第15話 嫉妬~トライアングル2
翌日、変化が現れた。健斗は、麗良に話しかけられてもあまり受け答えせず、事あるごとに尊人の近くへ寄って、世話を焼くのだ。
「尊人、大丈夫か?」
「え?ああ、大丈夫だ。」
尊人はきょとんとしていた。
「尊人、これは俺が持っていくから。」
「ああ、ありがとう。」
流石に、尊人にも昨日との違いが分かってしまった。尊人は、未来にこっそりと言った。
「未来、健斗に何か言ったのか?」
「いや、まあ。麗良さんをどう思っているかを聞いたんだが。」
未来は、この場で話す内容でもないので、それ以上は口をつぐんだ。
「ああ、そうか。」
尊人もそれ以上は聞かなかった。麗良の方は、急に健斗に避けられたものだから、当然不機嫌である。尊人は、それも気になった。
「健斗、話がある。」
尊人は公務中だが、尊人を呼び出した。
「何だ?」
「健斗、麗良さんの事だが、お前、急に彼女を避け始めたよな?」
「それが何か?」
健斗はちょっと怪訝そうな顔で尋ねた。
「麗良さんは、形だけ俺と結婚して、ずっとここで暮らさなければならないんだ。楽しくなかったら気の毒だと思って。」
尊人がそう言うと、健斗はみるみる顔色を変えた。そして、尊人の顔の横の壁にドンと手をついた。
「尊人、それは、俺に麗良さんの相手をしろって事か?彼女の愛人になれと?」
「そ、そういうわけじゃ。」
尊人はびっくりして肩をすくめて、怯えているような格好になった。
「俺はただ、麗良さんが楽しく過ごせるようにと思って。」
尊人は泣きそうな顔をした。健斗は壁から手を離し、その手で尊人の頭を撫でた。そして、そっと尊人を抱きしめた。
「ごめん。怒ってないよ。」
健斗が優しくそう言うと、尊人は健斗の背中に手を回した。しばらく二人で抱き合って立っていると、未来が二人を探しに来た。二人で話しに行ったのは分かっていたが、遅いので心配になったのだった。そして、二人が抱き合っているのを見て、
「お前らー!公務中に何やってるんだ!」
と、怒鳴ったのだった。それで、二人は離れたが、どや顔すると思った健斗が、思いのほか辛そうな顔をしていたので、未来はおやと思った。尊人も、やはり浮かぬ顔をしていた。
「どうしたの?尊人さんから何か言われたの?」
麗良は、健斗が今日初めて自分の近くに来て立ったので、声をかけた。どう見ても浮かぬ顔である。
「いや、別に。」
「尊人さん、私にも優しいのね。あなたに、私の相手をするように言ったんでしょ?」
健斗は麗良の顔を見た。
「ああ、尊人は優しいよ。立派な国王だ。だが、恋心は何にも分かっちゃいない。」
健斗が憮然として言うと、
「あはははは。」
麗良は笑った。
「そうね。健斗さん、かわいそう。あははは。」
「笑うな。」
健斗が口を尖らせて言うと、
「ごめんなさい。でも、間違いなくここ数日、あなたの事を気にしていたわよ、尊人さん。私に取られたくないっていうのが本音でしょうね。」
「お前、大人だなあ、意外と。」
「問題は、未来さんよね。」
麗良は顎に手を当てて、考える仕草をした。
「え?未来が何?」
「尊人さんが健斗さんを好きなのは、おそらく間違いないわ。でも、未来さんの事はどう思っているのか、そこが問題。次は未来さんを・・・。」
「お前なあ、それやって何か得するのか?」
健斗が呆れ顔で言った。
「尊人さんには、幸せになって欲しいじゃない。」
「・・・案外、優しいんだな。」
健斗は面食らった。
「暇だし。」
こそっと添えた麗良の言葉は、健斗の耳には届かなかった。
そうして、次のターゲットは未来に移った。麗良は事あるごとに未来に話しかける。健斗はにんまり。未来は困惑顔だ。何か言いたげに、未来はちょくちょく健斗の顔を見た。
「ざまーみろ。」
健斗はこっそり呟いた。
「何の魂胆があって、こんな事をする?」
未来は、他に人がいないのを見計らって、麗良に言った。
「あら、健斗さんから聞いてないの?これはね、尊人さんの想いを確かめるためにしている事よ。」
「は?」
未来は意表を突かれた。麗良が、気まぐれに男をもてあそぶつもりか、あるいは健斗が麗良になびかないから、今度は自分の所へ来たものと思っていたのだ。健斗め、なぜ話さなかったのだ?
「でも、あなたには気の毒だけど、今度はジェラシー感じていないみたいね。尊人さん。」
「なっ!」
がーん、と顔に書いてある。
「まあでも、2度目だから、尊人さんにはバレちゃったかな?私が本気じゃないって事が。」
麗良はふわりと笑う。未来は何か言う気力もない。
そこへ、尊人がトコトコとやってきた。
「未来、ちょっと来てくれ。」
「あ、ああ。」
未来は、尊人の後について行った。何事かと心配していると、ある程度行ったところで尊人が立ち止まり、振り返った。
「尊人、どうした?」
未来が心配顔で尋ねると、尊人はひょいっと目を反らした。
「いや、別に・・・。何もない、けど。」
「え?」
未来はその場で一瞬固まった。尊人は手を後ろに組んで、足元を見ている。これって、もしかして、もしかして・・・。
「俺を、麗良さんから引き離したの?」
未来がそう尋ねると、尊人はこくっと頷いた。未来はがばっと尊人を抱きしめ、ぎゅーっとした。
それを、遠い後ろから麗良がそっと見ていた。
「良かったわね、未来さん。でも、これでやっぱり分からなくなったわ。すっかりがっちり三角関係ね。」
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