第21話 技と魔法と習熟


 

 

「えっほ! うえっほ! ふあっ、はあ」

 

 俺は激しく咳き込みながら、涙目を拭った。

 飛びついてまで胸倉を掴みかかってきたレフィに危うく絞め落とされるところだった。あの目はかなり本気だった。レフィ、恐ろしい子。

 

「自業自得です!!」

「げっふ、ええ、その通りでごふ」

「ほんとにもう。信じられません……!」

 

 黒いドロドロはいつしか元の色に戻り、最初から自分は道の一部だったかのような顔をしている。レフィが引き抜いた靴の穴を除いては、だが。

 

「ごは、いまのごふっ、いまのがごべう、はや、さごうっ、おふっ、ですね」

「何を言ってるかわかりません」

「げふっ、おごふごふごふげげごふおっふ」

「そんなに強く絞めてませんっ! 大げさにしないでください!!」

「いまのが疾砂はやさごですね」

「ふつうにしゃべれるじゃないですか……」

 

 俺は最後にひとつセキをしてから、道に不自然にあいた二つの穴を適当に埋める。埋めながら、この技の新たな事実に気付く。

 ただ敵の動きを止めるためのものだと思っていたけれど、地面がかたい場所で敵をハメた場合、時間が経ったら本当に抜け出せなくなるのではないだろうか。脚の形にもよるかもしれない。

 

「これでレフィさんも効果がほんの少しはわかりましたかね」

「もう充分です……」

「そんな顔しないでください。これがあればハウジールドだって、木にぶつけなくても足止めできるわけですよ。動けなくてもがいてるところをバシーッと倒すだけでいいという超優秀な技です。まったく人気はないですけど」

「そうでしょうね……」

「なんで気落ちしてるんですか? いい技なんですよ?」

「……地味です、……なんか暗いです、……汚いです」

「攻撃タイプの技はどうしても獣性ベストの影響が大きくなりやすいですから。こういった技ならレフィさんでも十分に効果を発揮できるわけですよ。お得だと思いませんか?」

「……、……はぁ」

 

 俺の言葉に一瞬明るくなった表情は、もう一度ドロのあたりを見てため息に変わった。

 そこまでお気に召さないか。そうか。

 

「……レフィさんの、覚えたいものを次は選びましょうか」

「いえ、いいんです。いいんですけど、なんだかこう、わたしの中のリソーとゲンジツが、なんていうか、うあーってなってるんです……」

「いずれはこの技のよさがわかってきますよ」

「ほんとうです? わたしにもわかりますかね?」

「嫌と言うほど。宝剣があればもう少し発動も楽になりそうですが、はやいうちに別の場所へドロドロを作れるようにしておきたいですね。もうひとつも見せてくれますか?」

「もうひとつの方です? わかりました」

 

 レフィがまた静かに視線を落とす。

 見た目に変化はない。けれどいま、彼女の意思に応じて、先人の記憶と知識の一端がその身に降りてマナに溶け込んでいる。

 

 俺はその様子を見て、後ろに五歩ほど離れる。

 ふと、レフィが顔を上げた。

 

「……ニトさん? どうして離れるんです?」

「特に理由はないです」

「だったら、もっと近くで見ててくれてもいいです」

「いえ僕はここで十分です」

「……やっぱり今日はこの辺にしておこうかと思いました。宿に戻ります」

「いえいえどうぞ試していただいて」

「そうです? ニトさんが近くにいてくれたらできそうな気がしますが」

「レフィさんは強いヒトですよ。大丈夫です」

「わたしに勧めたのはニトさんですよね?」

「……まあ、そうですね」

「セキニンはあるんじゃないですかね。なんだかわたしいま、すごく不安なのですよ」

「奇遇ですね。僕もです」

「……パーティ、ですよね?」

「そうですね」

「わたしの司令レフィンダーですよね?」

「……ええ、その通りです」

「ニトさん」

「はい」

 

 俺は奥歯を噛み締めながらレフィに歩み寄る。

 さっきの疾砂を見たせいで、何が起こるのかがだいたいわかってしまう。そもそも、もうひとつの技を選んだのも俺だ。効果も特性もよく理解しているつもりだ。

 ということで、俺は。

 

「いきますよ」

「はい」

 

 並び立つレフィが、習得した技を呼び起こす。

 わずかな空気の揺らめき。まるで緩やかな風が次第にレフィに集まるように流れ出して。

 

 ぼ。

 

 鈍く乾いた音と共に、視界が土の色に染まった。

 ということで、俺は。目を閉じ、鼻をつまみ、息を止めて走り出す。

 

「――――――ッ!!」

「わひゃっ、なっ、う、げふ、ごほっ」

 

 もういいかと思える位置で立ち止まり目を開けると、未だ自分の体の半分ほどは砂塵の中にいて、慌てて抜け出す。想像以上に範囲が広かった。

 

「レフィーさーん、外に出たほうがいいですよー」

「んげふっ、どっち、どこ、ですっ!? えふっ」

「こっちです、とりあえず声の方へ、……ウッ!?」

 

 言うが早いか、なぞの衝撃が腹を襲う。前傾姿勢の頭をみぞおちにもらい、俺は息の仕方を忘れる。吐く。なんなら吐く。うぐ。

 おそらくは即座に退避しようと地面を跳んだレフィがちょうど頭突きのような形になったのだろう。レフィの柔らかそうな頭部をずっと求めていたことは確かだけれど、需要しかなかったけれど、このような供給のされ方は想定外だった。


「うっ、ぐぶ」

「げふ、けふんっ、あうう、目に入りまじだあ……」

 

 口に土が入ったのか、べえっとレフィが舌を出し、俺もその隣で気の遠くなりそうな程の腹の痛みと闘っていた。打ち所が打ち所だけに、痛いというより最高に気分が悪い。本当に吐くかもしれない。

 

「うっ、ううっ……」

「ぺっ、べーっ、ぼ、もう最悪ですう……っ!」

 

 俺だけが助かることはできないこの世界。

 因果応報。

 

 

 

「……うえ。……えー、今のが沙煙さもくという技でしたね」

「そうです。もう二度と使いません」

「まあそう言わずに」

 

 舞い上がった土煙のいくらかは地面に舞い降り、いくらは風に飛ばされて、向こう側の景色がやっと見えるようになってきた。

 期待通りの効果に俺は頷き、レフィはこの世の終わりのような顔をしている。

 

「ものすごく使い勝手がいいんですよ、いまの技も。最初のうちは魔物から逃げる時にしか使わないとは思いますが、いずれはいろいろなことに応用できる技です」

「……走って逃げたらいいんです。こんなの使いません」

「いやいや、まあまあまあ。安全に逃げられるに越したことはないんですよ。だいたいの魔物は自分より大きなものを見ると怖がりますからね。この広範囲の煙が威嚇になりますし、こっちの姿も隠せます。いまは土の上で発動したので土煙になりましたが、水気の多い場所なら霧が発生させられるという優れものです。すごく優秀なんですよ。まったく人気はありませんが」

「そうでしょうね!!」

「そんなにイジケないでください。もう香水を使える魔物もいないんですから。安全確保が最優先ですよ」

「……べつに、いじけてないですもん。ふん」

 

 そういいながら、レフィは近くに落ちていた石をぽこんと蹴り飛ばした。八つ当たりを受けた石は道の外へと転がっていく。おそらく俺の代わりになってくれたのであろうお方に、俺は心からの礼を述べる。ありがとう、石。

 

「さて試し撃ちもおわったので宿に戻りますか」

「え、え?」

 

 歩き出そうとした腕がレフィに引っ張られる。

 何事かと振り返ると、彼女は不安そうな瞳で俺をまじまじと見上げてくる。

 

「レフィさん、どうしました」

「も、もういっこ残ってます! 傷を治す魔法です! 一番かっこいいです!」

「それは、じゃあ、そうですね。そのうち適当に練習しといてください」

「ニ、ニトさん!! なんだか雑じゃないですか!? すごいんですよ!? 光りがふわーってなるんです!」

「協会でちゃんと発動できたんですよね? なら問題ないです! よし!」

「よしじゃないですう!! あの、その、えーっと、ニトさんは司令ですから! ちゃんと見ておくべきだと思います!」

「ええ……」

 

 レフィは俺の腕を両手でひしと掴む。

 その丸い瞳は何らかの感情に小さく揺れているように見えた。

 

 …………ふむ。

 

「……ハヤサゴも、サモクも、レフィさんは気に入ってないみたいですけど、発動はちゃんとできてましたよ。格好良かったです。まだ習得には時間がかかるかもしれませんが、初回としては十分じゃないですかね? うまく発動できないヒトもいるらしいですし、おそらくレフィさんが優秀なのでしょうね。上手でしたし、かっこよかったですよ」

 

 俺が言うと、レフィはどこか気まずそうに視線を逸らした。

 

「あ、う、そうじゃ、ないですよ、別に。かっこいいとかじゃないです。そういう、アレじゃないです。違うんですよ。そうじゃなくて。その、別に、カッコイイとか、そういうのは特に気にしてないので、違います」

 

 ぼそぼそとした口ぶりに俺は確信する。

 なるほど、褒められたいのか。

 

「確かに格好いいっていうのは、技の評価としてはちょっと間違ってるかもしれませんね。僕の感覚で言うと、技が格好良かったというよりレフィさん自身が格好良く見えたので、ついそう言ってしまいましたね。すいません、失礼しました」

「そ、そうですよ。かっこいいとか、全然、そんなの、わたし、そういうのじゃないですから。ニトさんはいっつも変なことばっかり言いますからね。わたしがすごいとか、カッコイイとか、そういうことじゃないんですよ。ほ、ほんとに困ったヒトです」

「ええ、すいません。いや、お疲れかなと思ったんですよ。レフィさんは簡単そうにやってのけましたが、ふたつも技の発動を成功させちゃったじゃないですか。そのうえ治癒魔法も見せてもらうだなんて、ちょっと申し訳ないかなあと」

「べ、べ、別に、いいですけど?」

「えっ? まさか出来るんですか? 疲れたりしないんですか?」

「で、できますけど?」

「本当ですか? レフィさんは生まれつき精神力が高いのでしょうか? もしくはヒトより厳しい環境を生き抜いた生命力みたいなものがあるのかもしれないですね」

「そんなこと、ないですもん。ふん」

「それじゃあもし良ければ見せてもらってもいいですか?」

「し、仕方ないですね!」

 

 レフィは俺の腕を離し、数歩下がると、緩んだ口元をきゅっと引き締めた。

 

 先に言わせてもらおう。

 なんの茶番だ、これは。

 

「…………」

 

 静かに佇むレフィはいつしか虚な表情になり、今度は空中を見上げている。

 治癒魔法のイメージは空から降りてくるのだろうか。それとも直感的にそうした方がやりやすいのだろうか。これはレフィの感覚によるものかもしれない。

 しばらくそのまま見ていると、レフィの両腕が自然と開き、そのまま前方へ差し出される。まるで降り始めの雨を確かめるかのように、両方の手のひらが天に向けられる。

 

使つかいの月、羊天ようてんは日の出より浅く、南へとみたす光を」

 

 すらすらと流れるような言葉は、まるで音指ノートのように空間に響く。それだけで、先のふたつとは構造からしてまったく別物であることがわかった。

 周りの地面が黄色に染まる。淡い光に照らされる。中心は俺。

 肌が熱いと感じた。火傷してしまいそうなほどの瞬間的な熱は、けれど痛みを伴わず、ゆっくりと温かさに変わって、光と共に消えた。それで終わってしまった。

 門を出てから時間が経ったせいか、それとも治癒の光が目に焼きついたのか、夕暮れの赤がやけに暗い色に感じた。何事もなくなってしまった平凡な風景の中で、レフィだけがほっと息を吐いた。

 

「ふう。……ど、どうですか」

 

 自慢げにこちらを見るレフィに、俺は無言を返す。

 ランキョクさんが詠唱するところをほとんど見たことがなかったからか、それとも村のヒトが大怪我をするような場面に遭遇しなかったせいだろうか。魔法然とした魔法を、俺は初めて目にしたのかもしれない。

 きれい、だったなあ。すごいというより、綺麗だった。素直に。

 

 さて。

 

「に、ニトさん?」

「…………レフィさん!」

「あ、う、え?」

 

 不安そうな顔をするレフィに俺は詰め寄り、驚いたように胸元に構えた小さな両手の、その細い手首を掴んだ。

 まっすぐ、見る。口を開く。

 

「レフィさん! レフィさんはいったい何を!?」

「え、え? わたし、もしかして何かやっちゃいましたか?」

「なんですか今の言葉は。すごく綺麗な魔法じゃないですか。頭に浮かんでくるんですか? それとも覚えたんですか?」

「え、えっと、言葉はその、いまはまだ必要だからって、わたしに合う言葉をカイセキ? して教えてくれたんです。な、なにかまずかったですか……?」

「教えてくれた? 書き起こしてもらったのではなく、頭に浮かんでくるわけでもなく、一発で覚えたっていうことですか?」

「れ、練習はしましたよ!? 練習したら、誰でもできるじゃないですか」

「誰でも? いや、そう簡単ではないと思いますけど。レフィさんは簡単に感じたんですね」

「そんなに、すごくないです! ほんとに!」

「はあ、まあ、レフィさんにとってはそうなんですね。なるほど」

「う、う……?」

 

 俺の視線から逃げることもできず、彼女は押し黙った。

 こんなものだろうか。わからないけれど。

 夕日が彼女の頬を照らしているうちに、俺はその手を離して立ち上がった。離した後も、レフィは両手を胸元に寄せたまま、きょろきょろと地面と俺を見比べていた。先が楽しみですね、と俺は小声で付け足しておく。

 

「わ、わたし、もしかしたら……」

 

 レフィは目のやりどころを探してから、意を決したように俺を見上げた。

 

「もしかしたら、わたしすごいです?」

「……自覚がないんですか? 恐ろしいヒトですね」

「すごいですか!? すごいですっ!?」

「いやでも、ほんとに、無理しなくていいですよ。治癒魔法の発動も素晴らしかったですけど、ハヤサゴとかサモクは使うのが苦手そうでしたし」

「でっ、できますよ!? わたしできます!! 全部できますよ!」

「いやあ、でも、まだ本当の習得も残っているわけじゃないですか。いくらレフィさんほどのヒトとはいえ、三つも同時に仕上げるだなんて、そんなことはまさか」

「できますよ!? やってみせます!! 本当の習得ってなんですか!? 傷を治す魔法だけじゃないです! はやさごだって、さもくだって、どっちも完璧に使いこなして見せますよ!」

「さすがに厳しいんじゃないかなあ……、いや、でもレフィさんならもしかすると……」

「教えてください! ほんとの習得ってなんですかっ!?」

 

 詰め寄ってくるレフィに、俺は笑いを堪えながら向き合う。

 その瞳の奥にはメラメラとした何かが灯っているように見える。それを見て思う。こういうことも、簡単に「くだらない」と言って切り捨ててしまうのは、あまり良くないのかもしれない。

 俺はバッグから調合のときに使う細い棒のような器具を取り出す。

 何をするのかと興味深く見ているレフィのすぐ隣に座り込み、地面にガリガリと線を引いていく。すぐにレフィもしゃがみ、食い入るように俺の手元を見る。

 

 真ん中に長い縦線をひとつ。

 そしてその両側。左側には“再現”、右側には“威力”という言葉を記しておく。

 

「レフィさん、いいですか?」

「はい!」

「いまも僕たちの周りに漂ってるマナの効果を、いまから線で表します」

 

 俺は左の空白から真ん中の線をほんの少しだけ越えて、右に入るような横線を引く。

 

「マナは意思のエネルギーだと言ったのを覚えてますか? この横線が、これが技や魔法を覚えたばかりのときのマナです。マナの力が掛かっている部分です」

「……? えーっと?」

「そうですね、たとえばこれが炎を放つような攻撃的な魔法だったとします」

「はい」

「炎の魔法を覚えたばかりのヒトがこれを撃つためには、それを求めて、願わなければなりません。たぶんですが、さっきのレフィさんの技も魔法も、『やりたい』という気持ちによって呼び起こしているんですよね?」

「そ、そうです! 係りのヒトに、それが発動のきっかけになるって……」

「昔のヒトの記憶や経験が呼び起こされるらしいです。ただ、まだなにも知らない状態で呼び起こそうとすると“やり方のすべて”を昔のヒトに頼らなければなりません。周囲のマナが助けてくれるわけですが、マナの大部分がその魔法を生み出した昔のヒトを“再現”するために消費されてしまうわけです」

 

 この部分ですね、と言って俺は横線の左側を指差した。

 

「昔のヒトが編み出した炎の撃ち方を、周囲のマナが頑張って、再現させようとします。けれどそれが限界です。威力がこれしか出ません」

 

 今度は、横線が右に少しだけ飛び出た部分を示す。

 

「あっ、このちょっとだけ出てる部分が、強さなんですね?」

「そうです。初めての炎の魔法の場合、これだけしか威力が出ません。再現で手一杯なんですよ。ただこれを何回も繰り返していくとどうなるか。……どうなると思います?」

「……どうなるんです?」

「体がすこしずつ“やり方”を覚えていくわけです。最初は何かに操られているんじゃないかという勢いで体が動いたはずです。ですよね?」

「あ、そうです。なんだかふわーってなって、わーってなるんです」

「でも繰り返していくうちに、その“やり方”が体に染み込んでいきます。勝手にコツがわかってきます。直感で理解できるようになるんだと思います。そうすると、……こういうふうに、再現するために必要なマナが減るわけです」

 

 俺は横線の下にもうひとつ横線を引く。同じように左から、さきほどの線よりも短く、真ん中の線までガリガリと引く。

 

「……サイゲンが減りましたね」

「そうです。昔のヒトの記憶に手伝ってもらわなくても、それなりに自分で出来るようになるわけですからね。問題はここからなんですが、再現するためのマナが減った場合、威力はどうなると思いますか?」

「……あっ!!」

 

 俺がレフィに棒を手渡すと、レフィは線を威力の方へと長く伸ばす。さきほどの線よりも威力側に出っ張っているけれど、線の全体の長さは同じくらいだ。理解が早い。

 

「イリョクが増えるんですね!?」

「そう、再現がいらなくなった分だけ、威力が増すわけです。これで炎の魔法が強く放てるようになりました。強くなったのが嬉しくて、もっと使い続けます。そうすると、もうほとんど自分ひとりの力で発動ができるようになってしまいます。……こうですね」

 

 俺は棒を受け取り、最後にもう一本の横線を継ぎ足す。今度は真ん中の縦線から、左へほんの少しだけ飛び出るように。

 レフィの方を見ると、待ちかねたように手元がそわそわしている。俺は笑いそうになりながら棒を差し出す。すぐにその小さな手がガリガリと線を延ばす。9割以上が“威力”の線が出来上がった。

 

「こういうことですか!」

「さすがですね。そういうことです。使えば使うだけ、やり方がわかればわかるほど、再現するためのマナが減って、威力がどんどん上がります。だから協会は取得じゃなくて、習得って言うんでしょうね。レフィさんの場合は威力が上がるような技や魔法ではありませんが、威力が上がらないかわりに、“使い勝手”が劇的に変わるはずです」

「上手に使えるようになるってことです?」

「そうですね。発動が早くなったり、範囲や位置をコントロールできるようになったり、距離が伸びたり、時間が調節できたり。練習をすればするほど、実戦で使えば使うほど、上手に扱えるようになるはずですよ」

 

 俺が言い終わると、隣のレフィはすっくと立ち上がった。

 その瞳が爛々としている。

 

「わたし! できますよ!! 最速で極めてみせます!!」

「いやー、どうですかねえ、さすがのレフィさんと言っても……」

「できるって言ってるじゃないですか!! やりますよ! わたしは! 最初はどれがいいですか!? 何をしたらいいです!?」

「すごいやる気ですね?」

「当たり前じゃないですか! できますもん!」

「もうだいぶ日が沈んじゃいましたからね……、でもそうですね、少しだけやっていきましょうか。すぐに必要になりそうなのはドロドロのやつですね、ハヤサゴがオススメかなと僕は思います。はやいうちに少しでも自分からズラした位置にドロドロを創りだせるようになれるといいですね」

「やります!! ふん!」

 

 レフィは元気いっぱいに両方の拳を構えて、鼻息を荒げた。

 宿に戻るころには、辺りはすでに真っ暗になっていた。

 

 

 

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