第12話 婚礼~内情5

 麗良が父母と共に宮殿に呼ばれ、君子と尊人に対面することになった。もちろん、いつも尊人の傍についている、健斗と未来も同席した。

 写真では麗良の事を見ていた面々だが、実際に会って、話すところを見て、皆驚いた。

「君子様に、似ている・・・。」

小声で、健斗がつぶやいた。

「ああ。雰囲気がそっくりだ。」

未来もこっそりと応じた。

 顔ではなく、話し方、醸し出す雰囲気。未来は尊人の横顔を少し後ろから眺めた。尊人はじっと麗良を見ていた。尊人は、女性に興味がなくとも、母親である君子を愛している事は間違いない。君子に似ている女性を、邪険に扱ったりはしないだろう。これが、麗良がお妃に選ばれた最大の理由だろう、と未来は納得したのだった。

 結納に相当する、納采の儀が行われ、華やかに報道された。そして、麗良が卒業した3月の下旬、早々に婚礼の儀が執り行われた。麗良は、朝比奈家の戸籍から抜かれ、戸籍のない、我が国の国民ではない存在になったのだった。


 4月の吉日、ご成婚パレードが催され、国中がフィーバーした。尊人と麗良はオープンカーに乗って街頭を進んだ。そのオープンカーは未来が運転し、健斗が助手席に座っていた。街頭では、国民が大勢集まって旗を振った。主役の二人は、それぞれ精一杯国民の歓声に応え、笑顔で手を振った。振り続けた。

 宮殿に帰ってきた二人は、やっと儀式から解放され、それぞれの部屋に入って衣装を脱いだ。夜にはやはり晩餐会が開かれるので、ほんの数時間の空き時間が出来たのだった。健斗と未来は尊人の身支度の世話もあって、尊人の部屋に一緒に入っていた。

「ふぁー。いつになく疲れた。」

尊人がそう言って、ベッドにぐったりと横たわった。

「晩餐会のための着替えは5時半からしよう。それまでゆっくり休んでいていいぞ。」

未来はそう言いながら、尊人の次の服を出してハンガーラックに掛けた。健斗はベッドサイドに腰かけ、尊人の頭を撫でた。尊人が目を閉じると、部屋のドアをノックする音がした。

「あれ?誰だろう。」

未来がドアを開けに行く。すると、ドアの外にはなんと麗良が立っていた。

「麗良、さん?どうしてここに?」

未来が驚いてそう言うと、尊人はぱちっと目を開けて跳び起きた。

「来ちゃった。うふ。」

麗良は髪を下ろし、ゆったりとした部屋着を着て、そこに立っていた。

「来ちゃった、って。」

未来は困惑顔で尊人を振り返った。尊人は、その未来の困惑顔を見て、ぷっと噴き出した。

「麗良さん、どうぞ。」

尊人はそう言って、ベッドからソファへ移動した。そして、麗良にソファを勧めた。麗良はくつろいだ様子でソファに腰かけた。

「なんか・・・今までとイメージ違くない?」

健斗が尊人の後ろから、麗良を盗み見るようにして言った。未来はコーヒーを4人分淹れて、カップを片手に2つずつ持って来た。

「どうぞ。」

未来が麗良にコーヒーを渡すと、

「ありがとう、未来さん。」

と言って、未来にニッコリと笑いかけた。そしてカップを受け取ると、尊人の方を見て、

「尊人さんって、本当に男性がお好きなの?」

と聞いた。

「ゲホッ、ゲホ。」

3人は、思わずコーヒーにむせて咳き込んだ。

「あら、大丈夫?」

麗良はやはりニコニコしている。

「健斗さんと未来さん、どちらかが恋人なの?それともお二人とも、そういう関係?」

言っている事は大胆だが、悪びれず、ケロリとして、むしろ上品である。3人は一瞬ポカンとしたが、我に返ると急にせわしなくお互いの顔を見合った。そして、尊人が口を開いた。

「あの、その事だけど、俺は実は、男性が好きなわけではないんだ。」

と尊人が言ったので、健斗と未来はハッとして尊人を見た。

「ちょっと待てよ。だって、男性と結婚したいって、首相に言ったじゃないか。」

健斗が思わずそう問いただすと、

「あの時は、首相を困らせようと思って言っただけだよ。結婚しないって言っても押し切られるだけだと思って。」

それなのに、こんな事になってしまったけれど。

「そう、なのか。」

健斗はそれ以上言葉が見つからないようだった。

「そうなの。それじゃあ、女性は好き?」

麗良が尊人に聞いた。

「さあ。女性にもあまり興味がない。」

尊人はあっさりと言う。

「そうなんだ。じゃあ、どっちに転ぶかまだ分からないわね!」

麗良は楽しそうにそう言った。

「ああ、でも・・・君には申し訳ないけれど、この結婚は・・・。」

「分かっているわ。私たちは形だけの夫婦なのよね。私はお飾りの王妃。ビジネスパートナー。でしょ?」

麗良はそれこそあっさりと言った。

「そう、だね。あの、君はそれでいいの?今更だけど。」

尊人は遠慮がちに聞いた。

「私は元々結婚する気はなかったの。外交の仕事がしたかったから、いいのよ。」

「ああ、でももう一つ、君に言っておかなければならない。君は、王妃でいる時間は短いかもしれない。」

「え?どういうこと?王妃を取り替えるの?」

「違うよ。実はね、今後、この国から国王を無くそうと考えているんだ。」

「はい?」

麗良は目が点、という顔をした。そして、ぱちぱちっと瞬きをして、

「それはつまり、尊人さんが国王を辞める、という事?」

と言った。

「そう。我が国は、国民が選挙で選んだ代議士によって、政治が行われているだろ。国王には権力はなく、いや、人権すらなく、ただ国民の象徴だと言われて、毎日毎日式典だ外交だと駆り出されている。世襲制で職業選択の自由はなく、反対に国民がこの国王が嫌だと思っても、替える術がない。今の世の中に、このシステムが必要だとは思えない。外交も、やりたい人が職業としてやるべきだ。我々王族を税金で養うのを辞めれば、むしろ国費もかからないだろう。我々王族は、生まれながらにして囚人と同じ扱いを受けている。もう、解放してもらいたいんだ。」

麗良はじっと尊人の話に耳を傾けていた。そして、尊人が言葉を切ると、視線を落とし、何かを考えているようだった。

「分かったわ。尊人さんの言う事は、私も正しいと思う。そういう事なら、私もそのお手伝いをさせてもらうわ。一緒に、王制を終わらせましょう。」

「協力してくれるの?」

尊人が驚いて聞いた。

「ええ、もちろん。私はあたなの味方よ。」

ああ、その言い方、やはり君子様そっくりだ、と未来は思った。一抹の不安がよぎる。意気投合して、この二人は本当の夫婦になってしまうのではないか。健斗を盗み見ると、あからさまに不安そうな顔で麗良を見ていた。それを見て、未来はふっと小さく笑ってしまったのだった。多分自分も同じ顔をしていたのだろう、と思って。

「それにしてもさ、君ずいぶん今までとイメージが違うじゃないか。今まで猫かぶってたのか?」

健斗が麗良に言った。

「猫?そうかしら?それも私、これも私よ。」

麗良はちっとも悪びれず、ふふっと笑った。ある意味、尊人と同じだ。時と場合によって言葉や態度を使い分ける。それを自然にやってのけるとしたら、本当に二人はお似合い。麗良は根っからの王妃なのかもしれない。

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