第45話 反抗期~自嘲1
遥貴が国王になったからと言って、遥貴に権力が与えられたわけではない。けれども、大臣など立派な大人たちがかしずき、宮殿に使える職員たちがひざまずく様を見続けていると、誰であっても自分が偉くなったように感じてしまうだろう。ましてや年端もゆかない子供なれば尚更である。その点、小さい頃から帝王学を学んでいた尊人などは、流石だったと未来は今更ながら感心する。
遥貴は、初めの頃こそ公務も勉強も頑張っていたが、数カ月国王を続けているうちに、勉強が滞りがちになってきた。やりたくない事はやらなくなって、先生が来ても姿を見せない時もあった。未来が注意しても、疲れているなどと言って言う事を聞かないのだ。食べ物や着る物に関しても、やんわりとではあるが好き嫌いを言うようになってきた。つまり、普通に13歳なのだ。だが、国王としてはやはり困る。未来は困り果てた。打開策を考えなければならない。
そこで、一計を案じた。君子に会わせる事だった。君子は尊人を育てたのだから、良きアドバイスをくれるのではないか、と考えたのだ。早速上司と相談し、君子に宮殿へ来てもらった。
「君子様、ご無沙汰しております。」
未来はひざまずいて挨拶をした。君子はニコニコしていた。
「未来さん、お久しぶりね。わたくしもすっかり年を取ってしまいました。」
「そんなことはありません。全くお変わりありませんよ。」
お世辞ではなく、本当に未来はそう思った。君子はちっとも変っていなかった。
君子の元へ、未来は遥貴を連れてきた。初対面である。孫と言って良いものか。
「まあ。」
君子はそう言ったきり、なかなか次の言葉が出て来なかった。無理もない。何しろ尊人にそっくりなのだから。子供の頃を良く知る君子にとっては、本当に尊人そのものに見えるに違いない。
「おばあ様、初めまして。」
遥貴はひざまずいて挨拶をした。
「陛下、いえ、遥貴さんね。初めまして。」
君子はニコニコしていたが、目には少し涙をためていた。未来は胸がぐっと詰まった。君子は、もう13年以上尊人に会っていないのだ。電話やメールさえしていないはずだ。
「君子様、もしお忙しくなければ、遥貴様の傍にいていただけませんか。我々だけでは手を焼いていまして。」
未来がそう言うと、遥貴がちょっと口を尖らせた。
「何それ。」
「陛下、お言葉が。」
未来がさりげなく注意する。遥貴は大きく息を吸って、ふっと吐いた。つまり、これ見よがしにため息をついたのだ。未来が顔をしかめると、君子がホホホと笑った。
「大丈夫ですよ、未来さん。尊人さんだって13歳くらいの時はそれはもう、反抗期で。注意することは大事ですが、すぐに直らなくても大丈夫です。いずれ分かってくれますから。大変でしょうけど。」
「君子さま・・・。」
未来はちょっと感動して言葉が出なかった。自分をねぎらってくれた事にもそうだが、なるほど、尊人もそうだったのか、反抗期なのか、いずれ直るのか、という事に。
「さすが、君子さま。お聞きして良かったです。」
未来は頭を下げた。
君子を再び宮殿に住まわせようと考えた未来だが、それは叶わなかった。しきたりなど、いろいろあるらしい。国王の親ではないので、宮殿に住むことは許されないようだ。時々会いに来てくれるよう、お願いするにとどめた。
そして、「恩赦」の話が出てきた。代々、国王が即位した際には、政治犯などの囚人を何人か恩赦により無罪にするのだ。真っ先に候補に挙がったのは、もちろん国王の父、尊人である。尊人はクーデターを起こした罪人である。実際にはイギリスにいるが、国内で幽閉されている事になっている。なので、尊人を無罪放免にして、極秘に帰国させ、この宮殿に住まわせるというのが一つ。そして、もう一人は瑠璃子だ。尊人の命を狙い、立てこもり事件を起こして自分が国王になろうとした瑠璃子。瑠璃子に関しては意見が割れた。未来も、無罪放免にして、公務を行ってもらうのには抵抗があった。
「遥貴、瑠璃子様の事は聞いたことあるか?」
未来が聞いてみた。
「瑠璃子さん?ううん、ないよ。」
「そりゃそうか。国王だった事さえ知らされてなかったんだもんな。」
未来はそう言うと、瑠璃子が尊人のいとこであること、瑠璃子が尊人の命を狙ったいきさつなどを話して聞かせた。
「罪を許すか?って言われても困るよな。」
一通り話した後、未来がそう言うと、遥貴は
「瑠璃子さんに会えるかな?会って、話してみたいな。それから考えてもいいんじゃない?」
と言った。ちゃんと自分で考えようとしている、と未来はこっそり驚いた。
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