第24話 クーデター~浅薄1

 犯人グループは捕まって、事件は一件落着し、尊人たち一行は国に引き返してきた。当然、国に帰れば報道陣が待ち構えている。飛行機の中で、つかの間の安らぎの時を過ごす尊人であった。

「上手くやったわね、尊人さん。でもほんと心配したのよー。」

麗良はいつも明るい。けれども、麗良自身もこれからの事が不安でないはずはない。

「麗良さん、君は、実家に帰るかい?我が国の国籍がない状態だけれど、だからこそ結婚した事にもなっていない状態だし、復籍すれば元通りなんじゃないかな?」

尊人が言うと、

「私ね、どこか海外へ行こうと思うの。イタリアがいいかなあ。イタリア国籍を取得してさ、向こうで生きるわ。だって、今の国じゃあ、有名過ぎて息が詰まるもの。フランスもいいわね。」

「麗良さんなら、どこでもやっていけるだろうね、きっと。」

未来がそう言うと、麗良は未来と健斗を順番に見た。

「あなたたちはどうするの?二人は国籍があるんだし、ただ就職先を探せばいいだけよね。けど、尊人さんは国籍がない。尊人さんもどこか海外で国籍を取得した方がいいんじゃないかしら。」

そう言って、今度は尊人の方を見た。

「有名なのは、私以上なのよ。」

麗良は大真面目な顔で言ったが、尊人はふふふと笑った。

「私は、王族の皆さんに対しての責任がある。自分だけ外へ逃げるわけには行かないよ。」

「・・・「私」モードになってるわよ、尊人さん。・・・責任、か。」

麗良は、最後の方は独り言のように言った。

「もうお別れね。最後に、これだけはさせて。」

麗良はそう言うと、尊人の顔に顔を近づけ、キスをした。健斗と未来はぎょっとして凍り付いた。唇を離すと、麗良は健斗と未来の驚きの顔を見て、にやっと笑った。

「いいじゃないの。私と尊人さんは結婚式まで挙げた仲なのよ。ねえ?」

といい、尊人に向かって同意を求めた。尊人は穏やかに笑った。


 無事本国に到着し、空港に降り立った。報道陣に囲まれたが、政府の出迎えがあり、規制が張られていたので、写真を撮られるのみだった。今まで通りに警護されながら宮殿に帰ると、そこへ首相が会いに来た。

「陛下、この度は大変でございましたね。ご無事の御帰国何よりです。」

そう言って、深々とお辞儀をした。

「首相、私の言葉は聞きましたか。勝手をして申し訳なかったが、もう私は国王ではない。この国に国王はいなくなりました。」

尊人が静かに言うと、首相は頭を上げ、尊人の目を見据えてこう言った。

「陛下。あの時はよく機転を利かせて乗り切ってくださいました。けれども、あなたが国王を辞めるとか、王制を廃止するとおっしゃったところで、何も変わりません。」

首相は更に、語気を強めて言う。

「あなたもご存じだったはずです。政治的権限のないあなたが、何を言っても変わらないのです。」

尊人は、眩暈を感じて目を閉じた。実際に倒れそうになって、健斗がさっと背中と腕に手を添え、支えた。そして、首相はさらっと言う。

「あんなことがあって、予定が大幅に変更になりましたが、明日もまたご公務がありますので、職員に伝えておきます。今日はごゆっくりお休みください。では。」

首相は一礼して去って行った。

 尊人は何も言わずに部屋に戻った。健斗はまだ尊人を支えていた。部屋に入り、未来が尊人の着替えを手伝う。

「尊人、大丈夫か?」

健斗が手を離して言う。尊人は佇んだまま、動かなかった。

「尊人?」

未来が着替えを用意して声をかけたが、尊人はすぐには答えなかった。

「・・・俺は、バカだった。これで終わった気になっていた。けれど、何も変わっていないじゃないか。何も・・・。」

尊人はソファにどさっと腰かけ、顔を手で覆った。

「尊人。」

健斗が隣に腰かけ、尊人の肩に手を回した。その手に力を籠める。

「もう手はないのか?俺には、この現状から逃れる術はないのか?」

尊人が充血した目を上げ、未来を見た。未来は尊人の前に立ち、その視線を受け止め、考えを巡らせた。

「クーデター、かな。」

未来が静かに言った。

「クーデター!?」

小さい声で、しかし驚いたように健斗が言った。

「一時的に権力を掌握し、その上で王制の廃止を宣言する。そして、元通りにする・・・と言っても、これは危険だ。武力行使すれば、反撃される恐れがあるし、失敗すれば罪人だ。協力してくれた人も巻き込んでしまうし。」

そう言って、未来はまた考え込んだ。

「それしかないか。」

尊人がそう言ったので、未来が慌てて、

「ちょっと待て、よく考えよう。他に手があるかもしれない。」

と言った。だが、尊人は、

「もう待っていられない。俺は嫌なんだ!こんな、人形のような生き方は!ただ、人間になりたいんだ。」

頭を掻きむしりながら、尊人はそう言った。健斗は力いっぱい尊人を抱きしめた。

「やろう、クーデター。尊人を救う以外に俺のやるべき事はない。」

健斗が言った。

「いや、だけど・・・いいのだろうか。分からない。」

取り乱した尊人を目の前にして、未来の思考も働かない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る