第27話 逃避行~分岐1
クーデターを起こした実行犯は皆捕まり、尊人も監禁された。そして、その事で国会に王制廃止案が発議された。いずれにしても、このまま尊人に国王を続けさせるわけにはいかず、代わりを見つけるのも難しく、結果、賛成多数で可決された。つまり、この国の国王制は廃止されたのだった。尊人は、とうとうやり遂げた。だいぶ荒っぽいやり方であったが。
裁判が開かれ、尊人は、近衛兵全員の無罪を求めた。自分が画策し、支持した事であり、立場上逆らえなかった者たちばかりだからと。首相に刃を突き付けた藤堂は、執行猶予付きの有罪判決が出されたが、他の者は全て無罪となった。皆釈放されたが、尊人だけは自由の身にはなれなかった。処遇が決まらないのだ。刑務所ではないが、結局宮殿に監禁状態になった。これでは今まで以上に不自由になったという事になる。
宮内庁が解体された。元王族は、それまで行っていた公務から全て撤退し、ゆえに収入も失った。だが、人道的に問題があるとされ、博物館の館長とか、学会の会長職など、それぞれが何かしらの役職にあてがわれた。これで職が無くなったのは尊人だけになった。母の君子も職を得た。尊人は、一部の身の回りの世話をしてくれる公務員以外、会える人はおらず、ただ、自分の部屋で過ごした。
「結局、自由にはなれませんでしたね。」
女性の世話役がそう話しかけると、
「そうですね。でも、人形ではなくなりました。操られてはいないから、少しはましになりました。」
尊人はそう言って儚く笑った。
健斗と未来は実家に帰った。だが、尊人の事を想うと居ても立ってもいられず、職を探す気にもなれなかった。二人は連絡を取り合い、合流した。
「なあ、未来。俺たちはどうしたらいいんだ?」
「・・・どうしようもないだろ。何もできない。」
「また、あの時みたいに救い出すか。中東の時みたいに。」
「無理だろ。この国のセキュリティを甘く見るなよ。」
未来はそう突っ返したものの、ふと宮殿の警備について考えた。
「いや、そうでもないか。それほど厳重に守られているとも思えないし。」
未来がそう言うと、健斗は
「国にとっちゃ、尊人は邪魔な存在だろ?居なくなってくれたらホッとするんじゃないか?」
と言う。
「救い出せたら、どうする?外国に行くのは難しいんじゃないか?空港でもどこでも、出国審査に引っかかる。」
「尊人はパスポート持ってないしな。」
二人は考え込んだ。しかし、宮殿から連れ出す事は出来そうな気がしてきた。だが、この国にいては、あまりに国民に顔を知られていて、尊人が自由に生きられるはずはない。何とか国を抜け出す手立てはないか、二人はああでもない、こうでもないとしばらく話し合った。
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