ。そういうオキテなのだ」
掟。
また古風な単語が飛び出したが、なるほどクーはすでに最初のクリスタルを得ているらしい。それならこのとんでもない足の速さもギリギリ納得がいく。ギリギリではあるが。
「それは一個だけです?」とレフィは質問を続ける。
「うん? キラキラのでっかい石ならいっこなのだ」
「そのキラキラの石はいっぱい手に入るんですよ?」
「……っ!! え、う、嘘なのだ!! ほんとなのだ!?」
「なんでクリスタルのことは知っててそれは知らないんですか……」
レフィは呆れたように言い、助けを求めるように俺を見た。
そんな目で見られても困る。俺にも正直意味がわからない。なぜ知らないのだろう。彼女の里では教えてくれないのだろうか。
肉の味をよく知っているのに、狩りを知らないのもそうだ。もしかしたらクーの里の教育方針なのかもしれない。それこそ愛しい我が子を谷に突き落とすかのような。自分で考えて、自分で経験して、覚えて学べとでも言うような。
もしそうだとすれば、すごい親御さんだ。もしくは里の大人たちか。
無駄に先入観を与えないという意味では効果はあるかもしれないけれど、知識がないせいで大怪我につながる可能性だってある。外に出たクー本人よりも親の方が気が気でないのではないだろうか。
「クリスタルをもらったときに、足が速くなったりしませんでした?」
「もちろんしたのだ! 全然ちがうのだ!」
「そのクリスタルっていうのはですね……」
レフィは身振り手振りを加えてすこし興奮気味に説明をする。いつも教えられる側であったから、教える側に回れるのが嬉しいのかもしれない。
俺は何も言わずにそれを眺めているけれど、こうして聞いていてもレフィの真剣さというか、アライクンさんが言ったことや俺が話したことを真面目に聞いていたことが伝わってくる。本当に
「……クリスタルのことはわかったのだ。でも、のーと? っていうのだ? それのことはたぶん嘘だと思うのだ」
「音指(ノート)が嘘? どういうことです?」
「ニトやレフィのことは信じてるのだ。でもれふぃんだーっていうのが、のーとをつかえるっていうのはたぶんちがうのだ。それはきっとだれかに嘘を教えられてるのだ」
「……、……ニトさん」
レフィが自信なさげにこちらを見る。
これはまあ、いままで音指をまったく使わなかった俺も悪い。
「僕の言うことは別としても、アライクンさんが言った事を疑えます?」
「そうなんですけど……。というか、ニトさんがいまここでやってくれたらいいじゃないですか」
「ごもっともで。でもやったとしても、レフィさんに足の速さとかジャンプ力を演じてもらうことも出来てしまう訳じゃないですか。最初に低くジャンプしてもらって、次に僕が声をかけたら本気で、って」
「そんなことしませんよ」
「クーさんから見たらわからないじゃないですか」
「じゃあどうするんです? ……というか、ニトさんはそろそろクーさんに言っておくべきことがあるんじゃないですか?」
レフィのじとっとした目つきに、俺は息が詰まった。
「な、なにがですか?」
「またおなじ顔してましたよ。わたしがあの技を覚えたいって言ってたときと。これ以上はもう説明しませんっ」
「…………う」
「なんだ? どうしたのだ?」
恐ろしい。うちの戦士は本当に恐ろしい。
クーが戦闘を嫌いだと言った時点で諦めるつもりではあったけれど、そうか。だとしても、一度は俺の想いを伝えるべきだと、そう言いたいのだろう。
おっそろしいな、レフィは。
「クーさん」と俺は静かに口を開く。
「うん? なんなのだ?」
「僕はクーさんをパーテイに誘いたいと思っています」
その言葉にクーではなくレフィがふんと鼻を鳴らした。
ほらみろ、言わんこっちゃないとでもいいたげだ。
「ぱ、ぱーてぃ? なんなのだ?」
「僕やレフィさんみたいに、一緒に戦う仲間になりませんかという意味です」
「なかま!? クーをなかまにしたいのだ!?」
「そうですね。仕事を一緒に探すっていうのも本当は口実で、もしすぐに仕事が見つからないようであればその流れで誘えたらいいなとは思っていました」
「で、でもクーはぜんぜん戦えないのだ……」
「そうですよね。なのでやっぱり」
「ニトさん」
鋭い視線に、俺は顔をしわくちゃにしながらあさっての方向へと向ける。
怖い。うちの戦士怖い。
ああ。ヒトの生き方にまったく口を出さなかったツケがここにきて回ってきている。嫌がるクーを無理にパーティに引き込んだとしても、彼女のこれからの人生が良くなるだなんて保証もできない。足を速くすることはもちろんできるだろうけれど、嫌いな戦闘に身を委ねても彼女が幸せになれるかと聞かれたら。
そんなこと、レフィと契約をした時点でいまさらではあるけれど。
「……それじゃあ、クーさん、こうしましょう」
「なんなのだ?」
「協会に行って、一度契約をしましょう」
「けーやくなのだ?」
「そうです。それで僕がクーさんに音指をかけます。本当に足が速くなるっていうことを確かめてもらって、もし気に入ったら仲間に入ることも考えて欲しいです。やっぱり嘘だったと感じたらすぐに契約を切ってもらって構わないですし、やっぱり戦うのが嫌だからという理由で断ってもらっても構いません」
「うーん、よくわからないけど、わかったのだ」
「そこは理解してほしかったです」
視界の隅で、うちの小さな大将が満足げに頷いた。
「こんな朝っぱらから見せ付けにきて、なんだあ、順調そうじゃねえかニト」
「そう見えますか?」
久しぶりに会ったアライクンさんは相変わらず朗らかな様子でそう言った。
俺の活動内容を知っていて言われる分には構わないけれど、後ろの二人を見て順調そうだと言われるのはなんだか腑に落ちない。特に、ふたりの容姿を見た上でのコメントに聴こえるのが、どういう意味で順調なのかを深読みしてしまいそうになる。
「お譲ちゃんもずいぶん顔つきがそれっぽくなってきたなあ」
「そ、そうですかね?」
「ああ。戦士の顔になった」
「えへへ……」
アライクンさんの言葉にレフィはくすぐったそうに笑う。
いつも近くにいる俺にはあまり変化はわからないけれど、やはり久しぶりに会うヒトには違って見えるのだろうか。
心境に変化がありそうな出来事は。まあ、あったような、なくはないような。
心当たりを探すまでもない。どっちを向いても、上を見ても下を見ても、あの日のレフィの泣き顔が浮かんでくる。アライクンさんが俺に言った「受け取り方を間違えるなよ」という言葉があまりに刺さりすぎていてわざわざ報告する気にもならない。
格好悪くて、悔しい。
「それで、そっちのお譲ちゃんは?」
「クーのことか? クーはクーなのだ!!」
「……そうか、そうか。アライクンだ。よろしくな」
物怖じしない元気な声が村に響く。
そのやり取りだけで全てを察したかのように、おじさんはなんともいえない視線をこちらに向けた。まるで俺の女性の趣味を疑われているような気がしたので、俺も真顔を返しておく。クーがこんなにもクーであることは、僕にも想定外です。
「それで? 今日はどうした。契約か? それともソルフェイズが必要になったなら安くしておくぞ?」
「ソルフェイズはまだいいですよ。僕もまだしばらくは狩場に行くので」
「そうか、ならチューニングの方だな」
「はい」
「入りな」
さくっとやり取りを終えて、俺たちはアライクンさんの背中についていく。
協会の扉をくぐる直前でレフィがこっちを見上げたことに気付いたけれど、いまは気付かないフリをしておく。
まったく、新しい単語には興味が隠せないらしい。
* * *
「っあー……、スー……、それはなあ……」
テーブルを挟んで向かい合ったアライクンさんが、自らの額を抑えて顔を大きく逸らした。ここまでばつが悪そうな表情をするのはかなり珍しい。
「もしかして、何かあるんですか?」と俺は尋ねる。
「あると言えばあるし、無いといえばないが、まあそのアグニフって子はちょっと異常だな。それはその子自身の問題がでかそうだ。でもなあ、少なからずあるんだよ、クーシーってやつは」
「あるんですか」
「ある。ちょっとばかしな。この世界に一番多いのはケットシーとクーシーだが、どちらかというとクーシーの方が筋力面を見ても戦闘向きなことが多い。ケットシーの機敏さや身軽さはないが、その分トップスピードと力強さはクーシーの方が上だ」
「種族にそんなに違いがあるんです?」
俺が口を開く前に、レフィが興味津々に尋ねる。
アライクンさんは椅子の上で仰け反った体を起こし、片手を上げる。
「平均的に見ればな。特に首都の騎士団だとか兵士に選ばれるのはクーシーが多い。ケットシーは選考の時点で落とされやすいんだ」
「そうなんですか……。ほかの種族の話も聞いてみたいです」
「他か? まあそうだな、ケットシーもクーシーも共通して言えるのは、そこまで魔法がうまくない。適してないっていうほうが正しいな。有翼のハーピー種なんかは魔法もそれなりに扱えるが、運動能力が俺たちに比べると少し劣るらしい。あとはとにかくハーピー種ってのは種類が多すぎて、なかなか特徴が一定じゃないんだよな。飛べる奴もいれば、飛べない奴もいたり」
「ふんふん」
レフィがアライクンさんの話に食いついている隣で、クーは部屋の中をぼーっと眺めている。あまりそういう話には興味がないのかもしれない。
「とにかく魔法が得意っていうと、どっかの秘境に住んでいるらしいピューケイ種とかいう耳の長い種族だな。その住処は騎士団の上層部くらいしか知らないが、ハーピーとも比べ物にならないほど魔法に長けているそうだ。その代わりに運動はハーピーよりも苦手らしいが」
「騎士団のひとたちはどうして住んでる場所を知っているんです?」
「引退か、死んだとかなんとかで新しい団長にかわるっていうときにな、必ずその種族から嫁さんをひとりもらうことになっているらしい。かなり古いシキタリみたいだが、いまだに有効らしくてな。いまじゃもうどうしてそんな決まりができたのか説明できるやつも残ってねえんじゃねえかな。それくらいずっと昔からだそうだ。形骸化ってやつだな」
「はー……、種族にもいろいろあるんですね」
「そうだな。あと俺でも知ってるっていうと、東の国を治めてる竜種くらいか」
「竜!?」
「もう東の国の王族が死んだらそれで絶滅するって言われてるほど数が少ないけどな。戦闘に関してはほとんど右に出る奴はいない。運動能力も筋力も魔法も、なにをやらせてもトップクラスだと聞いてる。ただいかんせんプライドが高すぎてな。結婚相手を決められなくて一族自体が絶えそうになってんだから世話ねえわな」
「もういなくなっちゃうんです?」
「このまま相手を決められなかったらな」
「なんだか悲しいですね」
部屋が一度しんとなったところで、俺は咳払いをひとつする。
「それで、クーシーの話ですが」
「ああっ、そうだったよ」
虚を突かれたようにアライクンさんは大きい声をあげ、両手をぱんと合わせて、すぐに苦虫を噛み潰したような顔になった。
「クーシーはなぁ……、ちょっとなあ……、いや、オレもあんまりそのアグニフって子を強く言えねえんだ」
「もしかして、アライクンさんも何かやらかしたんですか?」
「そのあたりはあんまり聞いてくれるな。若気の至りってやつだ。言い訳っぽくなるが、クーシーってのは特に、戦いとなると頭がカーッとなる奴が多いんだ。入り込んじまうっていうか、ハイになっちまうんだよ」
「はあ、それは知らなかったです」
「ただ見境がなくなるほどじゃあないんだがな。仲間にまで危害を加えるのはさすがにヤバい。そのアグニフって子はやっぱりやりすぎだ。多分だが、その子の生い立ちか何かが関わってるんだろうな」
「なるほど」
いったいどんな生き方をしてきたらあれほどまでに暴力的になってしまうのだろうか。なにか想像もつかないような経験をしてきているのかもしれない。
だとしても、許すつもりもなければ仲間にしたいとも思わないけれど。
被害は、被害だ。
「戦闘ですら、なかったんですね」
そんなつぶやきが隣から聞こえた。レフィは俯き加減に何かを考えているようだった。
あのとき最も辛い思いをしたのは間違いなくレフィだ。なにか思うことがあるのかもしれない。
「よし!」とアライクンさんは手を打ち、空気を変える。「今日はそっちのお譲ちゃんが契約ってことでいいんだよな。お譲ちゃんもクーシーか?」
「クーはすこーるなのだ!」
「スコール? あんまり聞かない名前だなあ。まあいいか」
「僕は何かする必要はありますか?」
「ニトの声紋はもうデータに入ってるから問題ない。彼女をそれに合わせるだけだ」
「わかりました。よろしくお願いします」
「おう!」
威勢よく返事をし、アライクンさんはクーを連れて奥へ向かう。
ローブの後ろに揺れる毛量の多い尻尾が奥に消えるのを見届けると、すぐに待合室はしんと静かになってしまう。クーと出会ってから、レフィと二人きりになるのは久しぶりな気がする。
「……レフィさんはどう思ってるんですか?」
「なにをです?」
つんと澄ました声は、すでに何を聞かれているのかを理解しているようだった。
「クーさんを仲間に入れることを」
「いいんじゃないですか? にぎやかですし」
「寝るときも温かいですし?」
「今度からベッドは二つじゃなくて三つの部屋にしてください。ほんとにもう」
「三つの部屋にしても、たぶん入り込んできますよ」
「はあ……」
苦悩の多いレフィは、最近ではさらにため息の重量が増しているように思える。
どれだけ拒絶しても、せっかくだからレフィと一緒に寝てやるのだ、などと言い張るクーを最後まで退けることができず、ここ二日間とも二人は同じベッドで眠っている。そこまでいうならニトと寝るのだ。なんてことを言い出すクーに、レフィが折れた形だ。俺は構わないけれど、レフィにとってはそっちの方が気が気じゃないらしい。
まあ、一応は年頃の男女である。
俺が俺で、クーはクーだけれど、それでもやはり、男女には違いないらしい。
「……ありがとうございます。レフィさん」
「なんですかいきなり」
「いや、おかげでクーさんを誘えたので」
「ほんとですよもう、感謝してください」
この言い分からしても、口ではどうこう言うけれどそれなりにクーを気に入っているのではないだろうか。彼女の中でもパーティに誘うことは賛成だったに違いない。
アグニフの一件もあったからこそ、やっとレフィが順調に育ってきている今、俺一人の判断ではどうしても動けなかった。あそこで「クーさんに何か言うことはないんですか」と言うのは、わたしは気にしてないですよ、というのに等しい。
あるいは俺のどっちつかずな態度を見て、のことかもしれないけれど。
俺はテーブルの上のコップに手を伸ばす。
これを持ってきてくれた、あの若い短髪の職員さんともそろそろ顔見知りくらいにはなったのではないかと思う。彼も戦えば強いのだろうか。
こんな辺鄙な村まできて揉め事を起こすようなパーティはいないだろうけれど、もし何かが起こったときにはアライクンさんが直々に対応するのだろうと俺は思っている。パロームおばさんの店にいたときも、おじさんの武勇伝まがいの話を何回も聞いた。
それらの話を全てつじつまが合うように統合するとアライクンさんはこの世界を三回ほど救っていることになってしまうので、かなりの割合で嘘が含まれていることだけはわかる。でもきっと、戦ったら本当に強いのだろうとも思う。
こんなところに来るまでは本当に何をしていたのだろう。おじさんもランキョクさんと同じで生い立ちが不明だ。けれど協会の職員になるのはそう簡単ではないと聞くから、おそらくは元から協会関係の仕事に就いていたのだろうと思う。
コップをテーブルに戻すと、レフィが見覚えのある表情で俺を見ていた。
「……あの、ニトさん、ひとつ聞いてもいいですか?」
「ソルフェイズっていうのは」
「まだ何も言ってないです」
冷ややかな目で見られて、間違いだったかと腕を組み、俺は背もたれに身を預けた。レフィが俺の表情を読めるのに、俺がレフィの表情を読めないのは不公平だと思う。いずれ彼女とは顔だけで会話ができるようになりたいと思っている。もちろん嘘である。
俺が背もたれの柔らかさに全幅の信頼を置いていると、となりの彼女がふいっと顔を逸らした。
「…………べつに、説明してもいいですよ」
左様で。
「ソルフェイズっていうのは、まあ俗に
「なにもしなくても? どういうことです?」
「例えばソルフェイズでレフィさんに『敵を見つけたら:走れ』なんてのを定着させたら、レフィさんが敵を見つけたときに『走れ』という音指みたいなものが勝手に発生するんですよ」
「ええ? すごいじゃないですか」
「僕もすごいと思います。ただ司令が実際に音指を扱うよりもずっと効果は低いですし、能力上昇がたいして見込めないんですよね。定着させてもらうのにお金もかかりますし」
「……どういうときに意味があるんです?」
「使いどころはたくさんありますよ。僕が一番いいなと思っているのは仲間同士の連携で使う方法ですかね。たとえばクーさんが前衛で、レフィさんが後衛をしているとするじゃないですか」
「はい」
「それで、前の方にいるクーさんが怪我をしたとします。そうしたら、レフィさんはどうしますか?」
「治癒魔法を唱えてあげたいです」
「もし魔法が届かない位置だったら?」
「えーっと……、唱えてるときは何もできないので、わたしが前にいくのは少し危ない気がしますね……、クーさんに下がってもらうようにお願いしたいです」
「……、…………」
「な、なんですか? なにかおかしいですかね?」
「いや……」
レフィも、朝のあの訓練に誘うべきかもしれない。
考えておこう。
「僕もそれが正しいと思います。ただ、クーさんに言って、下がってもらって、それから唱え始めるとすると、その間に敵に攻め込まれる可能性もありますよね?」
「それは、そうですが……」
「そんなときにソルフェイズなんですよ。クーさんには『怪我をしたらレフィのところまで下がる』、レフィさんには『クーが怪我をしたら治癒魔法を唱える』。これを定着させておくと、怪我をしてしまった瞬間にクーさんが下がって、レフィさんのところまできた頃にちょうど治癒魔法が唱え終わる。みたいなことができるわけです」
「あっ、なるほど。クーさんといっしょに動けるんですね?」
「その通りです。いまのはかなり雑な例ですけどね。その程度だったら慣れてくればアイコンタクトひとつで連携が取れるようになると思います。ただもっと複雑になって、三人、四人の同時連携ともなると、やっぱりあったほうが便利だったりします。なので、ソルフェイズは僕からすれば自動で能力を上げるためというよりは仲間との連携に強いのかなと思っていますね。他にも用途はありますけど、たぶんアライクンさんのほうがそこらへんは詳しいと思うので興味があれば聞いてみるといいかもしれないです」
「はあー……、なるほどです」
そるふぇいず、そるふぇいず。とレフィはうわごとのように繰り返す。
レフィの
でも、ありだな。
レフィなら、もしかすると。
「ニト」
早足で戻ってきたアライクンさんに俺は顔を上げた。
もう終わったのだろうか。さすがに早すぎるような。
「ニト、話がある」
「どうしたんですか?」
「そうだな……、そうだな、お譲ちゃんも一緒に聞いてくれ」
アライクンさんの真剣な表情に、俺とレフィは顔を見合わせた。
レフィと一緒に前へ向き直り、おそるおそる頷く。
アライクンさんは間髪入れずに言った。
「あの子は、ブラックリストだ」
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