第26話 クーデター~浅薄3

 9月中旬、任命式のために、新しい大臣たちが続々と宮殿に到着した。尊人は燕尾服を着て、謁見の間に待機していた。報道陣が10人ほど入り、近衛兵は部屋の壁に沿ってずらりと並んで立っていた。実は、いつもよりも多い。20人ほどいる。首相のSPは中に入るものの、入り口付近に3人ほど立っているだけだった。

 任命式が始まろうとした頃、食事係の職員が素っ頓狂な声を出した。

「あら、これ首相の忘れ物じゃないかしら?あらやだ、どうしましょう!」

それを聞いて、首相のSPの3人はそろってドアの外を覗いた。その時、健斗が3人を部屋の外へ押し出し、強引に扉を閉めた。

「何だ!?」

SP達は訳が分からず、扉を見つめて佇んだ。さっきの素っ頓狂な声を出した職員は既に姿を消していた。

 謁見の間では、尊人の合図で、近衛兵たちが一斉に大臣たちを取り囲んだ。

「何だ?どうしたのだ?」

大臣たちは何が起こったのか分からず、きょとんとしている。

「皆さん、私はクーデターを起こします。恐れ入りますが、行政府の権限を、私に今、譲っていただきたい。」

尊人が言った。報道陣から「えっ」という驚きの声が漏れた。

「陛下、このような事をして、一体何を考えているのです。」

首相が言った。

「私は、再三王制の廃止を訴えてきましたが、全く聞き入れてもらえませんでした。話し合いがなされているようにも思えません。そこで、私が行政権を得て、その私が王制を廃止すればよいと考えたのです。」

尊人が言った。すると、首相は近衛兵の静止を振り切るようにして、前に出てきた。

「もし、断ると言ったら、どうなさるおつもりですか?」

すると、首相ののど元に、藤堂が短刀を突き付けた。

「大人しくしてください。誰も怪我をして欲しくないので。」

尊人が言った。場内がざわつく。どうしても、武力行使が必要なようだ。

「こんなことをして、ただで済むと思っているのか!」

首相は声を荒げた。生中継ではないものの、テレビカメラは回っている。

「陛下、何が不満なのです。自由が欲しいのですか?けれども、陛下は何かをしたいなど、訴えた事はないではありませんか。何かしたい事があれば、出来る限り叶えて差し上げますのに。」

首相はそれでも果敢に言葉を発する。

「私はただ、人間になりたいのです。お飾り人形ではない、自立した人間に。私には、苗字すらない。・・・王制を廃止する。それを叶えてもらえないなら、あなた方を拘束し、この先の政治を私が行います。」

尊人はそう言い切ったが、他の大臣も黙ってはいなかった。

「無茶だ!陛下お独りで政治を執り行うなど、できっこない。」

「そうです、陛下。無理です。」

「分かっています。だから、すぐに政権はお返ししますよ。ただ、王制の廃止だけを進めるのです。」

尊人がそう言った時、広間の扉がバンと開いた。続いて、銃を持った部隊がゾロゾロと入ってきて、尊人や近衛兵たちに銃口を向けた。盾を持った人員も同時に配置され、後ろから警察官が叫んだ。

「首相!何が起こっているのですか?」

首相は、横でまだ短刀を手にしている藤堂をちらっと見て、

「クーデターだ。」

と静かに言った。

「警察諸君。大臣たちを危険に晒したくないなら、退いてください。」

「陛下、そういうわけにはいきません!どうか、思いとどまってください!」

警察の指揮官がそう言ったが、尊人は譲らない。すると、報道陣がそろそろと部屋の外に出始めた。警察が支持したのだ。これから決戦が行われる。武力行使せざるを得ない状況になってしまったのだ。

「こっちには人質がいるんだ!この部屋から出て行かないと、首相の命はないぞ!」

藤堂は、改めて短刀を首相ののど元に突き付け、そう言った。

「たとえ私を殺しても、クーデターなど成功しない。」

首相が言った。

 戦闘が始まった。但し、人質がいるので銃撃戦ではない。近衛兵たちは元々銃を携帯しておらず、持っているのは短刀のみ。けれどもそれを抜いているのは藤堂だけで、他は皆素手で戦った。警官隊の方は警棒を持っている。尊人も戦った。警官隊は尊人を捕らえようとするが、尊人も戦うし、健斗と未来が片時も離れず、尊人を守った。

 近衛兵たちはよく戦ったが、数の上で劣勢だった。疲れもあって、攻撃が鈍ってきたところを、二人一組になった警官隊に虜にされた。健斗と未来もとうとう手錠をかけられ、尊人は観念した。尊人には手錠はかけられなかったが、警官二人に連れられて、皆一緒に連行された。まさかの国王の逮捕。部屋の外にはまだ報道陣たちがいて、更に建物の外には大勢の野次馬やマスコミ関係者がいて、フラッシュの嵐を浴びた。皆警棒で殴られて顔などは傷だらけだ。尊人の額にも血が滲んでいた。

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