第14話 嫉妬~トライアングル1

 結婚してからは、毎日のように夫婦そろって公務に出かけるようになった。そして、これも天性のものなのか、麗良はちゃんと、内と外とで親しくする相手を分けるようになっていた。つまり、公務中は尊人と仲睦まじい様子を演じ、傍に控えている健斗や未来には言葉をかけるどころか、見向きもしないが、宮殿に帰ってきてからは、尊人とは話もせず、健斗にばかり話しかけるようになっていた。

 尊人は、食事などで麗良と席を共にしている時も、麗良が事あるごとに健斗に話かけて笑い合ったりしているので、どうしてもそちらを気にしてチラチラと見てしまう。それを、未来が気にしてチラチラと見ていた。未来からすれば、尊人が健斗のためにジェラシーを感じているのではないかと気にしてしまう。けれど、それを認めたくない自分がいる。この件に触れて、尊人がジェラシーを感じている事がはっきりしてしまったら、立ち直れない気がした。それに、健斗が麗良にかまわれている間は、自分が尊人を独占できるので、この状況を変えるように働きかけることは、自分の不利益になる。だからしばらくは傍観していた。

 だが、傍観してもいられなくなった。部屋で尊人と未来が二人になっていた時に、尊人が未来に言ったのだ。

「最近、麗良さんは健斗によく話しかけるよな。もしかして、麗良さんは健斗の事が好きなのだろうか?」

「・・・。」

とうとう、この話題に触れなければならない時が来てしまったようだ。

「そうだろうな、多分。尊人は、健斗を取られたくない?」

未来が尊人に問うと、尊人はそう聞かれるとは思っていなかったのか、驚いて目を泳がせた。

「いや、そういうわけで言ったんじゃ・・・。べつに、健斗は俺のものってわけじゃないんだし。もしあの二人が恋愛関係になったとしたら、どうなるのかなって。」

「どうなるって?」

「もう麗良さんは俺の奥さんって事になっているわけだから、健斗と結婚は出来ないわけだろ。」

「国王が好きな男を侍らせていいんだったら、王妃だっていいんじゃないか?」

「ああ、そうか。」

未来は、尊人が聞きたい事はもっと違う事だと分かっているのに、ついこんな風に冷たく言ってしまう。本当は、こう言って欲しいはずだ。健斗は麗良の事なんて好きじゃない、健斗が好きなのは尊人だけだよ、と。

「健斗に聞いてみようか?麗良さんをどう思っているのかって。」

未来が、それでも放っておけなくてそう言ってみると、尊人は黙ってしまった。聞いて欲しいのか、聞いて欲しくないのか。

「・・・自分で聞くよ。」

「いや、尊人は聞かない方がいい。」

未来は即座にそう言って否定した。尊人が健斗にそんな話をしたら・・・二人の関係が急速に発展してしまうかもしれない。けれども、最近の健斗は麗良に対してけっこう優しい。麗良は意外と芯のしっかりした女性で、健斗の好みに合っているのかもしれない。これは、案外二人がくっつく可能性もあるのか?未来は本当に、健斗が麗良をどう思っているのか、知りたくなってきた。

「健斗がショックを受けるといけないから、俺から探りを入れてみるよ。後で教えるから、ね。」

未来はそう言って、尊人をなだめた。

「うん。」

尊人が可哀そうに感じて、未来は尊人をぎゅっと抱きしめた。


 健斗と未来が仕事を終えて自分たちの部屋に戻る時、未来は早速切り出した。

「お前、麗良さんの事、どう思う?」

「どうって?」

健斗は取り乱すこともなく、普通に聞いてきた。

「最近、麗良さんがお前にばかり話しかけるだろ。それって、麗良さんがお前の事を気に入ったからだと思うのが普通だろ?尊人だって・・・。」

「え?尊人が何?尊人が何か言ってたのか?」

案の定、尊人が出てきた時点で急に健斗は動揺した。

「尊人も、気にしてたぞ。麗良さんは健斗の事が好きなのかなって。」

「尊人が、そう言ったのか?」

「ああ。」

「それって、俺の事を気にしてるって事だよな?やきもち妬いてくれたって事かな?」

健斗の顔が緩む。未来の顔は反対に渋くなった。いや、苦くなった。苦虫をかみつぶしたような顔。

「面白くない。」

未来が憮然として言った。もうこの時点で、健斗が麗良ではなく、尊人が好きって事が分かってしまった。それも面白くないが、ただ単に、健斗を喜ばせてしまっただけになってしまって、不本意だった。

「麗良さんの事は、どうなんだ?一応聞くけど。」

未来が言うと、

「どうって・・・。まあ、意外と面白い子だな、とは思うけど。」

「面白い?」

「うん。おっとりしているようで、頭の回転が速いし、良く笑うし。」

「ふうーん。」

未来はにやりとした。これは、案外感触が良いようで。

「あ、でも尊人には言うなよ。誤解されると困るし。」

健斗が慌てて言った。

「誤解か?」

未来がいたずらっぽく笑う。

「あしからず。聞かれたら、言う!」

未来は人差し指をぴっと立て、健斗の顔の前に突き出した。

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